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陰の英雄



「どうだ学園には慣れたか? おい、リラックスしろよ。ここには俺とお前しかいないだろ」


「ええ、そうですが……」


「ったく、王国の陰の英雄が縮こまりやがってよ。ほら茶でも飲めや」


 私は時折学園長室に呼ばれて学園長とお茶を共にする。

 学園長であるユージン・ハーベストは勇者パーティーの魔術師であった。

 かつて共に戦った仲間。……いや、私は勇者パーティーを陰から支えていただけの男。仲間だなんて私にはもったいない。


 筋骨隆々で魔術師には見えないユージーンが豪快にお茶を飲む。

 魔王討伐は二十年前の話だ。ユージーンも年を取り顔には深いシワが刻まれている。


「やっぱお前の寿命はどうにかなんねえのかよ」


 聞かれたくない事を聞いてくるところも昔と変わっていない。


「こればっかりはどうしようも出来ません。私がスキルと多用しすぎたのがいけなかっただけです。はっきりと内部時計で余命が見えています。腕が動かないのもその影響ですので」


「ていうか、お前はこんな余生でよかったのか? クソガキにバカにされて教師からも疎まれて……。お前が学園生活をしたことがないって聞いたからせめて雰囲気だけでも感じて欲しいと思ってな……。くそ、見てる俺がイライラするんだよ」


「いえ、私はいまのままで十分幸せです」


 私のスキルは自分の生命力を莫大な魔力に変える事ができる。

 それを使い何度も魔王軍と戦った。

 魔王を討伐した後も、私は王国のために暗闘をする日々を続けていた。


 スキルを使うたびに寿命が減るのがわかる。

 一日分の寿命で勇者の一撃を超える力を使えた。

 若い頃はとんでもないスキルを手に入れたと思ったものだ。


 寿命なんて気にせずスキルを使った。そうしなければ仲間が死ぬと思ったからだ。

 そもそも私はどこの生まれとも知れない孤児で、王国の暗部が私を拾ってくれなかったらどこかでのたれ死んでいただろう。

 その恩から私は王国に絶対的な忠誠を誓っている。


「あん時は楽しかったな! 勇者のバカ野郎が突っ走って、俺も一緒に突撃して、聖女のクリスがそれを止めて……、お前はずっと陰からサポートしてくれた……。お前が居なかったら俺たちはどっかで死んでたよ」


「私は仕事を全うしただけです」


 勇者のサポートは暗部としての私の仕事の一つ。

 むしろ、魔王討伐後の混乱の方が仕事が増えてしまった。

 ……エリと出会ったのもそんな混乱の中であった。


「あれだろ、エリって娘を見守りたかったんだろ? 本当の事を言わなくていいのか? お前あの娘から嫌われているだろ?」


「……エリは貴族の娘です。……私とは、関係ありません」


「かーーっ、暗いヤツだなお前は! 昔はもっと熱い男だっただろ!! こんちくしょう! ブルーブラックが現れたら死ぬ、って伝説ができた程のヤツじゃねえかよ」


 まったくもって恥ずかしい過去だ。

 私の髪は青みがかった黒色だ。

 彼女が……、勇者が私に付けたダサいあだ名だ。


『あんた髪綺麗だね! そうだ、あんたこれからブルーブラックって呼ぶよ! 超かっこいいじゃん!』


 本当に恥ずかしい過去である。だけど、懐かしくてとても大切な思い出。


「っと、わりいな。お前に勇者の話は禁句だったな。忘れてくれ」


 忘れたくても忘れられない勇者との思い出。

 私が初めて人を愛して……、初めて感情というものを教えてくれた人。


「大丈夫です。……仕事に戻ります」


「おう、きばれや」


 私は何故か自分の髪を触りながら学園長室を出た。

 今では白髪交じりの青みがかった黒髪だ……。




 放課後になり、私は演習場で明日の授業の準備をする。

 遠目にはエリが見えた。サカキバラ先生と剣を交えている。


 気にしないようにしていた。

 だけど、本当はエリが一人ぼっちなのがひどく心配でたまらない。


 両親とは不仲だと聞いている。私にはどうしようもできない問題だ。

 学園で友達でもできればいいが、そんな様子もない。


 胸が痛い。どこまで踏み込んでいいかわからない。

 それに、学園の雑用係ジュン・タナカはエリから嫌われている。気持ち悪いと思われている。


 ……そんな私に何ができるんだ。見守る事しか出来ない。


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