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公爵様、どうしてそうなった!?

我がプリマロロ子爵家は笑っちゃうくらいの貧乏貴族である。

日々の生活に追われ、地を這うように暮らしているが、血筋のおかげか皆明るい性格をしていた。まあ、空元気とも言うのかもしれないが。

私にもプリマロロ家の能天気な遺伝子はしっかりと刻まれているようで、二十二と貴族女性としては大きく()き遅れてしまった年齢になっても、さほど気にしていない。

家が理由もなく貧乏だということで、私は幼い頃より労働少女と化していた。

とは言っても王宮での軽作業なのでそこまで重労働ではない。主な仕事は掃除や洗濯などの下働き。

働き始めて五年も経てば侍女にならないかとも誘われたこともあったが、上流階級に関わるお仕事は基本的に私服だというのでお断りをさせてもらう。上流階級の方々に交ざって働けるような上等な服など持っていないからだという悲しい理由で。

勤労十年目となれば、役職を与えられる。この前も料理長に「最近貫禄が出てきたな」と言われてしまった。まったく嬉しくない。貫禄って何だよ、若い娘に使う言葉じゃないよ、と思いながら鏡を覗き込めば、人生に疲れた主婦のような顔付きが鏡に映り込み、若干落ち込んだこともあった。

ここ最近、ちょっと働き過ぎて、一気に老け込んだのかもしれない。過酷な労働は若さをも吸い取ってしまうようだ。

今まで家族のためと思って頑張ってきた。が、このままでは働き詰めの人生で何も楽しいことを知らずに、貫禄だけ無駄についた状態で人生の終わりを迎えるのではと、危機感を覚える。

ふと、目の前にあった花に視線を奪われた。洗面台の上にある花瓶の中では萎れかけた花が日の当たらない場所でくったりとしている。花瓶を持ち上げれば中の水は空。

誰にも愛でられずに静かに萎れていく花。思わず自分の姿と重ね合わせてぞっとする

咄嗟に、このままではいけないと思った。大恋愛をしたいとか、そんなことは今更望まない。望まないけれど、キラキラしたお綺麗な(かんばせ)の王子様とか、生真面目で融通の聞かない騎士様とかを、木陰から愛でるだけならば許されるだろう。

思い立ったら即行動。直属の上司に「目の保養をしつつ働きたい」と相談をすればあっさり人事異動の話が舞い込んでくる。


「ユードラ・プリマロロ。あなたがそのように言ってくれて助かったわ」

「はい?」


王宮で下働きの召使いを束ねている上司は、心底安心した様子で言った。どうしてそんなに助かったみたいな顔をしているのか不安になったので就労条件を読み直す。


・高貴な方にお仕えするお仕事です。

・主な仕事は軽いお世話等。

・秘密厳守。


王宮で働く時にも似たような条件が示された。別に就労条件でおかしなところはない。

念のため、突っ込んだ話を聞いてみる。


「あの、これって、どなたかにお仕えするお仕事ですよね?」

「ええ、そうよ」

「もっと詳しく教えて頂けませんか?」

「それは無理。こちらにも守秘義務があるから。契約が結ばれたらお話しできることもあるけれど」


なんだか怪しい。私の中にある女の勘がそう告げている。二十代も前半となり、少女時代のような「支給されたお仕着せで王子様の前に出るのは恥かしい!」と思っていた初心な心もなくなり、「お城から支給されているんだからこれが正装だろう!」と胸を張れるくらいには図々しくもなっていた。そんなお仕事経験から、これはお断りすべき案件ではないかと考える。


「あの、すみません、折角のお話ですが、やっぱり」

「拒否権はないわ!」


いきなり上司に手首を掴まれ、無理矢理ペンを握らされた状態で署名を強要される。


「も、申し訳ありませんでした! な、生意気にも、男前を眺めながら仕事をしたいだなんて言って……! ごめんなさい、許して下さい~~!」

「駄目よ。これ以上先方を待たせるわけにもいかないし」

「ひええええ」


最終的に羽交い締めにされ、親指の指紋にインクを塗りたくられて書類を押し付けられてしまう。


「署名はこちらできっちり書いておくから」

「それ、偽造じゃないですか!!」

上司は明後日の方向を見ながら畳んだ書類を内ポケットに捻じ込んだ。悪いようにはしないと強く主張する上司。条件は驚きの好待遇で、衣食住は保障。さらに働きに応じて報酬もあるらしい。


「そ、それで、お仕えする方とは?」

「――とある公爵様よ」

「え、公爵ってユースティティア家しか」

「とある公爵様!!」

「……は、はい。とある公爵様で大丈夫です」


国内に公爵家は一つしかなかったが、上司にはとある公爵様で通せと言われる。

しかも、そのお方の呼び方は「局長」でいいと指示された。どこの局の長だよと思ったが、これも秘密事項のようで詳細は謎であった。

それにしても、誰がこのような名誉あるお仕事を与えてくれたのかと考えてみれば、ある日の出来事を思い出す。


――遡ること一ヶ月前。休憩時間、お城の庭園を散歩している途中に、老齢のご婦人を見かけた。

その場で蹲っていたので、慌てて駆け寄って声をかけたのだ。服装からして上流階級のご婦人だと分かる。話を聞けば、供も付けずに出かけ、運悪く具合が悪くなったらしい。

力があり余っていた私はご婦人をおんぶして医務室まで連れて行き、あとは頼んだと看護師に言って出ようとする。が、ご婦人に名前を教えてくれと、引き止められた。私は、「名乗るほどの者ではないので」と言ってその場を去る。この台詞、一度言ってみたかったのだ。

驚いたのがそのあとの話。

自宅にある荷物が届いた。それは小さな小箱で、宛名は「親切なお嬢さんへ」とあり、差出人には「庭で倒れていた老婆より」とあった。あの時のご婦人からお礼が届いたのだと、大喜びで包装を剥ぐ。チョコレートか、それともクッキーか。心躍らせながら箱を開けば、中にあったのは――青い宝石がついた首飾りだった。箱の中のキラキラと輝く石が眩しくて、ゆっくりと目を閉じる。

一瞬脳内の思考が停止したが、すぐに我に返って急いで箱を閉じ、家にあった包装紙で包み直して返送した。差出人の名前と共に書かれていた住所はお城だった。


……もしかして、あの時のご婦人が私にこの仕事を与えてくれたとか?

仕事を紹介してくれた人についても上司に聞いてみたけれど、当然ながら答えは返ってこなかった。

終始混乱した中で、新しい仕事を受けることになった。


    ◇ ◇ ◇


異動は翌日からとなる。きちんと引継ぎをしてから新しい職に就きたいと言ったが、意見は綺麗に無視される。当分私の抜けた穴は上司がどうにかするらしい。

高貴な方に仕えるのは初めてなので礼儀がなっていなくて粗相をするかもしれない、不敬罪に当たってしまうから! と最後の足掻きとばかりに訴えたが、公爵様は王位継承権を返上しているので大丈夫だと言って笑顔で送り出されてしまった。

ユースティティア家といえば、王族と血縁関係にある大貴族だ。しかも、当主である公爵様は国王様の甥っ子で、年齢は三十を超えていたような。去年開催された御前武道会では準優勝という素晴らしい結果を残していた。大会では何故か仮面を付けるという謎の扮装での参加をしていて、試合中に仮面が外れ落ちてご尊顔を拝した話も出ていたが、詳細についてはあやふやだった。とは言っても、王族の皆様は揃って美形。毎日目が洗われる思いができるのではと、開き直ることにする。


こうして迎えた公爵家への初めての出勤の日。緊張でガチガチになっていた。

大きなお屋敷に到着し、新しい仕事着だと言って手渡されたのは、貴族のご令嬢が着ているようなリボン付きのブラウスに長いスカート。上等な服が何着も渡される。

それから、どうしてか公爵家の侍女さんの手によって綺麗に化粧をしてもらい、あまり艶のない髪の毛は良い香りのする何かを揉み込んでくれた。

ずっと自分の髪色を黄土色と思っていたが、鏡を覗けば綺麗な金髪に見える。今日の私は若々しい娘のようだ。数日前に見た生活に疲れた子持ち主婦と同じ人物とは思えない。そんな姿を見ていたら、曇り空のような目の色もしだいに白金のように輝いてくる。

女中頭に準備はいいかと訊ねられ、浮かれ気分だったことに気付いてしまった。

「旦那様との対峙でお困りになられたら、こちらを読まれてください」

一冊の本を手渡された。表紙には真っ赤な文字で極秘と書かれてある。何かと聞けば、彼女も内容は把握していないらしい。

女中頭の先導で公爵様の部屋に向かう。

部屋の中に入る時は、声かけやノックはしなくてもいいと言う。公爵様がびっくりするからだと。

……なんだろう。お世話をするのは成人済みの公爵様ではなくて、人見知り盛りの子猫ちゃんなのだろうか。接触は慎重にと言われたので、赤子の世話をするような優しさで接しますと誓った。


「――では、私はここで」

「え、紹介とかしてくれるのでは?」

「いえ、頼まれたのは部屋の前に案内するまでです」

「そ、そんな!!」


本当の本当に女中頭のお姉さんは私を公爵様の部屋の前に置き去りにしてしまった。一瞬にして額に汗を掻いてしまう。だが、ここで呆けている場合ではない。こうしている間にもお給料は発生しているのだ。

意を決し、「たのもー!!」と心の中で叫びながら、勢いよく扉を開く。

部屋の中には、当たり前だが執務中の公爵様の姿。驚いた顔をこちらへと見せている。

私が来ることに対して何も情報がいっていなかったのか、公爵様はひたすら瞠目するばかり。

気まずかったので「あ、どうも」と声をかければ、公爵様はささっと机の下にしゃがみ込む。

机の下に何かを落としたのかと思いきや、一向に顔を出さない。早速困ってしまったので、公爵様との対峙にと渡された本を開く。

なんと、そこには耳寄りな情報が書かれていた。『公爵様は極度の人見知りである』と。

うんうん、把握、人見知りだから隠れたのね。……でもこれ、この状態からどうすればいいの? と疑問に思って次のページを捲ったが、以降は白紙で、公爵様の攻略法などは書かれていなかった。

依然として、公爵様は机の中に入ったまま出てこない。

埒が明かないと机の下を覗き込んだら、公爵様が一瞬にして涙目になったので、そのまま見ない振りをすることに。

……なんというか、公爵様は大変な変わり者であった。

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