第六章「親と子は歩み寄る」 六話
多くの世界、多くの神話において、人は神から生まれたと伝えられている。
そして多くの世界、多くの文明の成長過程で、人は神を殺したのだという。
事実、我々はありとあらゆる世界で信仰を薄れさせ、自然を暴き、神秘を解明し、人類という種はありとあらゆる世界で親殺しを成してきた。
ならば、我ら人類が生み出すこの電子基板と配線で構築された我が子らはどうなのか?
そう、我々は努力し考え続けなければならない。彼らを生み出し、自分たちを助けてくれる彼ら彼女らとどう向き合いどう付き合っていくのかを。
そうしなければ、我々は創造主と同じ道を辿るのだろう。
――時空移動船におけるアンドロイド開発の父祖にして権威、ハキーカ博士。
今、キレスタールたちはバイトのショッピングモールにいた。一度アラムが充血主義の殺人ドローンに襲われ、ラウフのマッチポンプにより命からがら助かったあの超巨大ショッピングエリアである。
「はぁー、色々あるのねぇー……武器は売ってないみたいだけど」
「武具屋って昔から人通りが少ない場所に多くあるんですよねぇー」
「で、ここら辺にアラムが作ったというアンドロイド? がいるみたいなんだけど」
ルアネの魔術によりここら近辺に探し人、というか探しアンドロイドがいるらしい。
そのルアネさん曰く、人探し、失せ物探しの術というのは割と簡単であるらしい。需要がある為に古くより研究され、ありとあらゆる世界から収集した魔術地知識により研鑽されたその類の術は、この船においても圧倒的な的中率を誇っている。
だがそれは、探し当てる者の持ち物や顔写真がある前提での話である。その人物が大切にしていた物、つまり思い出の品や髪などの体の一部等々、ターゲットとなる者と結びつきや縁が強いものがあればあるほどいいのだが、今回はノーヒントであった。
「媒体が無いのに探せるの? ルアネさん」
「ま、そこら辺は“でっちあげた”から」
しかしそこはこの才女の恐ろしいところである。そのアンドロイドの生みの親であるアラムの顔や性格は知っているので、完全なノーヒントではないのだという。ルアネの記憶を媒体にしてそのアンドロイドを見つけだせると言い切った。
無論、それはか細い縁である。だがそのか細い縁さえあればいいらしく、ルアネは早速そのアンドロイドを探す魔術を即席で組み上げたのだった。
「うーむ、それにしてもルアネさんのそれ! まるで羅針盤みたいだねぇ。なんかだか凄そう」
「そうでもないわ。即席だしあまり性能はよくはないわよ? 大人しくアラムの所に行って髪の毛一本でも手に入れられたらもっと効率よく探せられるのだけれど」
「いやぁー、それがさっきからアラム君の部屋にコール掛けてるんですけどでなくてですねぇー。外出中らしく……」
「え、持ち歩きの道具で連絡できる物とかは無いの? あの子の偵察機だっけ、あれを使って遠方でも連絡できたはずなんだけど
「いやぁー、そういうサービスをこの船で使うとかなりのお金が飛ぶのでアラム君は持ってないんじゃないかなぁー」
「便利な物はあるのに高価だから使えないなんて、本末転倒ね」
と、ルアネは片手で羅針盤の魔術を展開しながら、カーインとそんな話しをする。その二人の背をキレスタールは黙々と追う。女三人集まれば姦しいなどというが、キレスタールにそういった習性は無いらしい。
だが、話しかけられれば別だ。
「ねぇキレスタール。アラムから何かプレゼントとかされてない? ネックレスとかそういうの。もしかしたらそれで私の魔術を補強できるかも」
「プレゼント、ですか? そうですね……強いて言えば下着を新調していただきましたが」
その言葉が起爆剤だった。下着という単語にルアネとカーインは二人して驚愕し食い入るようにこの無表情の少女を見る。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよキレスタール!? 下着? え、下着をアラムからプレゼントされたの!?」
この船ではそれが常識なのかとルアネはカーインの方を見るが、自分同様に顔を真っ赤にして驚いている白い娘の反応からしてこの世界でもそれは半分アウトな行為であるとこの才女は瞬時に理解する。
「はい、実は終焉の竜にルアネ様が囚われている時に――」
と、キレスタールがなぜこんなにも二人は驚いているのだろうかという顔でその話をしだす。
そしてその説明がなされていくにつれ、二人のテンションはどんどんと下がっていった。
「つまり、成長期に体が大きくなりすぎて、黄金砂漠のトラヌ王国で国を救った褒賞金でアラムと一緒に下着に買いに行っただけだと」
「はい。買い物途中、女性用の下着コーナーがあれば「僕は踵を返して逃げる人間なのに」とアラム様には随分と嫌がられましたが旅支度はできる時にするのが正解かと思い、少々強引に付き合っていただきました。女子供一人で出歩くと賊に狙われますゆえ、それにアラム様を傍に置き守れ――」
「あー、わかった、わかったわよ。はぁー、なんとも色気もクソも無い話ねぇー。というかそれその黄金砂漠の王様からプレゼントされたような物じゃない。アラムとは縁が薄すぎるわ」
どうせそんな落ちだろうと思いましたわよと、ルアネはため息を吐いてその話を終わらそうとした。
だがこの白い娘は違う。もう少しその話を深掘りしたいらしい。
「あの、キレスちゃん。アラム君ってどんなのが好みなの?」
「……ちょっとカーインさん? こちらにいらして。キレスタールはちょっと待ってなさい!」
と、なぜかお嬢様言葉を使いながら首に腕を巻いてこのアルピノ乙女をキレスタールから引き剥がすルアネ。無論、尋問の為である。
彼女は人間関係で自分の生活が決まるような環境である貴族の出なので、こういった話には敏感なのだった。
「で……え! あいつモテないって……え?」
「いや、あのぉー……という訳でしてぇー」
「はぁー、わっかんないもんねぇー」
と、遠くで行われる事情聴取をただぼんやりと眺める少女。小首を傾げている辺り、あの会話がどういったものなのか、時折聞こえてくる女二人の単語で予想できなかったらしい。
そして、ちょっと照れているカーインと共にルアネねぇさんが戻ってきた。
「なんか面白いこと聞いちゃったわねー!」
たっはー! と完全に面白がり鼻息荒くそう言う我らがルアネさん。と、カーインもやられっぱなしという訳ではない。
なにせこのカーインさんも家出中でこんなんだが、この船における貴族的立ち位置の出……つまりいい所のお嬢様なのだ。噂話の“使い方”など幼少期に仕込まれている。なので先ほど仕入れたルアネに対抗できるあの情報を持ち出した。
「……キレスちゃん? ルアネさんの彼氏さんについて詳しく教えてくれないかなぁー?」
「ちょっと待ちなさいよ、今は関係ないでしょ! アラムの話でしょ!?」
「面白がられたのぉー! こなた、やり返すのぉー!」
恥ずかしさが爆発してか、幼児退行してカーインがそう叫ぶ。
もう、カーインはお互い急所をクロスカウンターでぶっ叩く気だった。陰謀渦巻く社交界は弱みを見せた時点で詰みだ。自分の周囲には肉食獣のみ、弱ったならばすぐに噛みつかれる。
ならばまだ抵抗できる力がまだあると主張し、見せつけるしか牽制できない。なのでこちらも同じことができると証明するだけのこと――人、この拮抗状態を抑止力と呼ぶ。
「……一旦落ち着きましょう。えぇ、わかったわ……不可侵条約を結びましょう、カーイン?」
「うーん。やぶさかじゃないけど、でも先に領土侵犯したのはそっちだよぉ? ある程度の融通はしてくれないとねー」
「わかったわよ! 目標が見つかるまで私は黙ってるからギャレンについて話してていいから。私は探知に集中するわ」
「ぬっふっふー! さぁさぁキレスちゃん、そのギャレンさんについて詳しく話してくれるかなぁー……ついでにアラム君の好みも」
どうやら言い争いに勝ったのはカーインらしい。と、キレスタールはなにやら頬っぺたをむっと膨らませていた。
「え、キレスちゃん?」
「お二人は、その、随分と短期間で仲がよろしくなったようで」
珍しい光景だった。いつも無表情で淡々としているキレスタールが疎外感でも感じたのか、焼きもちを焼いていたのだ。それにルアネとカーインは顔を見合わせて、破顔した。
「もー、キレスちゃんは可愛いなぁ~」
「はいはい、私はあんたとも仲良しよ~」
可愛い可愛いこの妹分の焼きもちに、ルアネとカーインは膨れた頬っぺたを両サイドから突っつく。だがそれが気に入らなかったのか、キレスタールはプリプリと頬っぺたを膨らませたまま先に足早に去ろうとする。
が、それをルアネが止めた。
「ちょっと待ちなさいよぉキレスター……ん、本当に待ってキレスタール」
カーインと共にキレスタールを追おうとしたルアネだが、片手で展開している人探しの魔術の羅針盤の色が変わっていたのだ。青から黄色に、黄色から赤に、急速にだ。
「ルアネ様? それは?」
「反応が強くなったわ。近くにいるわね……あの人かしら」
賑やかなショッピングモールで、数名がその男装の麗人を眺めていた。
マジシャンなのか、手にしていたペンを一瞬で消したり、突然手から華を出して女児にプレゼントしたり、同じような手品で風船を出し男児にプレゼントしたりと、それなりの人だかりの中で次々にマジックを披露していた。
「なんか、ちょっとイメージと違うわね」
あの青年の女性の好みなど知らないが、あの男装の麗人がアラムの趣味、と言われても意外としか思えなかった。
仕事の邪魔をしてはいけないと遠目にその人物を観察していたが、アラムとは似ても似つかないタイプだ。はきはきと喋り、自信に満ち溢れ、初対面の人間相手にも臆さず話しかける。
そして極みつけは所作だ。指の先まで意識的に動かしているのだろう。ちょっとした動作にも優雅さが生まれていた。胸元に指先を当て被っていたマジックハットを脱いで一礼をした時など、その柔らかくも芯が感じられる動きに同性のルアネたちでさえ見惚れたほどだ。
「人違いかしら?」
男物の黒いロングジャケットに同色の長ズボン、それに黒い蝶ネクタイと白いシャツ。そしてマジックハットを被るいかにもマジシャンという格好のその黒いショートカットの髪型の女は店じまいの準備を始めていた。
そろそろ話しかけないと、そうルアネが判断する前に、他の二人がその駆け寄る。
「おや、麗しい女の子が二人も来てくれるなんて嬉しいな。でも今日はもう帰ろうと思っていてね。来週辺りにでもここに来てくれると嬉しいかな。まぁでも、会った記念に花ぐらいはプレゼントしておこう」
「ふんふん、商売上手さんだねぇー。ありがとう」
爽やかな声音で指を鳴らして赤と白の花を二つ出す女マジシャン。カーインは社交辞令のお礼を言い、キレスタールはただただ無言で戸惑っていた。
「おや、花は好きではなかったかな? これは失礼を、また今度来てくれたら別の物を用意――」
「もし、その、貴女様はアラム様の……」
「……」
と、今まで無言だったキレスタールがあの青年の名を口にした。
それだけで女マジシャンは笑みを無くし、少し驚いた顔をする。
「――そうか。君たちはボクの父さんを知っているのかな?」
「え、父さん? アラムはあなたの父親なの?」
と、遅れて登場したルアネがその言葉を拾い、確認する。
彼女たちは確かアラムが恋人として製造したアンドロイドを探していたはずだが……。
「わぁ、これまた綺麗な人だ。まさかあの父さんにこんなに麗しい女性と、しかも三人も知り合いだったなんてね。本当に知らない間にあの人も変わったということなのかな」
「えーっと、あなたはアラム君の娘? なのかな」
と、なにやら感動している女マジシャンに、再度カーインが確認を行う。それににっこりと見惚れるような笑顔で、彼女はこう自己紹介をした。
「いやぁ、自己紹介が遅れて申し訳ないね。ボクはハニーン、アンドロイドであの人の……まぁ、一応は娘だね。それで……このボクに何か用かな?」
一時間ほどの探索で見つけたその人物は、アラムの元カノではなく娘だと言う。
そして仰々しくマジックハットを頭から取って、深々と一礼をするその男装の麗人はそう彼女らに自己紹介をしたのであった。
はい、久々の更新です。そしてすみません……起承転結で更新していきますといいましたが、五話分ができたら更新に変更で! なんか、適度に更新しないと忘れられそうで!
はい、という訳で今日から更新していきますんで、毎朝を楽しみにしててください。
あとついでに感想とか頂けると励みになるといいましょうか……百話達成したんだから感想ぐらい欲しい! いやまぁ、無くても自己満足で続けてはいく所存ではございますが、あると筆の速度が上がるかも?
ではまた次回の更新で会いましょう。では。




