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サードフレーム・五月(2006)  作者: 瑞城弥生
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「ようこそパソコン倶楽部へ」


 満足そうに頷いてから、静香は活動内容の説明を始めた。

 年一回の行なわれる電算機大会の事はすでに木村から聞かされていた通りだった。そのために週二回、この部屋を使ってプログラミングと戦略について話し合うのが通常の活動で、それ以外は個人活動がメインだった。秋に行なわれる大会前には、休みなしで準備をする事になりそうだけど、自分にとっては申し分ない条件だった。部長が静香だというマイナス要因を差し引いても、ほかに類を見ない魅力的な部活だった。


「で、残りの二人ってどんな人ですか」


 一応幽霊部員についても聞いてみた。


「知らないわ」

「はい?」

「私も会ったこと無いんだもん」


 静香は二年生だったけど、残り二人は三年生だ。去年卒業した先輩に部を譲ってもらう時まで、その二人の存在を静香も全く知らなかったそうである。かなりの知識と腕のある人らしいのだけど、大会にも参加しない、完全なる幽霊部員のようだった。

 一通り説明を終えた静香は、部屋の隅にある二台のコンピューターの前に移動した。電算機大会には、カバーのかかっていない大会参加用のマシンを使う。


「トーカ製品の中でもっとも人気の高かった限定品、キタヤマ三号よ」


 さっきは気にもしなかったけど、確かに有名なマシンだった。とは言っても、オリジナルのスペックでは時代遅れだ。マシンの中身はかなりの部分が入れ替えられているに違いない。


「中身はまったくの別人なんだけどね」


 静香がマシンのスペックを読み上げた。キタヤマ三号のオリジナルはケースだけだ。それでも、大半が最新ではなかった。モデル三十二に比べてもかなり見劣りのするスペックである。


「こんなんで良いんですか」

「いいのよ。ほら」


 静香は本体の横に立てかけてある大会参加要綱と書かれた分厚い本を取り出した。三つ目の付箋紙をめくると大会で使うマシンの条件が記載されている。中学の部では、かなり低スペックに設定されていた。


「このキタヤマ三号(改)が、参加条件に当てはまる最高のスペックなのよ」


 参加要綱を見る限り間違いない。


「ところで、遅刻マンよ」

「伊勢だって」

「お前はどんなマシンを使っているんだ」

「うちのは……大したもんじゃないよ」


 先月から机の上に置いてあるのは、父親がモニターとして会社から預かってきたテストマシンだ。負荷の高いプログラムを無理に走らしたりして遊ぶ程度で、そのパワーを有意義に利用した事は無かった。唯一そのパワーに感謝したのは、都市シミュレーションゲームをする時だけだった。


「型番ぐらい、教えてくれよ」

「トーカの三十」

「普通……と言うより古いだろそれ」

「ケースだけだよ。中味はほら」


 テストにケースは関係ない。モデル三十は汎用性を高めるためにフル装備可能な拡張性の高いケースだから、実験機として都合が良かった。だから何時も机に載っているのはトーカ製モデル三十だ。ただし、中身は最新だった。


「それじゃ、家庭訪問をしましょう」

「はい?」

「新入部員の所有パソコンを調査します。まずはジュンの家。それから木村くんの家に移動するって事で」

「部長の家には行かないんですか」

「行かないわよ。私のはここにあるから」


 静香はキタヤマ三号(改)の隣にあるカバーのかかったマシンを差した。


「これ、部長のですか。見てもいいですか」

「だめよ」


 カバーに手を掛けたようとした木村を静香があわてて制止する。


「まだ駄目なの。時期が来たら見せてあげるから」

「え~」

「それじゃ、出発!」

「いまからですか?」

「もちろんよ」


 静香が出て行ったので、木村も慌てて後を追った。


「おい、ちょっと」


 彼女の性格は、昔と変わっていなかった。

 一人残された教室で、静香が自分のだと言ったマシンをしばらく見ていた。今はカバーがかかっているけど、その形ははっきりと思い出せる。

 やっぱりそのマシンが気になった。


「何やっているんだよ」


 木村が迎えに戻って来た。静香に呼んでこいと言われたに違いない。


「今行くよ」


 後ろ髪を引かれながらも、仕方なく木村を追って教室を出ようとした。


「また会いましょう」


 その時、部屋の中から声が聞こえた。

 もちろんそこには誰も居ない。

 カバーがゆれているだけだった。

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