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公爵様と仲良くなるだけの簡単なお仕事  作者: 江本マシメサ


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一歩、大きく踏み出さなければ!

それからの私達は頻繁にお散歩に行くようになった。もちろん、馬の頭部を被ってから。

ここ最近は毎日のように出かけるので、馬の被り物も洗濯するために種類が増えていた。

局長ともだいぶ仲良くなったような気もする。なので、少しだけ変化をもたらさなければならない。

「局長、少しよろしいでしょうか」

散歩の途中に申告を行うことにした。私の言葉に対し、首を傾げる局長。ここ一ヶ月ほど素顔を見ていないので、どんな顔をしていたものか思い出せなくなっていた。

決心を固めるためにじっと局長の馬面を見上げている私に、『何でしょうか?』というカードを手渡してくる。

「えっと、その、私は、馬の面を被るのを、止めたいと思っています」

私は二ヶ月にも及ぶお馬さん生活に別れを告げることを決心した。

「局長はそのままでも構いません。けれど、私は止めさせていただきます」

ずっと馬の姿で気楽にいければ良かったが、このままでは局長も人に慣れることはできないだろうと、そんな風に思ったから決心をした。

私は局長の返事も聞かないで馬の頭部を取り去る。朝、綺麗に結ってもらった髪も、化粧も、崩れていることだろう。いつも鏡の前で見て、がっかりしていたので知っている。そんな私を見て、意識するような人間でもないと思ってもらえればそれでいい。私は局長の顔を見上げる。

「私が、怖いですか?」

一歩、後ずさった局長へと問いかける。その様子を見ていれば答えは明白だが、私は引かなかった。

「ここに来てから、局長のことだけを考えていました」

そんなことを言えば、また一歩後ろへと下がっていく。

局長が気を許していたのは馬の頭部を持つ間抜けな召使いで、ユードラ・プリマロロという個人ではないのだろう。そんな事実に傷つきつつも、私は語りかけることを続けた。

「私は、あなたの幸せを、願う者の一人なのです」

そう。私は局長に害をなす人間ではない。そのことだけを分かってもらいたかった。

駄目だったか、と思っていたその時、一歩、一歩と離れていっていた局長の動きが止まる。

ほんの少しでいい。私は願いを口にする。

「局長、どうか私を受け入れて下さい。そうすれば、楽になれますから」

手を伸ばしても届かない場所にいる局長に聞こえるように、大きな声で言った。

局長は彫像のように固まり、動こうとしない。やっぱり無理なことだったかと落ち込んでしまう。

冷たい風が乾いた音をたてて吹きつけている。先ほどまで晴天だったのに、いつのまにか空は曇天(どんてん)、灰色になっていた。それはまるで己の心情を映し出しているようで、ふっと鼻先で笑ってしまう。

私は局長に一礼をしてから、部屋に帰ることにした。局長にも、心の整理をする時間も必要だろう。

とぼとぼと公爵家の綺麗に整備された庭を歩く。これからどうしようかな、と考えながら。

そんな風にぼうっとしながら歩いていれば、急に背後から手首を掴まれてしまう。

一体誰が、と振り返れば、そこには馬の被り物を取り払った局長の姿が。

私は驚きの表情のまま、身動きが取れなくなってしまった。

まさかの事態に硬直してしまう。あの局長が自分から馬の被り物を取るなんて思いもしていなかった。局長は何かを言おうとして口を開くが、声を言葉として発することもなく。

互いに黙ったまま時間だけが過ぎていく。

ふと、様子を窺おうと顔を上げれば視線が交わってしまい、局長は私から目を逸らしてしまう。

「あの、局長」

私が声をかければ、驚いた様子を見せている局長。相変わらずの挙動不審っぷりである。

まあ、人は簡単には変われない。勢いで変わろうとも頑張っても、頭が追いつかなかったりするわけだ。馬の被り物を脱いで、こうして私の前に立っていることだけでも奇跡的なことなのだろう。

今日のところは許してやろうと、優しい声で話しかけた。

「もう、帰りましょうか。暗くなりかけていますし、少し寒いです」

その瞬間に掴まれていた腕はパッと放されて開放となる。歩き出す私の後ろから局長がついて来るのが分かった。

思わせ振りな行動をした局長は私に何を言おうとしていたのか、それは本人のみぞが知ることである。

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