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第七章「希望はきっと打ちあがる」 五話



 その日の夜、武器だらけのこの小屋の中でアラムは真剣な顔をして一振りと向かい合っていた。

 絶望的な現在の状況に、一筋の希望が見えたことは素直に喜ばしいことだがもしこれが間違った情報でぬか喜びをして時間を浪費することは避けるべきである。

 なので、アラムは独断で自身の情報を開示する決心した。


「そのぉ、隠してたことがありまして」

「なんだ」


 少しだけ青年は言い淀み、油で満たされた小さな皿の灯りが揺れた。そしてその数秒後、意を決してこう切り出す。


「実は! こっちでも例の人を探しておりまして!」

「それは、一人で外に出たのか?」

「あ、いえ、これです」

「……それは、なんだ?」


 おずおずと偵察機を始めて恩人に見せるアラム。今まで隠していた罪悪感と気を悪くさせないかという不安で随分と下出に出ていた。


「これでその、ここにいながら人探しができまして」

「……」


 それに目を細め、眉間にしわを作り疑いの目でアラムを眺める一振り、この無名の男にとって初めて見る物体であり技術なのは間違いなのだから、無理もないだろう。

 だが事実なのだから隠していても仕方ない。そもそも、なぜアラムが今更自分の持ち物を明かそうと思ったのかというと、一振りの持ち帰った情報について疑いを持ったからに他ならない。なのでこれからする話の為に打ち明ける他に無かった。


「で、そのぉ、自分の方で結構気合を入れて調べたんですけど手がかりすら発見できていないので、その情報に間違いが無いのかよく……確認したくて」

「つまりは情報の整合性が欲しい、と? 聞きたいことは山々あるが、理解はした」


 散々自分が偵察機を使って周辺の岩の数まで把握できるほど地理を入念に調べて手がかりすら掴めなかったというのに、こうもあっさりと探し人を見つけてこられては恩人相手とはいえ疑いもしてしまうだろう。

 それを察してか、特に滞りなく一振りは必要なことをつらつらと話し始めた。


「では、先にこちらが入手した女人の特徴を言う」

「はい」

「そちらが提示した通り、長い黒髪を持っていたが……確かにそんなもの特に珍しくもない。他に特徴を伝える」

「ならその人が僕の探し人ならルアネさんか……(というかこっちの世界って黒髪は珍しくないのか……まぁ一振りさんも白髪交じりだけど黒髪だし、そうなんだろう)」

「まずは……黒く肩を露出した見慣れぬ具足を纏っていた」

「えーとぉ……それ、かなりルアネさんかと」

「さらに言えば、牢の中で見張りにその腰に下げた刀を寄越せ、それがあれば私は水無しで一週間は生きていけるなどと錯乱したことを――」

「あー……はい、ルアネさんです。それ間違いなく僕の仲間のルアネさんって人です。すみません……恩人相手を疑ってしまって」

「いや待て、情報のすり合わせは大事だ……そう易々と決めつけるものではない」

「いやぁ、そんなこと言う人例え世界を跨いでも一人しかいないとしか思えないと言いましょうか……それともそういうことを言う女性ってここら辺では珍しくないのですか?」

「まぁ……男女共に奇々怪々だろうな」

「なら、そう決めて行動しましょう。慎重に行動するのは僕も賛同しますが慎重すぎて後手に回った時の事態の悪化は取り戻し難いものですし……」


 神妙な顔つきでそう言うアラム。それに一振りは少しだけだが面食らったような顔をしていた。


「えっと、何か」

「いや、初めて草粥を持ってきた時も思ったが……またぞろ随分と、若者らしくないことを口走ると思うてな」

「それはもう後悔ばかりの人生ですので、言うことだけは立派なんですよ、ぼかぁ」

「……苦労したのか?」

「それはもう、しなくていい苦労ばかりを」

「無駄な苦労など無い」

「ありますよ。苦労にも質はありますから。ぼかぁ遠回りも空回りばかりで、たまに一を積み重ねられる程度で……それに自分が不甲斐ないばかりに養母にさんざん心配を掛けてしまいましたし、いや、今も掛けてますけど」

「そうか……だが、周囲を見れるだけ立派だと思うが」

「まさか、もう十九にもなるのに……あぁいや、止めましょう。今はルアネさんのことです」


 アラムがいつもの自虐を始めかけるも、すぐさま話題を軌道修正する。青年の言う通り今は一秒でも多く、ルアネの救出に頭を使わなければならない。


「ところでルアネさんが牢屋で騒いでたとしても、その声が届く距離にまで近づけたんですか?」

「ああ、だが助け出す機会には恵まれなかった……お前にも情報を伝えておきたかったのもあるが……だが再度侵入するのは容易い、敵地に潜るのに心得がある。あと、その女人が捕らえられている場所は陰陽術で秘されている。その……お前の絡繰りもそれに騙されたのだろう」

「陰陽術……」


 一応、アラムの作った偵察機ならば魔術でもある手度ならば通用はする。だが、あくまでもアラムの専門は科学、その陰陽術が青年の知る魔術体系から大いに逸れていれば偵察機が通用しなかったのも不思議な話ではない。


「一振りさんってその陰陽術も使えるんですか?」

「いや、ああいう術は不得手だ。だが、幼少の頃より見破る術だけは教え込まれた」

「教え込まれたって……どうしてです?」


 聞いたアラムだったがその表情に疑問の色は無い。今までの生活の中でこの男の正体に感づいてはいたのだろう。これはそれの確認作業だった。

 鍛冶に精通し、この歳でも鍛え続けた屈強な肉体を持ち並外れた諜報技術を要する男。ならば、この男の“本業”は自然と絞り込める。そういう存在がラウフの部下で、それに最近になって襲われた経験のあるアラムならば、なおのこと予測は容易かっただろう。

「なんということはない――この身はただ一振りの忍刀(しのびがたな)だというだけのことだ」





 忍者、別称で草に潜む者として草の者。または間者、隠密とも呼ばれる影の存在だ。

 情報戦術において重宝され、そして潜入、暗殺といった仕事を(にな)う者、それが一振りの生業でり本業あった。


「昨晩、何度も説明したが今から攻め込むのは鬼共の住処だ。お前は拠点外周で待機、必要であれば陽動や援護を頼む」


 鬼、そんな存在がこの世界に入るらしく、今からルアネを救いに行く場所はそんな者たちがいる場所らしい。

 一振りが最初、ルアネ救出を断念したのもルアネを助け出した後に人一人連れてそこから逃げおおせる確証が無かったからだという。


「それはもう頭に入ってますけど、つかぬことをお聞きしますが一振りさんってどうして忍者になったんですか? その、でれくらい長くやってるかで技術がどれくらいあるか知りたいんですけど」

(しのび)である理由など無い。ただ生まれがそういう家だっただけだ。元は国に古くから使えていた隠密衆だったが、今では落ちぶれあの小屋に住んでいる。腕は……そこそこだ」

「そこそこなんですか……一流的な雰囲気を感じてたんですが」


 昨晩の話し合いから十分な休憩と準備を経てルアネ救出の為に山の中を歩いていると、黒い雨が降る中で鉄傘から顔を覗かせて一振りはそう語った。

 時刻は明け方……とはいっても空はいつも通りどんよりとしているので朝か夜かなど理解できない。だがこの世界で生まれ育った一振りが明け方というのだから、明け方なのだろう。


「しかしこの森、ずっと同じような景色で迷いそうですね。撤退する時に一人になったら死にますね、これは」

「その……テイサツキなる絡繰りで地図を作っているのだろ? それに危険な生き物がいるのか事前に飛んで確認してくれるのならば、単独でも無事にあの小屋にまで辿り着ける」

「いやいや、いくら便利でも使ってるのが僕ですから、ここいらの獣の縄張りの境界線もどれぐらいしつこいか、またどの段階でこっちを気取れるかまったくわからないですよ?  足では絶対に敵いませんから逃げきれませんし、ちょっと慢心したら死にますよぉ」

「そうか……」


 いくら便利な物でも使う人間が一定のレベルに達していなければ宝の持ち腐れだとアラムは熱弁する。

 実際、数日前にここいらの野生生物の恐ろしさはその身をもって教えられたので、これはアラムのいつもする自虐というよりただの現実的な認識であるのだろう。


「目的地は敵の領地内にある村だ」

「敵って、一振りさんはその鬼と普段から戦っているんですか?」

「ここら周辺を調べたならば城も知っているな? あれは奪われた物で元は古くからここを納めていたこの一振りの元主君が一族が長きにわたり収めてきたの城と土地だ。鬼共はその簒奪者の手下だ。常日頃から、あれだけには正攻法では勝てぬので逃げの一手だが……」

「奪われた? 城をですか?」

「それもだが、尊厳もだ。長い話になる……目当ての女人を救出した後にでも語るとしよう。それより、ここから見えるぞ」


 見える、そう言われてアラムは周囲を見るも何も見えなかった。険しく人の手が入っていない山道、左を見れば岩肌の壁、右を見れば滑り落ちればただでは済まない急斜面と葉っぱを全て落とした木々しか確認できないのだ。


「えっと、何も見えませんけど」

「いや、陰陽の偽装もここまで大規模な物となれば(ほころ)びる。あの木々の間をよく見ろ」


 もう一度そう言って一振りはある木々の間を指さした。


「……あれ? 柵?」


 確かに、周囲には手付かずの自然があるだけだったはずだ。なのに確かにその木々の間からは木製の刺々しい柵がはっきりと確認できるのだ。


「あれが陰陽術の綻びですか……確かにあそこから覗いたら物騒そうな村が見えますけど……こんな隠された場所、よく一振りさんは見つけられましたね」

「見破り方さえわかればそう難しいことはない。獣道が無かったり、ここいらには生えていない茸が結界術により幻となり見せらたり……陰陽の術は優れていても、自然に対しての知識がまるで無い」


 村を隠すはりぼてのクオリティーがやたら低いということらしい。他の知識をもってよく観察すればどれほど成功に視覚を騙そうと簡単に見破られると一振りは語る。


「じゃあこの陰陽術で村を隠したのはこの里に住む方じゃないんですかね?」

「鬼共は力こそ恐ろしいが術は不得手だ。おそらくは城に住まう陰陽連中なのだが、外になど出ない者らゆえ、そういった知識が欠落しているのだろう。それはさておきそろそろ忍び込む。笠があるとはいえこの黒雨に長い間体を晒すのはあまり良くはない……」


 そう言って準備作業を始める一振り、とはいってもいつでもあの村に忍び込む準備はできているので装備の確認をするだけなのだが、如何せん装備の数が多かった。

 忍者は軽装というイメージがあるアラムであったがどう見ても一振りは重装備といえる。鉄の笠、籠手と木製の拗ね当て、そして鎖帷子(くさりかたびら)を着ているのも小屋から出発する前に確認している。


「今更ですけど、そんな重装備で侵入するんですか? 戦闘を避けるならば身軽に動ける装備で挑むべきでしょう」

「問題ない。それにこれでも完全武装よりも軽くしてある」


 これより上があるのかとアラムがその一言に驚く。今でさえ鎧武者の如き堅牢さを思わせる装備なのだが、一振りにすれば機動力を重視しているものらしい。


「ああ、それと僕も偵察機を使ってそちらの動きを把握してますので場合によっては陽動もしてみますが……陰陽術がどうこっちに影響を与えてくるかは未知数なので、どこまでできるかは不明瞭ですが」

「ああ、昨夜の説明で聞いたことは覚えている。それと、出発前にも言ったが鬼共は鈍いがその分怪力だ。見つかれば面倒なこととなる。見つかることは絶対に避けろ」

「もちろん覚えてますよ」


 仕事前に重要なことを再度確認し、仕事に取り掛かる二人。一振りは顔を布で隠し、アラムは鉄でできた右腕の調子を確かめ、端末を起動した。


「では、これよりルアネさん救出ミッションを開始します。一振りさん、お気を付けて」





 ふと、女は目を覚ました。


「……はぁ」


 木で作られた檻越しに外の風景を確認する。そして寝ぼけた頭で自分が置かれている状況を認識したからかため息を一つ零す。


「なんか、覚めるには惜しい夢を見てたような……あれ、なんだっけ?」


 霧散していく霞みを掴もうと頭を働かすも、数秒前自分が見ていた幸福を思い出せずにやきもきとして最終的にそんなものどうでもいいと女は思考を放棄した。

 木の檻は家畜小屋みたいな建物の中に作られていた。おかげで雨には濡れないが、明かりも無いので建物の内部は暗く、屋根から滴り落ちた連続する雫が何か固い物を叩く音しかしなかった。

 ――ルアネがここに捕らわれてから三日、地面の上に何かの植物を編まれて作られた茣蓙(ござ)しか敷かれていないこの簡素が過ぎる牢屋で彼女は物思いに更けていた。だがすぐに頭を押さえ項垂れる。


「頭いったぁー、枕も無いなんて信じられないわ。ああ、それにしても暇ってのは毒ね」


 別に、この程度の日数閉じ込められて音を上げるほど弱くはないが、退屈に耐え切れずそんなことをぼやく彼女。そして爪を弄りながら外にいる者らを視界に入れた。

 あの船でお留守番している魔王の如き立派な角を生やした人、人、人。ここに捕らわれている間に辛うじて外を見て情報を得ようとすると、この村の者は子供に至るまでを本数は違えど角を生やしていることが確認できた。そして魔術に卓越したルアネには彼らが呪いによって頭蓋骨が変形した人間であるとすぐに結論付けた。


「黒い雨による蓄積型の呪い。ああいや、呪いというより汚染物質と言った方が本質は近いのかも……この雨は一体?」

「ガラバ、ソナ!」


 すると、そう言って今日彼女の看守をしていた女の鬼が乱雑に飯を牢屋に投げ入れた。その地面に落ち土がついたその少し緑色がかった生肉を見て、ルアネは顔をひそめる。


「ねぇ、毎回用意してもらって悪いんだけど、やっぱりこれ、私は食べれないわよ」

「ナガァー!」


 ここに三日もいるのでダイナミックな供給方法はもう慣れたのかこの際どうでもらしく突っ込まなかったが、肉が生ということに対しては流石に生死に関わるのでルアネも苦情を入れるしかなかった。

 だが偵察機の翻訳機能が無いので相手に言葉は通じない。それでも辛うじてこの女看守が怒っていることは理解できた。


「はぁー、そんな怒られてもこんな呪いまみれで腐った生肉なんて食べれないわよ!」

「オーマー! ゾシテゾ!」


 それでも我がままだとルアネを批難しているのか怒鳴り続ける女看守。言葉が通じないことがストレスなのか、ルアネは自分の顔を片手で覆い空を向いた。


「はぁー……」


 ひと際に長いため息が吐かれる。

 ――その時だ。ひときわ大きな鬼が雨の中をのっしのっしと歩き、小屋の入口を窮屈そうに潜り抜けルアネが閉じ込められている牢の方へとやってきた。その片手には頭から触手を生やした巨大生物があり、それを引きずりながら歩いているところ見るに、狩りの後なのかもしれない。


「……」


 まるで大岩の如き鬼だった。肌は赤黒く、図体だけでなく頭から生えている五本角も他の鬼よりも数も多く形も立派であった。

 慌てて女の看守が表情を硬くし黙ってその鬼に向かって土下座をする。どうやらこの赤鬼は偉い立場の者らしい。

 だが、女の看守など無視して赤鬼は笑いも怒りもせず、ただただルアネを見るだけだった。つまらなさそうに、無関心であるということが目を見るだけでもわかるのに、それでも牢の中にいるルアネをその高い背をかがませることなく見下ろす。

 そして終いには飽きたのか、牢がある小屋から出ていく。残されたのは頭から触手を生やした熊の死体だけだった。看守はというと、少し困った顔をしてから持ち場を離れたのであった。きっと外にこの死体を処理する者を探しにでもいったのだろう。


「まったく、大きい男ってのは何を考えてるんだかわからないわね。いや……本当に! 頭の中に砂利でも詰まってんのかって本気で思うわよ!」


 ここにいない彼のことでも思い出したのか小さな笑みを浮かべてるも、すぐに喧嘩してきたことを思い出したのか憤慨するルアネ。


「はぁ、嫌な事思い出したぁー! あーもう、帰ったらあいつに絶対に拗ねてるわ。面倒くさいわね、本当!? いやまぁ、そもそも帰れるかも怪しい状況なん――」


 と、ルアネが頭の髪を搔き乱して発狂していると突然とんでもない音量でサイレンが鳴り響く。


「……これって、もしかして!」


 この村を見れば、この世界の文明レベルがまださほど育っていないのはある程度予測が付く。だというのに今鳴り響いているのは明らかに機械から生み出される暴力的な騒音であるのだ。

 ならば、この音を鳴り響かせている人物をルアネが推測するのにさほど時間は掛からない。


「アラム! 私を助けに来たのね!」

「思ったよりも派手な陽動だな……」

「て、あんた誰よ! びっくりしたじゃないの!」


 アラムが近くにいるとわかりルアネがさてどう脱走しようかと考え始める前に、一人の男が気配もなく牢の隣に立っていた。


「助けに来た。信用などできんだろうが時が無いので長話はできん」

「……いや、信用するわ。さっきの陽動、アラムなんでしょ? 協力してるってことじゃない。まぁ、予めアラムを騙してるんなら私がどうにかするだけだしいいわよ。助けなさい(それに言葉が通じるってことはアラムが偵察機が近くにあるってことだし……でも偵察機でアラム本人が話しかけてこないのはどうして? 陽動で手が空いてないの?)」

「驚いた……聡い女だとは聞いていたが頭の回転が異様に早いな。喋りながら別のことを思案するか」

「あら、読心術? 陰陽術だっけ? 私の魔術に介入して封じてきた奴がいたけど、あなたもそいつと同じ術を?」

「そうか、城に陣取る者らと戦って敗れたのか……その質問だが、違う。ただ顔を見ればわかるだけのこと、そういう風に育てられた。だが上手く隠すな……やはり知恵者らしい」

「何? 賢い女を見るのは初めて」

「……一度だけ、これで二度目だ」

「そう、じゃあ無駄話はここまでにして早く――」


 と、ルアネが脱出しましょうと言い終わる前に、一振りが腰に佩いていた刀を抜き見事な早斬りで入口を作ってみせた。


「では行くぞ」


 急かす一振り、だがルアネはまるで流行りものの人形でも見つけた女児の様な顔をしてプルプルと震えていた。


「ね、ねぇ、ねぇちょっと待って、その、刀っていう武器よく見せていただけないかしら? ああいや時間が無いのはわかってるんだけど、ちょっとでいいから!」

「驚いた……聡い女だが武具が絡むとあれになるとは聞いていたが……これほどまでにか」

「さっきと同じ言い回しで失望しないでよ! というかちょっと待ちなさい! アラム、ねぇそれ言ったのアラムが言ったのよね!? あいつちょっと私のことをどう思ってるのか一度ゆっくり話し合う必要があるわね!」

「話し合いなど助かれば気が済むまでできる。刀もそこに大量にある……これも自分で打った刀だ」

「嘘、打ったの! あなた刀を鍛造できるの! じゃあすぐ行きましょう! こんな所もうおさらばよ!」

「……あぁ」


 何か、言いたいことを飲み込んで一振りは身を低くしながら小屋の入口まで走り、身を隠しながら外を伺う。


「陽動に大多数が引き付けられたか。これならば押し通り逃げるか」

「何? 結局は力尽くで逃げるの?」

「時が無い。鬼の男衆は揃いも揃ってアラムの陽動に釣られ女子供しかいない。だがこの場で隠密で時間を掛けていれば厄介なのが戻ってくる。ならば無理をしてでも素早く逃げるのが得策だろう」

「一応、姿隠しの魔術でどうにかできるけど?」

「……どのようなものだ?」


 初めて会った人間の手腕を信用できるのか一振りが逡巡するも、アラムからルアネの実力を聞かされているのか、少し迷ってから協力の申し出を受ける一振り。

 そんな一振りの思考など手に取るようにわかったのか、ルアネは少し驚いてみせた後にニヤリと笑った。


「へぇ。あなた、どうやら思ったより堅物って訳じゃあなさそうね」

「そんな評価は生まれて初めてされた。単に使える物は全て使えと教えられているだけのこと」

「そう、良い師に恵まれたのね。じゃあとっとと逃げるわよ」


 張り切るルアネがブツブツと呪文の様な言葉を口にすると、二人の姿が瞬く間に消える。


「いや、驚いた。陰陽使いではないという口ぶりだったがこれは……こんな術があるのになぜ一人で逃げなかった」

「呪いの雨のせいか知らないけど、外の様子がわからなかったのよ。なら屋根のある場所で寝かせてもらってた方がいいじゃない」

「鬼共の巣窟を宿変わりにしていたと……恐れ入る」

「それより、アラムはどこ?」

「何も問題なければすぐ近くで待機している。こっちだ」


 こうして大したトラブルもなく、ルアネは一振りにより助け出される。

 しかし、何事もそうは上手く事は運ばないのが常である。

 ――そんな予兆を告げる様に、少し黒い雨の雨脚が激しくなってくるのであった。



刀があればガチで水無しで一週間生きれそうなほど元気なルアネさん。アラムとは精神構造の時点で別物に頑丈なんです。


次回更新は未定です。

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