三十三
最後の社会は散々だった。暗記物はもともと苦手な科目だし、何だか色々あって覚える時間が取れなかった。ほとんど白紙に近い答案を提出すると、すぐにテストの事は忘れ去った。
「今日は部活に出れるか」
試験が終わるとすぐ木村につかまった。彼の雰囲気がいつもと違う。まるで怒っているようだった。
「悪い。今日はこれから用事があるんだ」
「女と会うんだろう」
「え? あ、うん」
「ちょっと来い」
木村に引きずられてたどり着いたのは、三階にある空き教室だった。
「おまえ、部長の事ふったんだよな」
この数日、いろんなことがあったから、静香の事は忘れていた。あれから部活にも行かなかったし、部活に行かなければ静香と会う事はほとんど無い。もともとあんまり関係の深い人ではなかったから、すぐに忘れてしまったんだろう。悪いとは思ったけれど、仕方の無い事だった。
「どういうつもりだ」
「どういうつもりって」
「相手は、あの女か。幻の柏崎五月。最近噂になっているよな」
「一応、そうだけど」
「あんな女やめて、部長にしておけ。部長の愛を受け入れてあげてくれ」
「なんだよそれ、大体おまえ、静香……じゃなくて部長の事好きなんだろ」
「そうだよ。だからこうして頼んでいるんじゃないか。部長と付き合ってやってくれ」
木村はいきなり土下座をした。
そこまでする彼の愛には感動した。
だけど――。
「無理だよ」
「あれから部長、死んだように元気が無くってさ。見てられないんだ」
「でも僕は、柏崎さんが好きなんだ。部長に構っている余裕は無いんだ。それに僕は、もう逃げることが出来ないんだよ」
逃げる何てありえなかった。だけど自嘲気味にそう言えば、木村も諦めてくれると思った。
「柏崎は人じゃないんだろう」
「そうらしいね」
「それでもか」
「それでもだよ」
「あの女に食われるぞ」
「ああ、本望だね」
木村は更に何かを言いかけたて止めた。五月のことはきっと静香に聞いたのだろう。そんな事を話すほど木村と静香の仲が進んでいたのは意外だった。
「だからさ、部長の事はお前に任せた」
だけど静香にしてみれば、木村の事より五月と別れさせる事の方が重要なのだ。その為に木村を利用したのだろう。昔から静香はそういう女だった。目的のためには手段を選んだりしないのだ。だから静香の事は好きではなかった。そして多分、次は直接何かを仕掛けてくるはずだった。
「部活には、もう来ないのか」
「行かない方が良いとおもうけど」
「そうだな」
木村と別れて玄関を出た時、今度は後ろから大きな声で呼び止められた。
佐友里だった。
「話があるんだけど」
「わるいけど急いでいるんだ」
「誰かと待合わせ?」
「ああ」
それだけで佐友里は理解した様だった。
「そう。じゃあいい」
あっさりと引き下がったから、静香の差し金ではないようだ。でも、彼女の悲しそうな表情にちょとだけ胸が痛んだ。
「悪いな、今夜電話するから」
あれからずいぶんと時間がたったから、もう落ち着いて話すこともできるだろう。