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第六章「親と子は歩み寄る」 二話



 アラム冤罪事件から約一時間後。青年たちは船長室へと集まっていた。

 無論、あのイカサマ裁判を報告する為である。


「それで、ラウフ様とカーイン船員が協力し、そこのアラム船員を助けたと……」

「ええ、うちの者(純血主義)が少し考え無しに動いてしまいましてね。まぁ、金に物を言わして凶行に出ることは別段珍しくもないので普段ならば介入はしませんが、我が友人が標的となれば別ですので少し勝手をさせていただきました。事後報告となったこと、お詫びしますファナール船長」


 優雅に船長秘蔵の紅茶を楽しみながら、つらつらとそう言うのはラウフであった。そしてその隣には胡散臭そうな物を見る目で自身の兄を横目に見るカーインがそこにはいた。

 さて、兄妹仲良く来客用のソファーに座り、現在進行形であの茶番劇について船長に報告しているのだが、どうもアラムは居心地悪そうに入り口付近で立っている。

 というかドアノブを手で握りいつでも逃げれる体勢だった。


「アラム君。君も座るといい。なぜ入口に立って今か今かと逃げようとしているのか不明だが、君は助かったんだ。もう少しリラックスするといい」

「いやぁー、助けてくださり感謝はしているんですが……すみませんけど、僕の中で今回の件、ラウフさんのマッチポンプ疑惑があるんですけどぉ……それが晴れないかぎり気を許せないと言いましょうか、はい、なんと言いましょうか!」

「はっはっはっは。何を言うのかと思えば、私がそんなことをする訳ないじゃないか」

「一回やりやがったでしょ! 前科あるんですよぉ、あんた!」

「まぁ、確かに過去、第一研究所を煽り君にけしかけたが、昔の話じゃないか」

「半年前ちょっとのことをそんな遠い日の出来事みたいに言われても困るんですけどねぇ!」

「そうかい? だが、ドアの前には私の優秀な部下が警備に当たっているんだ。君の足ではまず逃げれまい。マレカ辺りは最近丸くなったので、片足を折る程度で済むだろうが……他の者は容赦はしないだろう。あまりお勧めはしないのだがね?」

「えぇ……やだぁ、足一本をこの程度って言ってるよぉー、恐いよぉー」

「それに真剣な話、今私の隣にカーインがいる。それが私の潔白の証明にはならないかな? アラム君」


 と、言われアラムはカーインの方を見る。確かにこの白い娘ならば兄の手綱を握りながら奔走するだろう……だが。


「――あの、お兄様、五回ほど魔が差しましたよね? その度にこなたが引っぱたいて止めたのをお忘れですか? 潔白とかどの口で言ってるんです?」


 あっさりとそんな証言がその妹から上がる。やはり完全な白という訳ではないらしい。


「はっはっは。いや、他の権謀術数に有用な状況が整うとどうしてもね。そこはほら、職業柄許してほしい。あと魔が刺したのは合計、十回だよカーイン。半分は自制したのだから頑張った方だろう? あ、痛い、無言で叩かないでくれないかな我が愛しの妹よ」


 それを聞いてやっぱりこいつ信用ならねぇ。そんな顔で船長の方を見る青年。

 しかしいくら船長でもこのやりたい放題しているラウフさんを処罰する権限は無いので、こめかみを押さえながらアラムにこう告げた。


「アラム船員。ラウフ様の周囲は特殊だ。食わなければ食い殺される。多少、人道を踏み外されかけたぐらいで文句は言っても無駄だ。事実、貴様は無傷でこの部屋にまた来れただろ? それで良しとはできないのかね?」

「いやまぁ船長、そうなんですけどね?」

「いや、言いたいことはわかる。のだが、普通ならば貴様は今頃一人、独房で喚き散らすことになっていたんだ。誠心誠意とした態度で、感謝ぐらいはするのが筋ではないかね?」


 まぁ、取りあえず思うところはあるだろうが礼ぐらいは言っておけ、と仕事モードの養母にそう促されしぶしぶラウフと向き合うアラム。


「この度はそのぉ、貴重なお時間を使って助けていただき、ありがとうございますぅ」

「ああ、それで礼というか今回の手間賃代わりに――」

「なんか堂々と要求してきたんですけどぉ! ねぇ、これ本当に前みたいなマッチポンプじゃないんです!? 船長ぉ、この人やっぱ怪しいですってぇ!」

「あっはっはっはっは! ああ、痛い痛い、我が愛しの妹よ。実の兄を割と全力で木剣で叩こうとするのは止めなさい」


 と、カーインがソファーから立ち上がり憤慨した様子で自分の兄に腰に差していた木剣で攻撃しだす。その兄はその数発を潔く頭に食らってから、やっぱり流石に痛かったのか結界術か何かで自分を守っていた。


「お兄様!? 何か要求するとかこなた初耳なのですが! 下心は無いか何回も何回もこなたは確認しましたよね! あー、もうやっぱり何か裏があった!」

「いやいや、裏、というほどのことではないよ。アラム君、君が先刻倒したクリサリス、その時に仲間という二名を私に紹介してほしいだけだ。顔合わせ、という奴だよ。君が発案したエスコートの派遣サービスは今回のディザスター討伐に多大なる貢献をもたらした。この先も私は優秀な人材に顔を覚えてほしくてね」


 と、いうことらしい。憐れな憐れなアラム君を助けたついでに、次回のディザスター討伐の時に活躍しそうなルアネとギャレンに唾付けときたい、ということらしい。


「まぁ、それぐらいならお安い御用ですけど……あ、そういうえばお二人がディザスターを倒したって聞きましたよ。連日連夜ニュースでその話ばっかりで、英雄じゃないですか。ほんとうに凄いですよ。どうやってディザスターなんて倒したんです?」

「多大なる犠牲を払って、だよ。多くが死んだ。この船の主砲であるガルバリン砲も先の戦いで消失し、優秀な兵も多くが死傷した。失った戦力を回復するのに私たちは何代も重ねなければならないだろう」


 ガルバリン砲が消失したというのはアラムは初耳だった。一度あれを撃ったことがある青年は少し泡を食らって固まる。確かあれはロストテクノロジーで修理が効かない代物だったはずだ。

 アラムが使用した時はディザスターに綺麗に切断されたが、あれはまだ修理できる範囲だったらしい、だが今回は損傷ではなく消失らしい。もうこの船の主砲は無くなったのだろう。


「それに、こちらと比べて君の少ない犠牲でのクリサリス討伐をしたと聞く……素晴らしい。だが私たちのせいでその偉業が霞んでしまった。それに対し、少し申し訳なく思っているぐらいだ」

「いやいや、こっちも現地の人は大勢死にましたから。まぁー、大分運が良かったのか、元々の想定より生き残りましたけど」

「想定より抑えれたのならば、やはり素晴らしい偉業じゃないか」

「……ああ、そういえばなんですけど」

「む? 何かな?」

「さっきから出てくるクリサリスってなんです? 終焉の竜のことを指してるのはわかるんですけど」


 と、場の空気が凍った。

 この朗らかな笑顔の仮面を付けていたラウフが真顔になり、船長は目を細め、アラムの絶対的な味方であろうカーインさえも驚いて目を丸くしている。


「えーっと」


 何か……拙いことを言ってしまったのかと青年は固まる。目すら動かさず、口をぎゅっと結びこれから浴びせられう暴言に備えているといった風体だった。と、ここでファナール船長が先に口を開く。


「申し訳ありませんラウフ様。アラム船員はその、必修教育を受けておらず、更に普段の交友関係も狭い為に常識が欠落しており――」

「ああ、いや、すまなかった。そういうことか……アラム君、クリサリスというのはディザスターに成りかけた敵の総称だよ。基本、ディザスターという存在を倒すことはほぼ不可能、このクリサリスの段階で排除することが一番有効という論が一般的でね」


 一般的、それはこの船で常識で、当たり前で、知っておかなければならないことなのだろう。取りあえず黙っているのを無礼に受け取られると思ったのか、アラムは急いで絞り出した言葉で会話を繋げる。


「その……だから蝶になる前のクリサリス()ってことですか?」

「ああ、近年では同じ蛹という意味合いのコクーンとも、もう少し次代を遡ればバド()チック()とも呼ばれたらしい」

「……なるほど」

「うむ……アラム君、随分と身構えてるが、どうしたのかな? 体調がすぐれないのならば座るべきだと思うが、どうだろう」


 言われ、全身に力を込めていた青年から少しだけ力が抜ける。見れば少し汗まで流しているではないか。


「いえ……その、僕はその、常識が身についていないので、大体こういう失言をすると馬鹿にされたり怒られたりしたもので……すみません」

「ああ、そうか。なるほど、まぁそういう輩もいるだろうとも。それがトラウマなのかは知らないが、安心したまえ。コクーン討伐を成した君に私はそんなつまらないことで怒らないとも。何かに特出している人間は非常識な者も多い、君同様に社会に溶け込めない者も――」

「――お兄様」


 と、カーインが少し強い口調で紅茶を飲みながらそう話す兄を止めた。青年のトラウマをそれと看破してなお、アラムに社会不適合者と言葉を浴びせかけたこの自分の兄(人でなし)を睨む。

 ふとラウフが紅茶を飲みほしたカップから手を離し青年を見ると、本当に大丈夫かというほど顔が青くなっていた。


「ああ……私としたことが、失礼。勘違いしてほしくないのだが、先ほどのは純粋な誉め言葉だよ、アラム君。どうか気を悪くしないでほしい」

「アラム船員……そんなに辛いのか?」


 と、謝罪ラウフに続いて船長がアラムに心配の言葉を掛ける。


「すみません。時期が時期なのでちょっとナイーブになってまして……」

「あぁ、そうか……例の講義だな。それに教育機関での授業も同じ時期だったか……もうそんな時期か。ラウフ様、アラム船員を助けてくださり私からも礼を、だからという訳ではありませんがアラム船員が新たにエスコートに迎えた二名への引き合わせは私が――」

「あぁ、いやでも、船長もかなり忙しいでしょうし、それは僕が――」

「具合が悪いのならば休んでおけ。それにこの時期お前は外に出たがらないし、精神的に不安定になる。ならば私に任せておくのが最善だ。いつものふてぶてしさはどうした?」

「いや……しかしですね。ただでさえ忙しい船長の手を煩わせるのは、この前だって色々と事後処理を残業扱いにしてくださりましたし――」

「アラム船員、あれは労働者としての当然の権利だ。別段感謝されることじゃな――」


 と、親子でそんなことを言い合っていると、カーインがこほんと咳ばらいをした。


「アラム君、こなたに連絡先を教えてくれるかな? お兄様とその新しい人の顔合わせの場はこなたがセッティングするので、船長さんもそれで構いませんよね? 忙しいのはその机の資料の山を見ればこなたでもわかりますので」

「え、カーインさんが? いや、でも……流石に悪――」

「アラム君が魔王さんをこなたのチームに入れてくれてたからディザスターを倒せたし、犠牲者もあれ以上でなかったの、その義理を果たさせてください。それとアラム君ゆっくり休むように! なんか青色じゃなくて土色みたいな顔してるんだからね!」


 言われ、自分の顔を触るアラム。本当にそんな酷い顔をしているのかと疑問に思っているのだろう。と、青年の指にべたりとした粘着質な汗が付着する。やたら粘つくそれを指でこすり合わせてそれが脂汗であるということを理解してから、アラムは折れた。


「その、では連絡先を……部屋番号とコール番号を――」


 こうしてアラムと連絡先を交換するカーイン。

 すると、それを見ながらラウフがカーインにこう言い放った。


「それでカーイン、後のことは任せられるかな?」

「今回の冤罪事件の事後処理なら、こなたの方でまぁ、なんとかはできますけど……」

「いや、事後処理はこちらでするが……その後のことを任せたい。これは私の勘だが、今回の件はこれからの方が厄介になる可能性が高いのでね」

「……それは“あの人”が出てくるということですか?」

「ああ、少し私の方にも圧力がかかった。私が色々と削いだはずの第一研究所がまた騒々しくてね。今回の冤罪、アラム君の召喚技術が狙われたが、それが失敗した今……次は“攫いやすい”技術情報に目を付けるだろう」

「それはお兄様の一睨みで抑止できるのでは?」

「それが今、私は純血主義内で苦しい立場でね。ディザスター討伐で世間からの私個人の評価は大いに上がったが、足を多くから引っ張られてね、それの大本は“あの人”だ。私は後継であるが、自分が現役の間は下にいてほしいらしい、最近、第一研究所が私に強く出れているのはあの人がバックにいるからだろう。なのでカーインやアラム君に襲い掛かる可能性がある、暫くは気をつけてくれないかな?」

「……お兄様、今、どこまで見通しているのですか?」


 神妙な顔つきで自身の兄に説明を求めるカーイン。場の空気が重い。まるでたった今この兄妹が殺し合う立場になったかのような雰囲気だ。


「君と同じところまでさ、カーイン。我が妹よ、君は後継争いにおいて私の脅威となると判断され、環境の学習レベルを何段か下げられたことを忘れたかい? 君は自分で考えているより純血主義内では高く評価されているし、事実私と同じぐらいには賢いだろう?」

「お兄様、お言葉ですがこなたは家出中、そんな者に――」

「カーイン。期待とは時にして呪いになる。そして人間の本質は残忍で愚かだ。今回の件が悪い方に流れたら君のエスコート(直属の部下)にも被害は出るだろう。なので注意を促す連絡だけはして暫くは距離を置き、既に目を付けられているアラム君の周囲の人物を頼りなさい。特にルアネ、という女性は今回は有効な駒になりそうだと今手元にある情報で判断した。先ほど請け負った仕事ついでに知り合うといい。まぁ、私の方でも一応手は回すが、正直あの人に睨まれながらでは動きにくいので期待はしないでほしい。これでいいかな?」

「……わかりました」


 アラムにとってよくわからない会話が為される。しかし今はとにかくしんどいらしく、何も言わない。すでに意識を保つのもやっとの様子だ。

 そのまま青年がぺこりと一礼して部屋を出ていこうとすると、ふいにファナール船長に呼び止められた。


「ああ、そうだ。アラム船員」

「えっと、なんですか?」

「あ、いや……まぁ、三日遅れになるのだが、その……誕生日おめでとう」


 そう言われ、アラムは一瞬この養母が何を言われているのか理解できなかったが、そういえば三日前の日付がこの船に初めてやって来た日と同じものであることを思い出した。


「あぁ……えーと、どうも」


 ぎこちないファナール船長の祝いの言葉に、そんな適当な返事が青年から返される。どうも本人さえも気が付いていなかったらしい。

 そう――アラムはもう、十九歳になっていた。





 ふと、昔日を振り返ると白い娘の表情は強張った。

 まだ自分が人形であった頃(アラムに救われる前)(青年に救われる前)は、普通の学校に通っていた。兄の敵にならないよう、賢くなり過ぎない為のごくごく“彼女の家から見て”一般的な学校にだ。


「……ふぅー」


 船内のなんでもない廊下を歩いているカーインから、浅いため息が吐かれた。白い娘の手元にある携帯端末にはアラムの連絡先がある。カーインにとってこれは飛び跳ねたくなるほど嬉しく貴重な情報だ。なにせ思い人の連絡先、年頃の娘ならば是が非でも知りたいものだ。

 なのだが……それを今、彼女は手放しで喜べなかった。


「……はぁー」


 今度は、深いため息が吐かれた。あの兄を青年と共に敵に回した時にも、ついぞ手に入れられなかった情報を前にして尚、カーインの表情は暗い。

 ――原因は船長室でのあのアラムの顔色と最後の兄が発した言葉だ。

 これから厄介なことになる。あの兄の忠告には信憑性がある。取りあえずはその言葉に従い気心の知れた部下とは接触せず、兄が話していたルアネという人物に取り入るのが先だろう。

 それと、数分前に別れた彼はもう死人みたいな顔色だった。昔のトラウマを刺激されたのが原因で、この少女はその断片的ではあるが原因を知ってはいたのだ。


「問題は山積みだけど……アラム君、大丈夫かな……トラウマかな? うーん、あのクラスは問題しかなかったしねぇ」


 あれは酷かった、と白い娘は三度目のため息を吐きながらそう言葉を零す。

 経緯は不明だった。いや、そもそも大した理由も無いのかもしれない。教師から、有権者の学友から絶対に怒らせてはいけない人物であった彼女には火中にいてもかかわりの無かった事柄だから、当時の薄情だった自分はその件を調べもしなかったのだ。

 ――まぁ、酷い虐めがあったのだ。

 ターゲットはランダム。殴りやすい子、ちょっとした失言をした子、教師の反感を買った子……そう、教師もあの虐めには参加していた。

 大人による情報規制、隠蔽、陰湿なやり口。アラムがクラスに入った時のことうっすらとだが覚えている。珍しい転入生に周囲は物珍しさに集まり、あたふたと青年は答えていた。その表情の裏には確かな怯えはあったが、あの当時十歳だかの子供には十分すぎる社交性で受け答えをしていたはずだ。誰かの反感など買うことはまずなかっただろう。

 そうだ。カーインの知る範囲で失言もしなかったのに……。


「……非常識な人殺し」


 いつの日か、当時少年であったアラムに誰かがそう言ったのだ。その言葉だけやたら鮮明にカーインの中に残っていた。非常識な人殺し、そう言われて否定したくても、できないでいた彼の顔は……この船の中でまず見れるものではなかったのだからセットで焼き付いていた。


「うーむ」


 ふと、白い娘はその頭脳を働かせる。

 あの青年の交友関係は狭い。しかし情には厚く、人類の敵であったあの魔王、ガウハルですら信用し良好な友好関係を築いている。

 人間は誰かと深く関わるには秘め事を共有するもの、そしてそれは大体が言い辛い己が過去である。トラウマ、そして己の生きる指針の共有。


「魔王さんとは昵懇(じっこん)の仲ではあるけど、やっぱりアラム君と今一番近いのは、キレスちゃん……あの子なら私の知らない情報(過去)を教えられていても、それにこなた一人でルアネさんに接触するより彼女を通して接触するほうが印象は良くなる、か――」


 そう結論が出た瞬間、考え事をしながら船内を適当にほっつき歩いていたカーインは踵を返してある場所へと向かう。


「キレスちゃんの性格的にバイトの講義に真面目に参加しているはず、この時間帯ならそこにいるか……なら合流してからアラム君のことを聞き出して……いや、いっそ巻き込もう。あの子もアラム君のことは知りたいはずだし、うん、彼の危機になれば自ら火中に飛び込む。ならこなたと協力して事に当たろう」


 旅は道連れ世は情け、これを機にアラムについて色々と調べようとしているらしく、カーインはそのお供としてキレスタールを巻き込むつもりらしい。

 そしてカーインは近場にあった転送機に行先を告げ颯爽と乗り転送、講習の教室があるスペースへと飛んだ。静かに転送機から出ると、しん……と静まり返った廊下に出た。この時間はどの教室も講習が行われており、中から人の気配がするが廊下は無人だった。

 この場所に無関係ではあるカーインは少し居心地の悪さを覚えつつも、無表情で講義が終わるのを待つ。どの教室にキレスタールがいるのかは不明だったがこの転送機の前は講習生が帰路につく時に必ず通る廊下の為、待ち伏せしあの少女を探し出そうとする魂胆だ。

 ――そして待つこと十分ほどで、講義終了のチャイムが鳴る。ぞろぞろと教室からかったるいといった感じで講習生が出てくる中、カーインは目当ての人物を探した。

 人が思ったより多い。見落としに気を付けながら人混みを見張る白い娘だったが、探すまでもなかったらしい。相手はともかく、カーインのその白い姿は人混みでも目立つのだ。


「カーイン様!」


 そう、相手から見つけてきたのだ。

 丁度手がかりとなりうるあの少女がカーインが、人込みから声を掛けてきた。姿は確認できなかったが、その懐かしい声に思わずカーインが笑みを作る。

 ――同時に、胸に小さな棘が刺さる。アラムと一番近い場所にいるこの少女にだ。しかし守り人としてあの青年の命を何度も守ってきた、その事実で胸の痛みは感謝の念で消える。消してしまうべきなのだ。


「キレ――」


 だからこそ、そんな醜い胸の内など綺麗に笑顔という仮面に隠して、カーインは目で少女を探す。

 それにだ。彼女はまだ少女、女性的な魅力は自分の方が大きい。大きい……と思っていたのだ……今この時、人混みの中から約半年ぶりに見る少女の姿を見るまでは。


「カーイン様、お久しぶりです!」


 その、人混みの中から目の前にいきなり現れた聞き覚えのある声と身に覚えのない体つきの女の子に、カーインの脳が一瞬バグり、その目が点へと変わる。


「……ぉ、おお?」


 さてはて、このキレスタールは第二次成長期真っ只中。終焉の竜の一件の間にそれはもう随分と大きくなったのだ。背丈も技量も伸びに伸びた。特に身体、アラムに届かないまでも、カーインの背を追い越すぐらいにだ。

 思わずカーインの仮面(笑顔)がポロリと剥がれ落ちる。というか、衝撃で隠していた胸の中の小さな痛みすら頭から吹き飛んだ様子だ。

 これは驚かない方が不自然だ。この場において演技など必要ない。自分の疑問をあるがまま、その表情と声に出すべきだと白い娘は判断する。

 なので遠慮なくカーインは第一声でこう叫んだのであった。


「ぉ……お、おっぱい、おっきくなっとるぅ!」


 ――まず、第一声はそこについてのものだった。



 拝啓

 夜に鈴虫の演奏が聞こえるようになり、日中まるで感じない秋の気配を夜に感じれるようにはなりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。


 私は、不器用なものでして、昔から色々な物を壊してきました。ええ、最近はPとSと5が付くゲーム機のコントローラーの調子が悪く、流石に寿命かな? 買い替えかな? でもお金なーい、一年間の保証は過ぎてるし、修理費用を考えたら買い替え、いやでもお金が……そして一か八か、動画を見ながら自分で修理して……どっかの部品を千切れましたぁ! これどこの部品、ねぇ!


 最近あのゲーム機と周辺機器、値上げしたのにねぇ! タイミングわりぃことわりぃこと! はは!


 それでは皆様はどうかこのような不幸……いや、まぁ、ほとんど自業自得なんですけどぉ、そういうのに合わないことを心より祈っております。

 ついでになんかぁー、私にも不幸の反動で良いこと起きないかぁー、なんて思っております。切に、では。


                                             敬具

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