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公爵様と仲良くなるだけの簡単なお仕事  作者: 江本マシメサ


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お菓子を作ろう!

商店街の端にある雑貨屋に到着した。雑貨屋と言っても貴族御用達のお店。どれも高級そうな品々が並び、値札がついていないので恐怖を覚えることになる。

フロース様の旦那様は局長のお友達でもあるらしい。以前ちょっとしたきっかけでフロース様の想い人とは知らずに偶然に知り合いになったとか。


「なので、二人が喜ぶものをと、思いまして」

「左様でございましたか」


フロース様の旦那様も貴公子然とした高貴なお方なんだろうなあと、そんなことを考えていたら、どんな品を贈っていいものやらと悩んでしまう。


「あ、これなんかどうでしょうか?」


私が手に取ったのは硝子で出来た青い薔薇の花の一輪挿し。フロース様と言ったら薔薇の花という印象がある。


「青い花って確か縁起が良くて、花言葉は――」


なんだっけ? 幸せな二人に贈るに素晴らしい花言葉があった気がするが、思い出せない。


「『神の祝福』、だったような」

「あ、それです!」


他にも『不可能なことをやり遂げる』とか『奇跡』、とか色々な意味があるらしい。薔薇の花はあまり大きなものでもなく、控え目な美しさのある品で新婚さんの家の雰囲気も壊さないだろうと思い、購入を決めた。

帰宅後、局長はフロース様に贈り物を持って行くという手紙を書き、すぐに届けてもらったらしい。


◇◇◇ 


昨晩送ったフロース様へのお手紙の返事が、昼間に届いたらしい。中には嫁ぎ先でのお食事会の招待が書かれてあったとのこと。

局長は私にも手紙を見せてくれたが、そこには「ユードラも一緒に来てね」と書かれてあった。

まさか私まで招待されていたとは。一体どうしてと不思議に思う。さらに、手紙の招待日を見たら明日になっていた。局長曰く、特に任務など入っているわけではないので、訪問は可能とのこと。

午前中は仕事をして、午後は出かける準備をすると言う。予定を聞いて元気よく返事をしていたが、内心では盛大に焦っていた。招待された身とはいえ、手ぶらで行くわけにもいかないからだ。

フロース様の家に訪問するのは夕刻。現在、お店も閉まっているような時間帯なので、今から何かを買いに行ける状況でもない。もしかしたらと思って召使いの休憩所に走ったが、出入りの商人は先ほど帰ってしまったという。こうなったら得意の庶民お菓子を作るしかないが、今の時間の厨房は戦争状態――もとい夕食の準備で忙しい。なので、しばらく時間を持て余すことになる。


「何をしているのですか?」

「あ、マリリンさん」


馴れ馴れしく名前を呼べば即座に不機嫌顔になるマリリン。いいじゃないの~と言っても、名前は呼ぶなと怒られてしまった。


「ちょっと今、悩んでいましてね」

「でしたらお部屋でどうぞ。もうじきここは厨房の人間たちが休憩に来るので」

「そんな、冷たい!」


棚の中からカップと果実汁の瓶を持ち出し、マリリンの前に置いて注ぐ。


「それでですね、相談とは――」


隣からの鋭い視線が刺さっているのは分かったが、公爵様の睨みに比べたらマリリンの眼光なんぞ子猫の上目づかいのようなもの。怯むことはなかった。


「お菓子はどんなものをもらったら嬉しいですか?」

「何故?」

「明日、フロース様の家に招待されていて」

「なんですって!?」

「フロース様の家に」

「聞こえています! どうして行くことになったのかという意味です!」


マリリンにフロース様のお家に招待された経緯を語って聞かせた。


「やっぱりあなたは旦那さまと結婚なさるのですね」

「し、しませんって」

「そうでなかったら、そのような招待を受けるわけがないでしょう」

「いやいやいや」


結婚とかそういうのは考えたくない。今は局長とのんびり過ごせたらそれでいい。そんな風に考えていた私を、マリリンは言葉で現実を見ろとぐりぐり抉ってくる。


「そんなことよりも、お菓子です!」

「あなたの作る安っぽい菓子など持って行っていいわけがないでしょう!」

「やっぱり、そう思います?」

マリリンは公爵家の菓子職人に明日持って行けるようなものを手配させると言ってくれた。

「あ、でも、私、作るのを手伝いたいです。可能ならば、夕食のあとにでも作りたいのですが」

「分かりました。伝えておきます。」

「助かります!」


こうして手土産のお菓子問題についてはマリリンの采配のおかげでどうにかなりそうだった。


    ◇ ◇ ◇


夕食の忙しい時間を終えたお菓子担当の女性と一緒にお土産を作る。


「本日はリュバーブ・クランブルタルト、というお菓子を作りたいと思います」

「よろしくお願いします」


名前からしてお洒落な焼き菓子のようだ。リュバーブというのは真っ赤な茎で、酸味のあって爽やな風味の野菜らしい。

リュバーブ・クランブルタルトとはアーモンドのクリーム(クレームダマンド)とあまり聞かない野菜(リュバーブ)砂糖煮(ジャム)をタルト生地の中に流し込み、上からクランブルという穀物粉とバター、砂糖を混ぜてそぼろ状にしたものをかけて焼くものだという。


「まずはタルト生地を作りましょう」


器の中にぬるま湯で柔らかくしたバターを入れて、砂糖、卵、アーモンドパウダー、穀物粉の順で混ぜ合わせる。綺麗に纏まってきたら甘い香り付けをする油を数滴垂らし、また混ぜる。出来上がった生地はしばらく涼しい場所で放置。


「その作業が終わったら、タルトの中身を作りましょう」


その間にタルトの中に入れるアーモンドのクリーム(クレームダマンド)を作る。柔らかくなったバターをクリーム状になるまで攪拌し、砂糖、卵、アーモンドパウダーを入れて混ぜる。

この辺りで寝かせておいた生地の仕上げ作業に取りかかった。左右の親指と人差し指を繋げて丸を作った位の円形の型にバターをたっぷり塗りこんでから、薄く伸ばした生地を押し込む。個数は十五個ほど。して、その中に紙を敷いて布袋に入れてある重石を置いてこんがりと色が付くまで焼く。

タルト生地を焼いている間にクランブルを作成。穀物粉と砂糖、種子粉にバターを加え、綺麗に混ぜ合わさったら指先ですり潰すようにコロコロと生地を細かくすれば出来上がり。

竈の中からタルト生地を取り出す。重石と紙を退けて、円形の型からタルトを取り出す。重石を乗せていたからか、タルトは小さな器状に焼きあがっていた。


「では、タルトの中にアーモンドのクリーム(クレームダマンド)を絞って下さい」


絞り袋の中に入れたクレームダマンドをタルトの中へ六分目位まで絞り入れる。それをまた焼く。

クレームダマンドに火が通れば、その上にリュバームの砂糖煮(ジャム)を大匙一杯分乗せて、その上からクランブルを振りかけて竈の中で焼けば完成だ。

リュバーブ・クランブルタルトは作るのに結構手間がかかる、大変なお菓子だった。

片付けを終えたあとで力なく椅子に座っていたので、お菓子職人に心配をかけてしまった。業務が終わって疲れているところだったのに、申し訳なく思ってしまう。

厨房はお菓子が焼ける甘い香りに包まれている。しばらくすれば、鉄板を竈から取り出した。

こんがりと焼けたのを確認し、ついに、リュバーブ・クランブルタルトが完成した。


「ユードラ様、一つ味見をしてみましょう」


もしかしたら失敗をしているかもしれないから、と菓子職人は片目を瞑りながら言う。

粗熱が取れたタルトを手渡されたので、そのままがぶりといただく。

しっかり焼いたタルトはザクザクとしていた。クレームダマンドのしっとりとした舌触りとバターの濃厚な風味が口の中に広がり、優しい甘さを感じたかと思えばリュバームジャムの酸味が全体の味わいを深める。上に振りかけてあったサクサクとしたクランブルの軽い食感も楽しい一品だった。とても上品なお菓子である。


「美味しいです、これ! お店で買ったお菓子みたい」


作るのとっても大変だけれど! 出来上がったお菓子は完全に熱が引くまで放置して、翌日に包装することにした。作り方を丁寧に教えてくれた菓子職人に最大のお礼を言うことになった。

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