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第七章「希望はきっと打ち上がる」 八話



 酩酊する意識の中で、一振りは自分が死んだものだと覚悟していた。仲間たちも油断した隙に、いや、油断などしなくとも一瞬でただの肉塊へと変わり果てていったのをこの忍は見てきた。それが自分の番になったものだとでも考えていた。

 だが、死んでなどいなかった。上を見ると赤黒い腹が見える。どうやら大鬼が四つん這いで覆いかぶさっていたのだ。


「山王……山王、無事か」


 慌てて山王の下から出ると、肉の焼けたやけに鼻に残る嫌な臭いと、熱した鉄が雨に打たれているかのような異音の中……忍はそれを見た。

 一振りにも怪我はある。だが致命傷になっていないのは、この大鬼がとっさにこの無名の男を覆いかぶさり雷撃から庇ったからだ。変わりに大鬼の背は黒く焼け焦げ亀裂からマグマの様な赤い光が浮かんでいた。

 それは確かに致命傷になりかねない傷だった。


「山王、なにうえ敵である身共(みども)なんぞを庇った?」

「……逃げろ、忍。俺は大丈夫だ……それより逃げろ。俺に約束を果たさせろ……約定を破ったとなれば、先祖と子々孫々共に顔向けできん」

「――すまぬ」


 大鬼には驚くべきことにまだ意識があった。あの凄まじい紫電を身に受けて尚意識があるとは、鬼というのものはなんたる生命力だろうか。

 されど虫の息ではある……もう山王はこの場から動けないだろう。


「……あの青年は無事か?」


 一振りはその場に倒れる大鬼を横に天を見上げる。大鬼が掘り蟻地獄の様な地形になっていた場所は雷撃で更にその深さを増していた。

 それを一足飛びで上がろうとして、足に痛みを感じて一振りが止まる。比較的軽傷に見えるがあの大鬼に庇われたとてやはり、それなりの怪我はあるらしい。

 頭から砂を落とされた虫みたいに穴から這いあがり、一振りが最初に見たものは紫色をした旗であった。それに彼は覚えがあるらしい。


「久しぶりだな。巫女仕え……いや、元、巫女仕え」

「やはりあの雷は貴様か、利刀(りとう)。山王共々この身に雷激を浴びせたか」

「ああ、戦いを見ていたが勝ちそうになかったんでな……手を、貸してやったんだ」

「ぬけぬけと……」

「おっと動くな。理由は言わずともわかるな?」


 一振りが森を一瞥すると、草木の茂みから伸びる数多くの銃口が確認できた。笠を被った男共がこの伐採場と森の境目から一振りに銃口を向け、半円状に広がっていたのだ。

 そして、そんな者たちを率いていると思われる男が、黒雨に打たれながら一振りから十メートルほど離れた位置で、やたら“古い剣”を杖変わりにしながら腐った切り株に腰掛けていた。

 青と黒の具足と籠手、そして何より紫の炎を逆立てた髪の様に噴出するその男はひと際、異質であった。刀を腰にぶら下げているところ見るに侍か何かだろうが、人かどうかも怪しいそれは意外にも親し気に一振りに話しかける。大鬼と同じくこの無名の忍とは既知らしい。


「まさか女狩りの帰りにお前と遭遇するとはな。今日も俺は吉日らしい」


 紫炎の髪を持つ男は黒雨に打たれるとそれをすぐさま蒸発させていた。髪だけではなく体も熱いらしく全身が黒雨を蒸発させている。もしや人間ではないのだろうか?


「女狩りだと……ここいら近辺の村などもう鬼共のものしかないはずだ」

「それは間違いだ。鬼共と、お前が隠れ潜んでいる里の二つだろう?」


 その言葉に一振りが殺気立ち、刀を構える。だがその折れた刀で何ができようか。銃に囲まれたこの状況では遠くで切り株に座る男にも威嚇にすら使えない。


「おいおい、早とちりをするな。あそこの……森の牢車に押しこめた女共は別に隠れ潜んでいる元巫女仕え共から連れ去った訳じゃあない。そう……遠方だ。山を越え谷を越え、少し足を伸ばせばまだ人はいる。そこから連れ去ってきただけだ」

「遠方だと? 利刀、貴様。()つ国に出向いてまで攫ってきたのか。(いくさ)を引き起こす気か!」

「戦だと? 戦う気力がある奴など鬼共とお前ら以外にいるものかよ。健康な女を求め久方ぶりに外に出て遠方にまで足を運んだが、穢れ虫の雲は途切れはしなかった。どこもかしこも黒雨に打たれ戦争はおろか国として最低限の機能すらしていない」


 空を指さして利刀はそう語る。と、暗雲の中で巨大な線状の何かがうねる様に現れる。あれが穢れ虫だというのだろうか? ならば、この雨の原因は――。


「だとしても外つ国の民には我らの国とは関係無い。そんな者らを攫うなど――」

「これだから良家に生まれた人間は……いいか? ほとんどの民草にとって戦争なんぞ無関係で迷惑千万なのは“当たり前”だ」

「なんだと?」

「お前は生まれた時から大人になれば戦争を起こすか起こせるか意見できる立場を約束されていたから、そんな言葉を吐けるんだ。卑賎な生まれの俺から言わせれば戦なんぞ理屈なんぞ通じん理不尽の塊でしかない。大体、国抱えの隠密衆の家に生まれ殺しを生業にしてきたくせにそんな綺麗事を口にされても説得力が無い!」

「断じて無益な殺しなどしてこなかった!」

「ならばこちらとて必要なことをしているだけだ。穢れ払いの贄はこの地で生まれる清い女と女児を全て贄にしても足りないのは明白だ。たまにこの地に迷い込む馬鹿だけでは足りないからな。まぁ、最近はそんな馬鹿が多かったらしいが……文で知ったが最近やけに変な女共が来るらしいな。もしや、お前の知り合いか?」

「……」

「なんだ、黙るなよ。そっちの質問に答えてやったんだからこっちの質問にも答えてもらわないと不公平だろ? そのままお前たちが隠れ潜んでいる場所まで教えてくれれば俺も楽ができるんだが」

「……死のうとも口にするものか」

「だろうよ。そういう風に“作られている”よなぁお前は……捕らえて拷問をしても無駄だろう。ならば、ここで殺すのが最適解か」


 一振りが握っている刀の柄が込められた力により軋む。これで話は終わりだと言わんばかりにこの利刀という男がそのやたら古めかしい剣を振り上げたからだ。

 その古き県の材質は青銅ではなく“白い石”だ。ところどころひび割れたそれは太古の遺物であるようだがどうみても現役の武器らしい。

 現に、今も紫電を纏い先ほどあの大鬼を一撃の元に沈めた技を今か今かと放とうとしているのだから、それが証明だ。


「あの世で大切な巫女様に伝えておけ。お前たちが代々守ってきたこの国は、俺たち鴉がありがたく引き継いでいると……おっと」


 勝ちを確信した敵に、一振りは投擲を行う。持っていた折れた刀ではなく、長針の暗器であった。

 苦し紛れの投擲ではなく、完璧なタイミングでの正面からの“奇襲”ではあったのだが、古めかしい剣による紫電の放電が自動的にその鋭い一撃を消し炭にされた。


「っ……」

「はは、やはりお前は油断ならんな」


 紫電による自動防御。暗器の投擲ではこれを破ることなど不可能だろう。一振りが目を閉じる。自らの最後を悟り、そして――赤い線が宙を走った。


「がぁ!」

「なんだ!」


 利刀の驚いたような声に、一振りもその目を見開く。


「な……んだ、と! 俺の雷鳴剣を……砕いた!? 巫女仕え! 貴様ぁ、何をした!」


 それはまごうことなき激昂であった。先ほどまであった余裕など消し飛び、目を向いて一振りに詰め寄る。

 よほどあの古めかしい剣が大事だったのだろう。だがそれはもう粉々になっている。しかし、どれほど叫ばれたとてあの紫電の檻を貫通し破壊せしめる威力の飛び道具など一振りは持っていないどころか存在すら知らない。

 ならば、あの古き剣を撃ち抜いたのはきっと“この世にない物”であるのだろう。


「……もしや、あの青年か!」



 強襲する利刀という男と火筒部隊。女狩り、穢れ虫。そしてそれを払うべき巫女。

 開示されるこの世界についての情報の中、アラムは全てを無視して一発の弾丸を放つ。


 ……アラム君、こういうところあるから。生き残る為に全力投球するキャラだからね。仕方ないね!


 次回更新も翌朝八時十分を予定しております。

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