番外編 公爵様が専属お世話係と仲良くなるための困難なお仕事
やっとの思いでユードラさんと結婚することが出来た。二度目の求婚を受け入れてもらえたのは、本当に奇跡のようだと思っている。
ここに至るまで、困難な道のりの連続だった。
まず、お世話係になってくれたユードラさんと打ち解けるのに、随分と時間がかかってしまった。
彼女には大変な苦労をかけてしまった。人見知りをする私を見捨てず、諦めないで懸命に接してくれたおかげで、今の私があると思っている。
ユードラさんは私の悪いところを的確に指摘してくれた。
それは、生易しいものではなかった。言葉の一つ一つが突き刺さって胸に響く。
なんとか努力をして、自らを改めたら、世界はがらりと変わった。思っていた以上に、周囲は優しさに包まれていた。なんで今まで目を向けようとしなかったのだと、深く反省することになる。
隣で微笑んでくれる彼女に、感謝をすることになった。
穏やかな毎日を過ごす中で、ユードラさんに好意を抱くようになるのはそこまで時間がかからなかった。彼女が特別だと気付いたのは、隠密機動局の仕事に連れて行ってからの話。
ここでも、想定外な事態の連続で、『虹の道化師』がユードラさんにちょっかいをかけることを面白くないと感じ、自分の気持ちに気付いたのだ。
だが、私の嫉妬深さはどうにかならないものかと、自分のことながら呆れてしまう。
女性であるラウルス君と仲良くなることまで許せないなんて。
寛大になれるよう、修業が必要だと思った。
それから、さまざまなことが舞い込んでくる。
帝国への潜入調査への同行も、ユードラさんと私の仲を深めようとする伯父や祖母の策略が明け透けていて、頭が痛くなった。
船で膝枕をしてもらった時には、太ももの柔らかさと、彼女の香りを身近に感じてしまい、緊張してまったく眠れなかったし、ユードラさんの寝顔は可愛くて、他の人に見られないよう警戒してしまった。帝都に行ってからも、心が休まる瞬間はひと時もなかった。
夫婦役での潜入だったので、宿は当然一緒の部屋。
そこで偶然見てしまったユードラさんの寝間着姿は、大変色っぽかった。無防備な様子に呼吸困難になりそうになる。その後、信頼しているから、こういう姿を見せるのだと言われ、さらに悶えることになった。
彼女は確実に、私に止めを刺しにかかっている。
その日、あまりにもユードラさんのことを考えていたからか、夢の中に出て来た彼女を口説いてしまった。何を言っていたのか、何をしたのかは覚えていないけれど。思い出しただけで、地面を転げ回りたくなるような恥ずかしい夢だったような気がする。
翌日も翌日で大変だった。悪徳商会が、ユードラさんをいやらしい目で見て、「顔は大したことがないが、胸は大きいから高値がつく」と言っていたのだ。どこを見ているのかと、怒りを覚える。
この場でどうにかしてやろうかと思ったが、任務中なので、必死に荒ぶる感情を抑えた。
なんとか事件は解決したけれど、どっと疲れるような旅路だったのを覚えている。
それから、ユードラさんがお見合いをしたと聞いて、焦って求婚をしてしまった。
無残にもお断りをされ、さらに、怪我をさせてしまった。
ユードラさんは三日間目を覚まさなかった。こういう事態になったのは私のせいで、自分で自分を責めることになる。
三日三晩、彼女の傍で看病をしていたが、目が覚めた時に会わす顔がないと思い、馬の頭部を被っていた。
幸い、四日目にユードラさんは目覚める。が、頭を打った時に、記憶を喪失していたようだ。
大変なことになったと、馬の被り物の下で大粒の汗を掻く。
自分が誰だか分からないという彼女に対し、咄嗟に出てきた言葉は、最低最悪のものだった。
私はユードラさんに「あなたはここの家のお嬢様です」と嘘を吐いてしまった。
記憶がない彼女は、あっさりと私の言葉を信じる。取り返しのつかないことをしてしまった。
けれど、嘘だと正直に告白して、嫌われるのが怖かった。記憶がなくなったからと言って、ユードラさんとの接点がなくなるのは、もっと怖かった。
どうしようか悩んだが、答えは一つしか浮かんでこなかった。
結局、私は使用人に口裏を合わせるように頼み込み、咄嗟に出た嘘を本当のことのように振る舞ってもらうことになった。それは、父や義母(ラウルス君)まで巻き込むことになった。
一生懸命彼女への気持ちを伝えたら、両親は協力してくれると言った。
それからしばらくは、ユードラさんと平和な日々を過ごす。
けれど、最終的には良心の呵責に耐えきれず、正直に告白した。それとともに、今度で最後だと思い、ユードラさんへ気持ちを伝える。
彼女は私を許し、気持ちに応えてくれると言ってくれた。この日ほど、神とユードラさんに感謝をした日はないだろう。
こうして、私達は夫婦となった。
それからは驚きの連続で、父に呼び出されて褒められるというまさかの事態に直面することになった。自分の仕事に対する姿勢が認められるなんて、夢にも思っていなかった。
あの不機嫌の塊だった父も、ラウルス君と結婚して、変わったのかもしれない。
ユードラさんにこの一件を報告すれば、自分のことのように喜んでくれた。
彼女にお礼をしたいと思い、何か欲しいものはないかと聞けば、想定外の答えが返ってくる。
――でしたら旦那様、私にキスをして下さい。
照れながらお願いしてくるユードラさんが可愛すぎて、その場に倒れ込みそうになったが、なんとか堪えた。
細い肩を抱き寄せ、視線が交われば、彼女はにっこりと微笑んでくれた。
そんなユードラさんに、口付けをする。
幸せ過ぎて、どろどろに溶けそうになってしまった。




