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公爵様と仲良くなるだけの簡単なお仕事  作者: 江本マシメサ


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ああ、力量不足かな

出かける前に最終的な打ち合わせをする。


「とりあえず、潜入調査の間、想定外のことがあって単独になっても、動き回らずにその場で待機をお願いします。何があっても、必ず助けに行きますので……ユードラさん?」

「あ、はい、分かりました」


なんだか、朝からまともに旦那様の顔が見えない。きっと朝から完璧な役作りに巻き込まれてしまったからだろう。そういう行動をするなら普段から演じて欲しかったが、今の状態はいつもの旦那様だった。


「どうかしましたか? 具合が悪いのであれば、ここで待機をしていても」

「いえ、大丈夫です」


やっぱり奥さんの役なんて私には無理だった。せめて男性とのお付き合いの経験でもあれば良かったが、あいにく異性から好意を寄られたこともなかったし、母から習った貴族女性としての教えがあったので、結婚をする相手以外の男性と親しくなるなんてありえないことだと考えていた。

しかしながら、あの時の旦那様の演技は見事としか言いようがない。というか、普段はおろおろしているのに、お仕事の時は陰から陽の雰囲気に変えることもできるようで、本当に凄い人だと思う。


「一つ、質問をしても?」


どうぞと言ってくれたので、遠慮なく質問をさせていただく。


「任務中の役作りとか、どのようにしてお勉強をなさったのかと」

「役作り? いえ、別に」


なんということだろうか。旦那様の任務中の振る舞いは自然と身に付いたものだと。なにかコツのようなものがあれば教えて欲しいと思っていたが、残念ながら良い情報は聞き出せそうにない。


「一体、どうして?」


何故役作りについて突然聞いてきたかと問われても、演技で迫られて自分を見失ってしまった、とは言えない。今回の件は完全に私の経験不足で、どう頑張っても取り繕えるものではないと分かり、適当に笑って誤魔化す。その後は護身具の説明を受けた。


「これは毒針が仕込んである指輪です。毒と言ってもすぐに意識を失うだけで、殺傷能力はありません」


旦那様の手の平にあるのは木製の指輪。それを親指の爪を指輪にある僅かな隙間に入れて滑らせれば針がヒュン! と飛び出してくる仕組みらしい。


「一応、扱いには気を付けてくださいね」

「了解です」


差し出してくれた指輪はその辺の雑貨屋で売っていそうな安物に見える。貧乏夫婦という設定だからかこのような品物が用意されたのか。なんとなく触れるのが怖くて恐る恐る手を出すが、装着する勇気がなくて動きが止まってしまう。


「旦那様、これは、本当に素人でも扱えるものですか?」

「ええ。針は外側に向かって出るので、自分には刺さらないようになっていますし、安心して使って下さい」


そんな風に言ってから、旦那様は私の固まった手に自分の手を添えて、もう片方の手で指輪を嵌めてくれた。


「どうかしましたか?」


視線が指先に集中している所に声を掛けられて、咄嗟に顔を上げればうっかり目が合い、支えられていた手を高速で引っ込めてしまう。


「すみません、ちょっと失礼します」


旦那様の返事も待たないで洗面所へと駆け込む。案の定、鏡の中に映る自分の顔は情けないものになっていた。けれど、そうなってしまうのは仕方がないことだと思われる。誰だって見目の良い男性に指輪を嵌めてもらったら羞恥心に震えるのではないのだろうか?

……否。おかしいのは私だ。朝の一件で旦那様を意識しまくっている。今まで事務的(ビジネスライク)なお付き合いをしていたのに、ちょっとした口説き文句や触れ合いだけでこういう状態になってしまうなんて。

そろそろ出発の時間だ。私は頬を打って気合いを入れたが、毒針付きの指輪を装着していたことを思い出して、なんてことをしているのだとぞっとしてしまった。

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