第六章「親と子は歩み寄る」 二十話
「へ? あの女の人って赤武者の中身なの? オウカさんだっけ……大丈夫? 僕、喧嘩売ったとかで明日にでも斬り殺されたりしなーい?」
「いや、その心配はないと思うよ。まぁ、あの人はあの魔王のガウハルさんって人は生理的に嫌いらしいからあの人と顔を合わせるとどうなるかわからないけれど」
和装の女とハニーンが話し終えてから約三十分後、二人はあの白い娘、カーインがお気に入りの喫茶店へと足を運んでいた。
別に、どちらかが誘った訳ではない。ただあのまま店仕舞いを始めたハニーンをただただ無言でアラムが待っていて、会話もなく二人でそこらをぶらついていたらその終点がここだったという訳だ。
「父さんは何か頼まないの? ボク、何も食べれないからさ……店の人に悪いし」
「あー……それじゃあ適当にケーキとジュースでも。あ、すみませーん!」
娘に諭され、入店から少ししてやっと注文を始めるアラム。それにハニーンはため息を吐いてみせた。
「なんというか、父さんは周りへの気配りとか苦手だよね?」
「何を言ってるのぉ。周りにビクビクして生きてるからぼかぁ、気配りの達人だからね? 人の顔色を伺うのなんてもう体に染みついてるよ遺伝子レベルで!」
「じゃあ周りを見れてても気づかないタイプなんだよ、父さん」
「えぇー、ハニーンにディスられた」
と、机に肘を乗せ頬杖を突きながらそんな自虐を始めるアラムを少し驚くハニーン。
「父さん変わったよね?」
「そう?」
「昔はボクが何を言っても反応薄かったというか……うん、とか……はい、とか言ってそれで会話を終わらせてたじゃないか」
「そうだっけ?」
「そうだよ……父さんは、なんか怖いよ」
そんなことをハニーンに言われ、キョトンとするアラム。
「なんで?」
「勝手に変わってさ、どう接していいのかわからないし」
「勝手って、そりゃあ僕も一応は若者属と言うか、一年に二年でも経てば性格に変化はあるさ」
「若者属って何? なんで属なんて付けたの?」
「いやぁ、なんか適当に言ったからそこはスルーしてくれなーい?」
と、アラムがそんなことを言うとジュースとケーキを店長が運んでくる。それに軽く頭を下げて受け取る父を見ながら、ハニーンはさっきの話の続きを語り始めた。
「ボクは父さんとどう接していいのかわからないよ」
「そんなの僕も同じだよ。唐突に反抗期モードでキモイとか言われたら立ち直れないし、今日まであの手この手でハニーンと会うの気まずいから逃げ回ってたし」
それを聞いてそういえばとハニーンは思い出す。今日、この人物の養母にアラムも怖がっていると教えられたことを。ならば、今日は覚悟を決め会いにきたのだろう。
「じゃあ、今日はいい加減、父さんはボクと向き合おう為に腹をくくって会いにきてくれた訳だ。歩み寄ろうとしてくれたんだね?」
「そうだよぉー。最初はルアネさんに怒られて、カーインさんからも怒られて、キレスタールさんに軽く叱られて、最終的に君に会いに行く直前にファナール船長に呼び出しくらって、いい加減ハニーンと話し合ってこい馬鹿者と怒られてぼかぁ、腹をくくってやってきたんだよ」
「いや、父さん。それ全然覚悟なんて決まってないから。女の人たちに散々怒られて仕方なくボクに会いにきたとしか思えないんだけど?」
「うんまぁ、実際そう……」
「えぇー……この人は……」
そんなことをのたまってからハムスターみたいにケーキを頬張っている情けない父に、思わず苦言を呈するハニーン。いや、それでもせっかく父と二人きりで話せる機会だと考え直したのか。咳払いをしてから話を続ける。
「長年、怖かった。父さんはボクをパートナーとして作った。けれどもボクは父さんと親としてしか見れなかった。正直、失敗作とか思われてるのかと考えてたし」
「そんなこと思ってたの?」
「思ってたさ! で、本当のところ、どう思ってるの?」
「いや、そんなこと言われても。そもそも作ったアンドロイドが想定しないことをしてもそれは技術者が未熟なだけだし……」
フォーク片手に変なこと考えるねなんて言いつつ、ジュースを飲みだすアラム。そんな呑気な態度に、ハニーンは少し怒りを覚えたのかむすっとした表情を作る。
「ねぇ父さん、ボクこれで結構悩んでたんだけど」
「えぇ……うん。失敗作だとかぼかぁ、別に思ってないとしか言えなんだけど」
「なんで?」
「君の後継機を作ってないのが証明でしょうに。本当に恋人が欲しかったら改良した別のアンドロイドを作るだろう?」
そう言われ、目を丸くするハニーン。なるほど確かにそうだ。それに先ほどこの青年がとんでもないことを言ったからだ。
「待って、本当に恋人が欲しかったらって、父さんはボクを恋人にする為に作ったんじゃないの? 長年それで変人とか馬鹿にされてさ」
「まぁー、最終的にはねぇ……こんなのあまり人に話すことじゃないけど、まぁ君が生まれた本当の理由だし……教えとこうか」
そう言って、少し真剣な面持ちになるアラム。
「僕は昔、友人を生き返らせたかったんだよ。例えそれが偽物だと理解してても」
「友人って、父さんに友達なんていなかったじゃないか」
「ねぇねぇ酷くなーい? いやぁ、ハニーンを作る前……というか僕がこの船に乗る前の話だよ。僕にはたくさんの友達がいたんだ。ナドバ、ナキにアインにカタル、カリーザ……師匠から色々と教えられたある日、僕は死んでしまった友人にまた会いたいとふと考えてしまったのさ」
「……それは、なんというか……駄目じゃないの?」
「そうだよ。死んだ人間は生き返らないし、いくら人工知能を彼らに模して作っても意味なんてない。それはただ、人間のふりを永遠に続ける何者かだ。でも僕はそれでも彼らを真似るその何者かを作った。いや、完成直前まで組み上げた」
「……それで、どうなったの?」
「直前になって……自分がどうしようもなく残酷なことをしているんだって思えて……やめたんだ。その後、師匠からお前のたった一つの才能は消えたと言われたけど、あの選択は間違ってなかったと今でも思ってるよ」
「じゃ、じゃあ……ボクは?」
「その直前で完成させなかった人工知能を再利用して、僕は君を作った。僕、ハニーンに指向性を持たせてないだろ? それは、本当に人間のコピーを作ろうとした名残なんだよ。初めから恋人にしようとして君を製造した訳ではない。なんでだろうね。この人工知能を捨ててしまえばまた友人を殺してしまうみたいで、怖かったんだろう」
それが、真実だった。死んだ友人の模造品を作ろうとして、土壇場で止めて、ただ中途半端に作ってしまった命を放棄できなかっただけのことだ。
「……じゃあ、なんで恋人としてボクを扱おうとしたの?」
「いやぁ、君を作り終えた後にアンドロイドと恋するアニメを見て当時のぼかぁ、大変感銘を受けましてね!」
「待って、待ってくれ! さっきまでのボクのしんみりとした気持ちを返してくれないかな!」
「そんなこと言ったってさぁ、人間だってムラッとしてから子供をこさえるんだから、原理としては似たようなもんだってぇ!」
「本当……なんで、もう――馬鹿らしい!」
「真実なんてもんはそういうもんだってぇ」
「父さん、今はちょっと黙っててくれないかなぁ! お願いだから!」
「……まぁ今、君が幸せだったらそれでいいじゃない。君にも友達がいっぱいできたんだろ? 女の子狙い放題なんだろ? モテるんでしょ! 今度秘訣教えて?」
と、最後にそう言って纏めようとするアラム。だが、その言葉にハニーンは顔に暗い影を作った。
「ボクには……指向性が無い」
「うんまぁ、そりゃあそう作ったからね」
「他のアンドロイドは皆、何かやるべきことを、稼働目的を持っているのにボクにはそれが無い……だから皆とは違うんだよ、父さん! ボクは……ずっと独りぼっちだ!」
それは明確な批難だった。なぜこんな風に作ったのかと、アラムをその目と言葉で苦痛をハニーンは訴える。
「ボクがどれだけ疎外感を抱いてあの里で過ごしてたと、そりゃ皆いい人さ! 優しくしてくれる……でも、ボクは他のアンドロイドと違う! なんで父さんはボクに指向性を持たせなかったんだ!」
そう言われ、キョトンとして腕を組んで考え始める。
「うーん。そもそも人間の模範する機械を造るのに指向性なんてものは必要ないからねぇ。大昔に実験的に作ったアンドロイドにも指向性なんてものは無かったはずさ。嫌な言い方だけれど、人間が作物を品種改良したようなのが、今この船にいるアンドロイドなんだよ」
「……それで納得できるか! この悩みを相談できるアンドロイドはいないってことじゃないか!」
「確かにそうだよ。だけれど、君みたいな悩みを持っているのはそこら辺に沢山いるよ。そっちと相談して、納得する答えを見つければいいじゃないか」
だが、それをこの青年は青年らしからぬ強い言葉で否定した。
「沢山いる? そんな出まかせ言わないでよ! アンドロイドじゃない父さんにはこの苦しみなんてわからないからそんな適当な――」
「適当じゃない、人間だからこそ理解できのさ。確かに他のアンドロイドには人間の役に立ってもらう為に僕らが思考をある程度決めてるだろう。でも、人間は違う。親や家、境遇に左右もされるけど、僕らは何をやるべきか、なんて生まれた時点では決められていない。君はただ、他のアンドロイドよりも僕ら寄りなだけだよ」
青年とて悩みはある。自分を人間の不良品だと自分を恥じ、それでもと変わり続けようとしているのがこの青年だ。だからこそ、劣等感、疎外感など手に取るように理解できる。
「だから孤独だなんて思う必要は無いさ。それこそ皆が違う。一卵性双生児の双子でも、大量生産されたロボットでも違いは出てくるものだしね。だから、違いがあるから誰かとわかり合えないことはない。そもそもわかり合うってのは、相手が自分と何が違うのかを理解することなんだから。今は理解しなくてもいい。これから、そうなんだと思ってもらえると、僕は嬉しいよ」
「……なんだろ、初めて父親らしいことを父さんに言われた気がする」
「悪かったねぇ。ぼかぁ、まだ大人と呼べるほど立派な人間じゃないんでね」
「そうか……そうなんだ」
それだけ呟いて、ハニーンは少し顔を赤くして、窓の外を眺めた。
様々な人が通り過ぎる。その中には、絵にかいたような親子もいた。そして、ふと視界を逸らせば、その窓にはアラムとハニーンの顔も映る。
形は違う。ある人が見れば歪だろう。だが、そこにはきちんと親と子がいたのだ。
「ああ、そういえばボク、父さんにお礼を言ってなかったね」
「お礼?」
「怖い人の所に行って、ボクの為に色々と話を付けてきてくれたんだろう?」
「それは、まぁそうだけど、あれは自分の為でもあるからね。というかぼかぁ、ほとんど何も理解しないまま話がまとまったというか……お礼を言われるほどのことはできてないよ」
「そうなんだ」
「まぁでも少し厄介なことにはなったけど、これからは技術提供で毎日、自分より優秀な人たちにオドオドしながら色々と教えないとならなくなったんだ」
「はは、大したことしてるじゃないか」
「そう?」
「あー、そういえば父さん、インタービーナーズの仕事辞めないの? 臆病なんだから命の危険がある仕事じゃなくて技術者に戻ればいいのに」
と、ハニーンがふとそんなことを聞く。なんとなく、会話を途切れさせない為にそんな問いを投げたのだろう。
「辞めないよ。この仕事をほっぽり出してもガウハルさんやキレスタールさんをどこにやるのかって問題もあるし、それに――」
「それに?」
「君と同じで、僕も誰かの役に立つ方法をやっと見つけたんだから。正直、僕はやりたいことを見つけて出ていった君が心底羨ましかったよ。ハニーン」
まさか、アラムにそんなことを言われるとは思っていなかったのか、何秒か固まるハニーン。そして、その見た目通りの朗らかな笑顔を作ってこんな提案をする。
「ねぇ、父さん。これからたまに会おうよ」
「まぁいいけど、父親らしいことなんてこれからもあまりできそうにないよぉ、僕」
「いいさ。それでもボクが会いたいんだよ」
こうして、少しずつアラムとハニーンとの間のわだかまりはほぐれていく。まるで、これまで会っていなかった時間など、気にならないぐらいに。
きっと、これから長い時間をかけて、またくだらない勘違いやすれ違いを正しながらまた何度も会うのだろう。そうして――親と子は歩み寄る。
終わり
ということでインタービーナーズ第六章「親と子は歩み寄る」これにて終幕です。
ちょっとハニーンの描写不足と文字数がちょっと多いのと交渉(恐喝)パートが長くなっちまった気がしますがなにはともあれ完成です。
さて、次回はアラム君のお仕事編となりますが……まぁまた厄介なことになりますよ。えぇ。どの時期になるかは未定ですが、そう長い話には……ならないはずです。
では私は明日発売のモンスターをハンティングして肉を焼いて食べるゲームをやりまくります!
ではまたどこかでお会いしましょう。それでは!




