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サードフレーム・五月(2006)  作者: 瑞城弥生
33/39

三十三

 最後の社会は散々だった。暗記物はもともと苦手な科目だし、何だか色々あって覚える時間が取れなかった。ほとんど白紙に近い答案を提出すると、すぐにテストの事は忘れ去った。


「今日は部活に出れるか」


 試験が終わるとすぐ木村につかまった。彼の雰囲気がいつもと違う。まるで怒っているようだった。


「悪い。今日はこれから用事があるんだ」

「女と会うんだろう」

「え? あ、うん」

「ちょっと来い」


 木村に引きずられてたどり着いたのは、三階にある空き教室だった。


「おまえ、部長の事ふったんだよな」


 この数日、いろんなことがあったから、静香の事は忘れていた。あれから部活にも行かなかったし、部活に行かなければ静香と会う事はほとんど無い。もともとあんまり関係の深い人ではなかったから、すぐに忘れてしまったんだろう。悪いとは思ったけれど、仕方の無い事だった。


「どういうつもりだ」

「どういうつもりって」

「相手は、あの女か。幻の柏崎五月。最近噂になっているよな」

「一応、そうだけど」

「あんな女やめて、部長にしておけ。部長の愛を受け入れてあげてくれ」

「なんだよそれ、大体おまえ、静香……じゃなくて部長の事好きなんだろ」

「そうだよ。だからこうして頼んでいるんじゃないか。部長と付き合ってやってくれ」


 木村はいきなり土下座をした。

 そこまでする彼の愛には感動した。

 だけど――。


「無理だよ」

「あれから部長、死んだように元気が無くってさ。見てられないんだ」

「でも僕は、柏崎さんが好きなんだ。部長に構っている余裕は無いんだ。それに僕は、もう逃げることが出来ないんだよ」


 逃げる何てありえなかった。だけど自嘲気味にそう言えば、木村も諦めてくれると思った。


「柏崎は人じゃないんだろう」

「そうらしいね」

「それでもか」

「それでもだよ」

「あの女に食われるぞ」

「ああ、本望だね」


 木村は更に何かを言いかけたて止めた。五月のことはきっと静香に聞いたのだろう。そんな事を話すほど木村と静香の仲が進んでいたのは意外だった。


「だからさ、部長の事はお前に任せた」


 だけど静香にしてみれば、木村の事より五月と別れさせる事の方が重要なのだ。その為に木村を利用したのだろう。昔から静香はそういう女だった。目的のためには手段を選んだりしないのだ。だから静香の事は好きではなかった。そして多分、次は直接何かを仕掛けてくるはずだった。


「部活には、もう来ないのか」

「行かない方が良いとおもうけど」

「そうだな」


 木村と別れて玄関を出た時、今度は後ろから大きな声で呼び止められた。

 佐友里だった。


「話があるんだけど」

「わるいけど急いでいるんだ」

「誰かと待合わせ?」

「ああ」


 それだけで佐友里は理解した様だった。


「そう。じゃあいい」


 あっさりと引き下がったから、静香の差し金ではないようだ。でも、彼女の悲しそうな表情にちょとだけ胸が痛んだ。


「悪いな、今夜電話するから」


 あれからずいぶんと時間がたったから、もう落ち着いて話すこともできるだろう。

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