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彼の世への鈍行列車


 怒りMAXの俺の肩を、とても冷たい手がガシリと掴む。


 振り返ると 喪服にサングラス、ちょっと古いがマト〇ックスのエージェントスミスのような人物が首を横に振りながら俺を諌める。


 掴まれた肩から怒りが抜けて行く気がする。

 喪服の胸には髑髏に鎌をあしらった徽章が輝き、瞬時に” 死神 ”と頭の中に言葉が浮かんだ。


 その男が、顎でこちらに来いと促す。

 このままで俺が手を下せば、悪霊に転落する・・・・そんな啓示がひらめく。


 俺は大きなため息を付き、何の疑念もなくその男の後に付き従った。


 ・・・・・・・・・・


 気が付くと何時もの車窓の風景。コンクリートのジャングルの中を電車が走っていく。

 どうも各駅停車らしく、黒服に連れられた如何にも死者といった人々が乗り込んでくる。


 病院から抜け出して来たのか寝間着姿や手術着のひと、全身ずぶぬれの親子らしき人物、虐待されていたのかガリガリに痩せた子供、其々が椅子に腰かけ静かに座っている。かくゆう俺もその内の一人だ。

 やはり多いのは高齢者。子供の姿も見えるが、小さすぎてまだ産月に(うみつき)達していないであろう者も見受けられる。


 よく目を凝らすとまだ糸のような物が付いている人も要るようだが、凄まじく細く、時折プツリ、プツリと切れて行く。


 そんな中ショッキングだったのは、バラバラに体が切断された中年男性が転がりながら電車に乗り込んできた。

 「 おっさん 大丈夫か?」

 俺は思わず声を掛けた。

 「 ああぁぁぁ もぉぉぉくぅるぅしくぅない・・・・」

 おっさんは、砕けた頭蓋から絞り出すように声を出す。あまりにも見た目がどうかと思い、ちぎれた体をもとの場所に戻すと、俺の中から何かが抜け出した様な脱力感と共におっさんの見た目がそれなりに戻った。


 かくゆう俺もいいおっさんなのだが、そのおっさんが折れの口元と腹のあたりを凝視する。


 ・・・・俺の内臓がはみ出している。

 急いで口から出ている物を飲み込み腹から出ている内臓を強引に手で押し込むと、見た目も少しはよくなった。・・・・気がする。

 まぁスーツはいまだに血糊でドロドロだが・・・・

 意識がしっかりある為に、今だに死んだことが信じられなかったが、ここにきて漸く自分が死んでいることに改めて気が付く。


 『 あぁ、やっぱりあれじゃ死ぬわな・・・・ 』


 血糊でドロドロだった内臓を押し込んだ手にはなにも付いていない。

 スーツの血糊が気になり一度脱ぎ手で払うと、光の粉のようなものとなって血糊が消えてゆく。


 俺の車両の隣を見ると、そこは犬猫などの動物ばかりの車両。

 其方はまるで移動動物園のような状況だ。

 バイオハ〇ードに出てくる腐りかけた犬猫鳥などもいる。

 見るに耐え兼ね視線を逸らすと、自分の乗っている車両にもスプラッター的な人々が乗っている。


 俺は要らぬであろう親切心で、それらの人々を見栄え良く整えるとまたもや俺の中から何かが抜けていくような感触に襲われる。


 しばらくそんな事を繰り返していると、漸く俺の乗る車両の人々は” みれる ”程度に成っていた。

 その様子を見ていた喪服の男が手帳を取り出し何かをメモリ始めた。何を書いているかは分からないがかなりの達筆で凄まじくページをめくり何事かを書きつ慣れていく。


 各駅停車の電車は、止まる毎に様々な人が乗り込んでくる。

 時折、細かった糸が何時しか太くなり下車する者もいたが、極々まれであった。



 ・・・・・・・・・


 駅がまばらとなり、車窓の風景も田舎の田園風景へと変わっている。

 周りを見渡すと、結構な人数が半透明に変わっていた。


 俺も急いで自分の手を見てみると、ずいぶんと向こうが透けて見えている。

 なんだか拙い気がして、自我を強く保つ。

 『 俺は俺だ、あずま ひろしだ!! 今日はプレゼンの日だ!!確りしろ 』

 薄かった手が、だんだんと濃くなり、もう向こうが透けて見えなくなってきた。


 周りに目を凝らすと、既に透明を通り越し、光の玉となって空中へと浮かび上がっていく人たちもいる。


 『 自我が薄いと、光となって成仏するのか? 』などと考えていると、またもや俺に付きそう喪服の男がカリカリとメモリ出す。


 突然車内アナウンスが流れる。


 ” 次は終点、彼の世の一丁目 彼の世の一丁目です。 みなさまお忘れ物の内容ご注意下さい。 次は終点 彼の世の一丁目です。 ”


 俺はポケットの中の携帯を探る。

 役用はバキバキに割れ四角い形は歪み、既に使い物になりそうにもない物体が出てきた。

 子供の小さい頃の写真などが入った、使い倒した形態だ。

 それを胸に握りしめると、光の粒子となって俺の中に消えていった。


 次にカバンを手繰り寄せる。

 少しヨレヨレになったプレゼン様資料とタブレット、これが今の俺のよすがだ。

 それをしっかりと胸元にかきいだく。


 そこでフッと思い至る。

 ここにある物は全て、うつつの物ではないはず。

 カバンを俺の中にと念ずると、さも当然の様に自分の中へと吸い込まれていった。


 『 意識はある。でも死んでいる。でもある程度の自由はある。これってネット小説でよくある異世界転生?転移?じゃね? 』

 またもや喪服の男が凄まじい勢いで、手帳にメモリ始めた。


 そして、電車は昭和の香りが漂う駅の中へと滑り込むのであった。

  

 


 

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