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局長……仕事がしたいです

私と局長の関係も一気に深まった! と言いたいところであったが、あの日から数日たった今、あまり変わっていないというのが現状だ。職場に連れて行ってくれる気配すらない。

さすがに図々しく「仕事にも私を連れて行け!」とは言えない。どんな業種かも分からない職場だ。最悪邪魔者にもなりかねない。

依然として、紙の上での地味な交流は続いていたが、交わされる言葉は他愛もないもので。

のんびりとした平和過ぎる日々は過ぎていく。

けれど、我慢も限界というもの。私は激しく暇を持て余していた。勇気を出して局長へ手紙を出す。お話したいことがあります、と。

返事は執事の手によって渡された。封筒の中に入ったカードには、夕食のあとにでもと、丁寧な文字で書き綴られている。

私は公爵家よりいただいた給料を使って買った草カードの束と万年筆を持ち、指定された時間になると局長の書斎へ向かった。

部屋を見渡せば、無人に見える。恐らく、局長はすでに机の下にいる。随分準備のいいことで。


「ユードラです。夜分遅くに失礼しました。突然の申し出を受けていただき、光栄に思います」


大切な言葉は書面ではなく口頭で。これも父に習ったこと。

返事はないけれど、机の下から身じろぐような音が聞こえたので本人が居ることは確認できた。さっそく机の前にしゃがみ込む。

スカートのポケットの中からカードを取り出した。可愛らしい花柄のカードにはいくつかの質問を書いている。

一枚目に「相談があります」と書かれたものを机と地面の隙間に差し込むと、すぐさま「何でしょうか?」という言葉が帰ってきた。私は即座に予め書いてあった「もっと仕事を下さい」というカードを差し出して手番終了(ターンエンド)となる。

局長からの回答は「よく働いてくれています。これ以上頑張ることもないでしょう」という事実上の戦力外通知が。私は多大な打撃を受けてしまう。

だが、ここでやられっぱなしの私ではない。山札はまだ豊富にある。

二枚目の攻撃札、「暇でおかしくなってしまいそうです。局長の各お部屋の掃除だけでもさせていただきたいのですが」を差し出す。せめて部屋の掃除や書物の整理など局長が直々に許可してくれたら、いくらでも時間が潰せる。けれど、返って来た文章は否。それを許可してしまえば局長の部屋を担当している召使いを解雇しなくてはならないと書かれていた。まったくその通りで。考えなしに提案したことを謝罪すれば、気持ちだけ受け取ると返してくれた。


――ぐぬう、局長め。なかなかやりおる。


最終手段として用意していたのは、「このお仕事は私にはきちんと勤め上げることはできないようです。退職させて頂きます」というもの。

給料をたくさんいただける仕事は素晴らしい。けれど、このまま暇を持て余した状態が続けば、私は怠惰の塊となってしまう。自分らしく生きるには、ここでの暮らしは贅沢過ぎた。

躊躇(ためら)いは一瞬だけで、先ほどと同じようにさっと机の下にカードを書き込んだ。

中から局長が紙を掴むような音だけが聞こえる。なんとなく、返事を書くためのペンを走らせる音でも聞いて答えでも予想しようかと机に耳を寄せたが、その瞬間にゴン! と引き出し部分で頭を打つような音が聞こえた。

さすがの私も至近距離に居たので「うわ!」と声を出して驚いてしまった。すぐに「驚かせてしまい、申し訳ありませんでした」と書かれたカードが返ってくる。

局長は私の一大決心を書き綴ったカードの裏面に謝罪文を書いてくれた。なんてことをしてくれる。

だが、こんなこともあろうかと、同じ内容が書かれたものをもう一枚用意していたので、追い討ちをかけるかのように机の下へと差し込む。

さっきまですぐさま返信をしていた局長の動きが止まる。急かすようにコンコンと机を叩いたが応答はなし。


「あの、新しい方が決まるまでここで働かせていただきますので、どうかそれまでに――」


こちらの言葉が言い終わらないうちにガタリと物音がしたと思いきや、なんと局長が立ち上がっているではありませんか。

局長は視線をこちらに向けて、目が合えばすぐに逸らすという意味の分からない行動に出る。もしかして口頭で解雇を言い渡されるのではと、じっと局長の顔を見つめていたが、予想は外れることとなった。局長は一心不乱に何かを書いて顔を背けた状態で私に紙を差し出して来る。

紙面に書かれてあったのは、「職場に行けば、仕事があります。私の秘書のような業務になります」というものだった。


「局長、本当ですか?」


私はその言葉に舞い上がり、局長の元へ駆け寄ったが、ズザザザッと素早い動きで回避されてしまった。話の詳細を聞きたいのに、局長は私が近づけば同じだけ離れて行ってしまう。

しばらく部屋で追い駆けっこをしていたが、埒が明かないと思い、局長が机の下に入りやすいように椅子を引いて中に入るように示した。局長はすぐさま机の下の住人となり、私は机の前にしゃがみ込んだ。

溜息を吐きながら、このような状態では秘書なんか務まるはずもないと、先行きを不安に思う。

一緒に仕事をする前にしなくてはならないことがあった。

真っ白なカードに走り書きをする。『私達は少しだけ仲良くなる必要があります』と。

返事はすぐに返って来た。


――ふつつか者ですが、よろしくお願い致します、と。


嫁入り前の娘か! と、私は思いっきり突っ込んでしまった。

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