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公爵様と仲良くなるだけの簡単なお仕事  作者: 江本マシメサ


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局長のお帰りだい!

壊れた扉が開きっぱなしになっていて恥ずかしいので、午後からは馬の頭部を被ってお仕事をする。二回に渡って書類を持って来てくれた公爵家の人にぎょっとされたが、仕方がないお話で。局長が帰るまでに修理出来ませんよねえ、とご相談をしてみたが、出入り可能な人間が限られているので早くても明日になると言われてしまう。

局長は夕方には帰って来た。そして、蹴破られた扉を見て呆然としている。


「おかえりなさいませ、局長」

「……これは、一体、誰が?」


あら、局長、今喋った? あまりにも小さな声だったので、何と言ったか聞き取れなかった。

「局長、もう一度……!」と私が声をかければさっと背中を向ける。その後ろ姿から感じるのは不機嫌で不穏な空気。大切な仕事部屋を荒されたのだ。怒るもの無理はないだろう。美味しいものを食べたら機嫌も良くなるかなと思って、残していた焼き菓子の入った袋を取りに行く。


「あの、局長、これ――」

「あ、局長、帰っていたんですか」


私がお菓子を渡そうとしたその瞬間に、例の(ジョクラトル)が顔を出して局長に声をかける。昼間とは違い、男性の恰好で居る。こうして見れば普通のお兄ちゃんにしか見えないので不思議だ。なぜ、女装をしたらあんなにも美しくなるのか。素晴らしく化粧映えをする顔なのだろう。とても羨ましい。


「お話があるんですけど、今いいですか?」


ジョクラトルは空気も読まないでズカズカと部屋に入り、どっかりと長椅子に腰かける。

奴は局長が座っていないのに勝手に話し始めた。今回の任務のこと、ラピスさんの代役が必要なこと、垢ぬけていない私が適任だということ。


「というわけです。いいですよね、彼女を借りても」


局長は依然として私と道化男に背を向けていた。なんだか物凄く怒っているように見えるのは気のせいだろうか。今の局長からは、初対面の時にフロース様から受けたような息苦しいほどの威圧感みたいなものを感じている。ちょっと、というか、かなり怖い。


「返事がないってことは問題ない、ってことで大丈夫でしょうか?」


そんなわけあるか! 勝手な判断をしている部下を、局長は怒っているのだ。こんなにも背中で感情を語っているというのに、理解できないとは。私は、言ってしまえば部外者であり、国からの任務になど参加していいわけがない。この男はそれをまったく分かっていないようだ。

どういう風に声をかけていいものか分からずに、局長の背後をうろうろと歩き回っていた。そんな私の肩を馴れ馴れしくポンと叩く輩が現れる。言わずもがな、先ほどまで悠々とした様子で長椅子に腰かけていた『虹の道化師(ジョクラトル)』だった。


「やっぱり気になるから今日は街で張り込みをする。ついて来い」

「な、何言っているんですか!」


今から張り込みとか! 本日の仕事も終わったのであとは帰って食事をして眠るばかりなのに。

私は掴まれていた肩の手を払って局長の前に回り込む。


「今日は無理です。誰かさんのせいでお昼も食べ損ねたのでお腹も空きましたし、お仕事頑張ったので眠いです。なので、帰ります!」

「なんだと!?」


大きな声を発しながら近づいて来る男が恐ろしくなって、私は思わず局長の上着を掴んでしまう。

どうすればいいのか分からなくてぎゅっと目を閉じたまま、棒立ち状態で居れば、局長は私の肩を掴んでくるりと背後に回してくれた。これで、局長と『虹の道化師(ジョクラトル)』は向かい合う形となる。

「局長、あの~、すみませんが……」と言いかけて言葉に詰まる道化の男。やっぱり、局長の怒った顔は恐ろしいのか。背後にいて良かったと心から思う。

それから『虹の道化師(ジョクラトル)』は数分の間局長と私に平謝りをして、逃げるように部屋から去って行った。


「あの、きょくちょ、おっと!」

『虹の道化師(ジョクラトル)』が去ってすぐ、局長は私の前に片膝をついて頭を下げた。

「……部下が、大変な失礼をしました」

「いや、はい、その、大丈夫なので、頭を上げて下さい」


彼は私について詳しい説明を受けていないのかもしれない。失礼な行動の数々も、手の空いている仕事仲間への態度だと思えば不思議でもなんでもないものだ。


「このような事態が、二度とないようにしますので」

「それは、まあ、そうですね」


先ほどまで荒ぶった空気を放っていた局長だったが、今は雨に濡れた子犬のような顔をしている。


「あ、あとですね、もう一つお願いが」


立ち上がった局長へ物申す。これは改めてお願いすべきことなのかと迷ったが、またからかわれたら恥ずかしいので、勇気を出して言わせてもらった。


「私は局長の愛人ではないと、みなさんに伝えて頂きたいのですが。……どうやら私たちは親密な関係だと勘違いされているようで」


よほど衝撃的なことだったからか、局長は目を見開いたまま動かなくなってしまった。

復活するまで時間がかかりそうだったので、私は手に持っていた焼き菓子を食べながら、局長の意識が戻るのを待つことになった。

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