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第六章「親と子は歩み寄る」 十四話



「調子に乗って……ペラペラと話しすぎた……」


 逃げた青年は落胆していた。何に落胆しているのかといえば、やはり“自分に”である。

 不幸自慢なんてくだらないみたいなことを言った癖にもかかわらず、今まで貯め込んだものを噴出させあの天真爛漫な白い娘に言わなくていいことまで話してしまったことを心底悔いているらしい。


「なーんか気まずい雰囲気になっちゃうし、ただでさえハニーンとどう接していいのか決めかねてるのに、なんでカーインさんとも気まずくなってんのぼかぁ! 今カーインさんの助力無しでぼかぁ生きれるかもわからないのに、なんで僕はさぁー!」


 残してきたカーインより数段上の狼狽と後悔と共にそんな一人反省会をするアラム。そんな彼は今、明るい場所を目指していた。

 今日寝泊まりする教室へ頭を押さえながら近づいていく。さて、先ほどカーインとの会話にも出てきた情報ではあるが、今この古い校舎を管理しているハニーンの意向により今晩の宿に比較的綺麗に掃除された一室を提供してくれた訳なのだが……なにやら騒がしい。一番大きな声はルアネのものだ。


「なーんでこの人たちこんなハイテンションなの? 神聖な古き学び舎にアルコール類なんて常備されてないでしょうに」


 喧嘩、というほどでもないやりとりをカーインと行った後、青年に待ち受けていた光景はその気落ちした精神を吹き飛ばすには充分なものだった。

 またルアネとギャレンが何か言い争い、いや訂正しよう。ルアネがギャレンにがみがみと不平不満をぶつけていた。

 夫婦生活において我慢は必須スキルとかなんとかいつか見たテレビの俳優か芸人かが言っていたのをアラムは思い出す。当時はそんな悲しいことはないと子供心で否定していたが、なるほど……実際にこうして見せつけられればあの言葉は紛れもない真実だったと認めざるおえなかった。

 そして喧騒響く教室にアラムが顔を出す、だが人数がおかしい、なんか増えていたのだ。


「アラム様、カーイン様は?」

「あー、ちょっとまだ用事があるみたいでね。すぐに来ると思うよ」

「そうなのですか?」


 と、このメンバーの中で一番アラムを気にかけてくれる存在であるキレスタールが帰ってきた青年に一番聞いてほしくなかったであろう質問を投げかけた。

 あの白い娘と気まずい雰囲気のまま逃げ出してきた青年はしれっとそんな嘘を吐き、難を逃れる。


「というか、ハニーンは?」

「ハニーン様は買い出しに……この学び舎には食料がほとんどないということなので」

「買い出しって、あの子狙われてるんだよぉ今、もぉー、お馬鹿だなぁー」

「ハニーン様は大丈夫とおっしゃっておりましたので……今まで攫おうとする方々が出先で襲われなかったことを考えるに、足のつきにくいルートで外出しているのでしょう」

「ああ、それもそうだね……お馬鹿は僕か。でさ、ところでなーんでこの人たちがいるのかな?」


 青年は“増えている”人間に指さしながら、少女に事情説明を求めると、その本人たちの一人から説明があった。モアだ。


「はっはっは、気にしなさんな気にしなんさんな」


 いや、説明する気はないらしい。


「いやいや、気にしますよ気にしますよ。誘拐未遂をした方々がいるんですからねぇ!」


 アラムのエスコートが勢ぞろいしているところに、ギャレンと老魔術師の戦闘で負傷していたエルフの男子三名が借りてきた猫の様な状態でビクビクしている。それはいい、彼らは被害者で保護されるべき怪我人だ。

 だが、その彼らの里を吹き飛ばした張本人である赤武者が胡坐をかいてそこでナッツみたいな物をバリバリと食べているのはどういうことだろうか? ついでに老魔導士と青年をグルグル巻きにした暗殺者もいるのだからアラムの警戒ももっともだ。

 それに例の赤武者がガウハルに殺気を放っているのだからとにかくアラムの心臓に悪い。

 確か、カーインと共に通信の電波がある場所に探索に出かけた頃にはいなかったはずだと青年は記憶しているのだが……いつ間に上がり込んだのやら、それに教室とは元々大人数の生徒を押し込める為の部屋だが、それでもこれだけたむろしていれば少々手狭に感じられた。


「すみませーん。夜分遅くに申し訳ないんですど、必要な情報だけお伝えくださってからご自宅に速やかにお帰りください!」


 本日、自分を襲ってきた相手に怯むことなく……いや、顔面蒼白なのだが、青年にしては果敢にもそう話しかける。

 瞬間、赤武者が腰に差していた刀を踏み込みと同時に抜き、老魔導士が軽く杖を向けその動きを封じた。

 ――老人の動きがワンテンポ遅ければアラムの首は跳ねられていたであろう。もう、青年は泣きたかった。


「止めときな、あたしゃお嬢ちゃんが出てきた時点であんたの敵だよ。そこの魔王とあたしじゃあ、あんたら姉弟でも分が悪いんじゃないのかい?」

「……」


 老魔導士の脅しに抜きかけた刀を納める赤武者。見ればキレスタールとガウハルも険しい表情で臨戦態勢となり少女に至っては冷や汗を流していた。

 この赤武者たちが怖いのは何もアラムだけではないのだ。なにやら憤慨しているルアネに怒られていたギャレンすら、彼女を相手にしながら脇目で相手の出方を伺っている。気を許してはいないのだろう。

 唯一、赤武者の殺気に反応していないのは先ほどから恋人を罵るルアネだけのみであった。


「ルアネ……よく周りを見てほしいのだが」

「わかってるわよ! 安い喧嘩を売って争いたいだけでしょうに! 本気で私たちの首を落としにくるんなら最初から単独で殺しにくるわよ! それができない理由があるから自分から仕掛けられないの! なら無視するのが正解よ! でもお腹は減ったから穏便に私たちのご飯を弁償させる為に買い出しに使うのが最適解よ。ほら、買い出しに行きなさい! もちろん自腹でね!」


 ギャレンの苦言にそう言い返すルアネ。頭に血が上っていようとこの才女はそういう判断ができるのだ。確かにルアネのいう事にも一理ある。

 ガウハルを殺したかったら問答無用で襲えばいいのだ。それができないから相手を挑発しているのだろう。そしてその挑発方法が――。


「えっと? へ、ごはん奪われたんです?」


 そう、ご飯の強奪だ。こんな自然の中にあるので実感が湧かないが、ここも船の中である。往復一時間弱で買い出しぐらいは行ける……のだが面倒くさい距離ではある。

 そして先ほどからなんであのルアネさんが大騒ぎしているのかと思えば、飯泥棒の被害に憤慨しての大騒ぎらしい。


「そうよ! ハニーンが持ってきた非常食のナッツを奪って食べてんのよ!」

「そーんな野生動物みたいなことをいい大人がしません――」


 いい大人がご飯泥棒をしたという言葉を信じられずそう言いかけると、今度は刀の切っ先がアラムの首寸前で止まっていた。目にも止まらぬ居合斬りである。


「わぁーお、長刀だけじゃなくて刀の扱いも極めてるんですぅ?」

「我が家は武芸百般納めなければ当主になどなれん。それより誰が野生動物だと? それは侮辱として受け取るがよろしいか?」


 待ってましたと言わんばかりに赤武者が口火を切る。その声に僅かな喜びがあったのを青年は聞き逃さなかった。


「よろしくない、よろしくない! ただの軽口ですからぁ! 喧嘩なんてぼかぁ、しませんよ!」


 アラムが喚くと、赤武者はガウハルの方を向く……やはりこの魔王を挑発しているのだろう。そしてアラムの首に切っ先がぷつりと刺さり血が流れる。これには流石に魔王の目にも殺気が込められた。

 ラウフが他の部下はあの言動があれな姫騎士マレカ(サディスト)より苛烈だと言っていたがなるほど、あの姫騎士よりも手が出るのが早い。あの言葉に嘘はなかったようだ。

 ――すわ戦闘開始か、そんなピリついた空気の中、教室の入口からコンコンと軽くノックする音が聞こえてきた。カーインだ。


「はい、みんな仲良く! 今夜の学級目標はこれでお願いできるかな? で、あの人に報告を済ませてきたんでしょう、おばば? あの人はなんて言ってるのかな? お兄様はどうすれば助かって、私たちはどうすればあの人のご機嫌を取れるのか言伝を預かってきたから戻ってきたんでしょ?」


 ラウフの部下の中で一番の年長者である老魔術師に、カーインは情報の開示を急かす。が、それを赤武者が遮った。


「ええい、やはりまどろっこしい、この場で全員の首を――!」

「止めな猪娘、あたしゃ仲間殺しはやりたくないんだがねぇ?」

「はっ! この距離で魔術師であるご老体が我が刀を見切れると、耄碌も大概に――」


 と、今度はラウフの仲間内で剣呑な雰囲気になる。この赤武者、血の気が多すぎる……どうやってラウフはこの猪武者の手綱を握っていたのかとアラムが疑問に思い出した時、氷みたいに冷たい声が教室に響いた。


「――いい加減になさい」


 ぴしゃりと、本気で怒っている意思表示に誰もが黙った。初め、その声がカーインのものだと誰もが気づけず混乱をする。

 だが確かに声の主はこの白い娘なのだ。天真爛漫な彼女らしからぬ聞いたことがない鋭い声に、ここにいた者の時間は一瞬止まった。

 ――彼女は家の名を出して正式に争いごとを止めた。更に今、兄のラウフを救おうと動いている。ならばその言葉に逆らうのは兄であるラウフに謀反を起こすも同義なのだ。カーインは武では到底、赤武者には勝てなかろうと理で押さえられるのだ。


「……白けた、帰らせてもらう。だがガウハル、次に邂逅したならば貴様の首は必ず落とす!」


 数秒の静寂と青年の冷や汗、そして最初に時を動かしたのは動いたのは赤武者であった。

 魔王にそんな言葉を投げつけ、黒い影の暗殺者を連れ足早に教室から出ていく赤武者。いや、黒い服装と思っていたが僅かに緑の色も交じっていた。深緑に隠れる為のものなのだろう。

 それはさておき、それにアラムはほっと胸を撫でおろした。あの赤武者がいなければ血なまぐさい事態にはならないだろう。


「くっそ、最終的に丸め込んであの長刀とか刀っていうの? あれを見せてもらおうと思っていたのに!」


 と、ルアネがそう愚痴をこぼす。この人物はこんな時に何を言っているのやら。


「あなたはぁ~、本当に~、ブレませんね~」

「だって、あの刀っていう武器かっこいいじゃない! 初めて見たけど一目惚れよ! 私、ああいう細身の武器が好物なのよ! 一家に一振り欲しいわ!」

「いやー……一家に一振りはいらないと思いますけど」


 興奮気味にそう語るルアネ。今まで今を持て余し無一文で武器屋巡りをしていたと思われるが、意外にも刀を見るのは初めてだったらしい。耐久性も低く扱いが難しい刀を打つ鍛冶師はこの船でも少ないのだろうか?


「それで……魔王ガウハル、あなたは何をしてあれほどあの方に恨まれているのですか?」


 ぼそり、いや、チクリか? ふとキレスタールがガウハルを責めるように小言を言う。と、それに続き話をしていたアラムとルアネもうんうんと頷いて加勢するのであった。ずっと気になってはいたのだろう。


「いや……いや、まてまて、我を悪者にするな! 先のディザスター討伐であの者の命を救ってからああなのだ。理由など我が聞きたいぐらいだぞ!」

「命を助けたなら感謝されるのが普通でしょうに、何か別にしでかしたのでは?」

「修道女、貴様は我をなんだと思っているのだ」

「魔王、人類の敵だった者です」

「くっそうであった……だが、無益な戦いは好まぬ王ではあったぞ? 我が国を治めて千年、戦争らしい戦争をしなかったのだ! 確かに小競り合い程度はあったがぁー……そう頻繁ではない。稀だ稀、貴様も生まれ育った教会で歴史を学んだであろう!」

「いえ、魔族は悪戯に人を殺すと教わり、人々を永久の時間苦しめる悪と習いました。人々は長きにわたり魔族と戦っていると」

「あぁー、そうであった。戦争とは兵となる民を虚飾で洗脳し死地に送るのはどの時代も同じか……そしてその重ねた嘘のせいで戦争の辞め時を失うのもセットでな……いやそれはいい、ええい、本当にそうなのだ! そこの白い娘が証人だ!」


 埒が明かないと判断した魔王ガウハルに言われ、皆の視線がカーインに集まった。


「うん、魔王さんの言ってることは本当だよ。でもなんていうかあの人、助けられたのを恥だと思っているのか、魔王さんを目の敵にしてて……」

「そら! そういうことだ! 我は潔白である! ゆえにその懐疑的な目を向けるのは無礼千万ということだ! 即刻止めてもらおう」


 とういうことらしい。考え方の違い、文化の違いと言えばそれまでだが……それにしてもそれだけで命を狙うのは流石に理解に苦しむ。

 と、ガウハルの裁判が終わると、老魔術師が咳払いをした。


「う、ううん。さぁて、やかましいのが帰ったからさっきの話の続きといこうじゃないか。カーインお嬢ちゃん、あの人でなしの要求は二つさ、そこのお兄さんと大男を交渉の場まで引っ張ってくることさね。話し合いを希望するならばそれで良し、ということさ」

「交渉? 人攫いと殺人未遂をしておいて随分と……エルフさんたちはどうなるの?」

「まさか、十中八九脅しになるよ。交渉なんてのはおびき出す為の建前さね。まぁ、エルフたちに関してはあたしがうまく誤魔化しといたんで、まぁ当分は大丈夫だろうね」


 と、老婆がそう語ると包帯グルグルの若い男性エルフ三名が顔を見合わせてなにやら話し合いを始めた。そして意を決して、一番気が強そうなのが声を上げる。


「そ、その! その誤魔化した! という一言のみで我らがエルフの安全を保障されたなどとは到底受け入れられない! あなた方は里を壊滅させ我らを襲ったんだぞ!」

「おや、お若いの。そりゃそうなんだがねぇ……今はあたしゃ、あんたらの安全を保障できる証拠なんてないよ。それに当然、別ルートの情報であたしの雇い主があんたらの生存を知っている可能性もあるさね。怪我が治ったら新天地で自衛でもしな」

「む、無責任だ! それに私たちが無事だという情報をあなたがその雇い主とやらに言わない保証も無いだろう!」

「そりゃあそうだがねぇ、あんたら若いの三人であたしをどうにかできるとは思えんよ」

「さっきから若いの若いのと、いいか! 俺たちはエルフだ! あんたより長生きしているんだぞ!」


 寿命でマウントを取ったところで意味は無いのだが……その言葉に老魔術師は一瞬その妖怪の様な大きな目を丸くし面食らう。するとすぐさま今まで深々と被っていたローブを取り、その“尖った長い耳”を彼らに見せた。


「あ……あぁ、あなたもエルフだったのか!」

「そうだとも、あんたらの同族さ。あたしも同族殺しなんて気は進まないのは本当さね。なんなら、森に住む者として祖と誇りに誓おうじゃないか。もうあたしゃ、あんたらに手を出さないってね」


 その誓いに、どれほどの重みがあるのかは知らないが若いエルフはそれだけで黙り、冷静さを取り戻したようだ。

 するとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。アラムがあの赤武者が戻って来たのかとビクビクしていると、ルアネが冷静にこう言った。


「落ち着きなさいよアラム、足音でわからない? ハニーンよ」

「皆さーん、お待たせしました晩御飯……え、なんでボクを攫おうとした人がここにいるんですか!」


 さて、話が終わったタイミングでハニーンが大きな買い物袋を両手に帰還してきた。どうやら道中人攫いには合わなかったらしい。


「あー……もうぼかぁー、なんか疲れたよぉー!」


 冤罪裁判に始まり、話せば疲れるあの師と長時間会話、アンドロイドの検診、最後に天変地異みたいな激闘、本当に今日一日は色々ありすぎた。

 青年は情けなく腹を鳴らしながら、そうボヤくのであった。



 ラウフさんの部下であるマレカはゴリラ女、そして赤武者の方は猪娘とあだ名がついてます。


 さて、ハニーンが住んでいる豪邸もとい旧校舎……まぁ広さだけなら豪邸ですが、彼女はそこに一人で住んでいます。そしてアンドロイドなので客人が来た時用の保存のきくナッツ(非常食)しか無く、彼女は狙われているにもかかわらず買い出しに……まぁこの隠れ里は見つからないように秘密のルートがあるので何もなく帰ってきましたが……。

 エルフとアンドロイドも常日頃から見つからない努力とファナール船長があの女医に恨み言を言いながら情報規制やらを徹底してしいた訳で何年も隠れ潜めた訳です、まぁ、積極的に彼らを探し出そうとするものが最近までいなかったのもありますが……。


 次回、ホラー……うん、あれはホラーだな。うん。

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