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公爵様と仲良くなるだけの簡単なお仕事  作者: 江本マシメサ


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ついうっかり

自分を落ち着かせるため、冷静に分析をしたあとで局長が座っている食卓へと戻る。


「すみません、遅くなりました」


先ほどまで頭を抱えていた局長は、今度は虚ろな目で扉のある方向を見つめていた。ちょっと怖かったので、なるべく視界に入らないように斜め前に座らせていただく。


「食事はお召し上がりになりませんか?」、と声をかければハッとする局長。どうやら私の存在は見えていなかったらしい。何故落ち込んでいるのかは不明だが、食事を取れば心も元気になるのではと思ってお皿にパンや串に刺さった肉を置いて勧めた。カップにも果実汁を注いで手の届く位置に置く。


「あの、本当に私もご一緒してもいいのですか?」


局長は朝、職場での食事は一緒に取ろうと言ってくれた。ここでは主従関係ではなく、仕事仲間だからという言葉と共に。局長は私の言葉にコクリと頷いてくれた。実は空腹だったので、思わず頬も緩んでしまった。食前の祈りを終え、局長の様子を窺う。まだお祈りをしている最中だった。

ぱっと瞼を開いた時に目が合った。が、今日はどうしてか視線が交わったまま逸らそうとしない。

なんだか気まずく思ってしまったので、適当に果物を皿に盛り付けて局長の前に差し出した。


「いただきましょうか」


空腹だからと自分だけがっつくわけにもいかない。局長が食事に手をつけたのを確認してから私もいただくことになった。

お昼からも書類の束を渡されて、朝同様に説明をしてくれる。ふと気がつけば、局長はいつも通りに戻っていた。やはり、食事の力は偉大だ。

作業内容に加えて、出かけ際に部屋に誰かが来ても出なくてもいいというご指導も受ける。

午後の仕事に出かける局長を見送り、仕事を再開。夕刻の時間帯になれば局長が戻って来て、家路に就く。地下部屋なので外の状況が分からないため、時間の把握は完全に時計頼りとなっている。仕事中は過ぎ去る時の速さに驚くばかりだ。

局長は馬車の中で一枚のカードを手渡してくる。が、馬車の中は真っ暗なので見えない。


「すみません局長、暗くて読めません」


王都の法定で夜間に馬車を走行させる場合、備え付けの外灯以外の明かりを点けてはいけないことになっていた。なので、すぐに書かれた言葉を読むことは不可能だった。

急ぎの用事なのか。何やら目の前でばたばたと動いている様子は微かに分かるが、真っ暗闇の中なのでどういう意図のある仕草なのかまったく分からない。

……というか、ずっと指摘するのを我慢していたけれど、局長、喋りましょうよ、と言いたい。

不便。本当に不便。無論、不便な思いをしているのは私がではなく局長だ。

以前、喋ることは出来ないのかという直球な質問をしたが、返ってきた反応は『喋れますが、恥ずかしくて』というなんとも言えない内容だった。今まで問題は生じなかったが、いい機会だと思って駄目元で言ってみる。


「小さな声で耳打ちするだけで結構ですので、どうか」


立ち上がって傍に行こうと一歩足を踏み出せば、その瞬間に思いもしない事態となる。車体が大きく揺れてしまい、突然の振動に体のバランスを崩してしまった。

窓に向かって激突! と思ったのに衝撃はいつまで経ってもやって来ない。何故ならば、局長が私の体を受け止めてくれたからだ。馬車は動きを止め、外から安否を気遣う大きな声が聞こえた。角灯を手にした御者が馬車の出入り口を開く。

一気に明るくなった馬車の中では、傾いていた私の体を支える局長が。顔があまりにも至近距離にあったので、言葉を失ってしまう。


「――ユードラさん、大丈夫ですか!?」


それが、局長の声だと気付いた時、私は近くにあった体を思いっきり両手で押して、自分自身も素早く背後に下がった。

しかしながら、下がった先が悪かった。窓枠で後頭部を強打してしまい、そのまま景色がぐるりと回り、暗転する。

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