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サードフレーム・五月(2006)  作者: 瑞城弥生
22/39

二十二

 瑞希が入れなおしてくれた紅茶は、信じられないほどおいしかった。

 瑞希の一方的な話はしばらく続いた。五月の事を聞きだすのは難しかった。西条も、一向に帰って来ない。お昼も近くなってきたから、一度帰って出直そうと考えた。

 彼女の話が一段落ついたとき、チャンスとばかりに立ち上がった。


「悪いな瑞希。ちょっと時間食っちまった」


 大きな荷物を抱えた西条が現れたのは、立ち上がったのと同時だった。


「おかえり。お客さんが来ているよ」

「客?」

「ほら」


 すぐに思い出してはくれなかった。


「ああ、そうだった。いやあ、うっかりしてた。取りに来るの今日だったのか、瑞希に預けておけばよかったな。それで、静香の奴はどうしたんだ」

「用事があるって言ってました」


 西条はそうかと言いながら持っていた荷物をレジの脇に積み重ねた。


「瑞希、店番ありがとうな」

「早くバイト見つけてよね。今日は伊勢くんのおかげで退屈しなかったけどさ。それじゃあね伊勢くん。また会いましょう」


 瑞希はやはり一方的に挨拶して、西条の店を出ていた。小学生を一人で仲通に出しても良いのだろうか。そう西条に聞いてみると、彼は大声で笑いはじめた。


「別に心配いらないさ。瑞希はとてつもなく強いからな。この辺のチンピラをぶちのめすくらい、蟻を踏み潰すより簡単だ。あいつを倒そうとしたら、ヒロシマ以上の核爆弾が必要さ。いや、それでも多分無理だろうな」


 それが一体何を比喩しているのか分からなかった。ただ、瑞希が強いと言う事だけは良く分かった。

 五月とどちらが強いのだろうかと言う考えが、一瞬頭をよぎっていった。


「ほれよ、予約品」


 西条はレジカウンターの下からパーツを一つ取り出した。それは先週ここに来た時、木村と二人で探していたものだった。

 今日の用事はこれで終わりだ。けれどもうひとつ、西条に聞いておきたい事がある。


「教えて欲しい事があるんですけど」

「なんだ。俺のメールアドレスか?」


 冗談は無視して話を続けた。


「そこに貼ってある写真の中に居る柏崎晴美さんのことを教えて欲しいんです」


 西条は荷捌き作業の手を止めた。


「俺は北山知佳の事しか知らないんだ。物心が付いた時には、ほかの四人は居なかったしな。最後に北山さんに会ったは、もう二十年以上も前のことだ。柏崎さんについて知っていることは何もないよ」

「じゃあ、柏崎五月と言う名前なら」


 名字が同じで顔が似てれば、何らかの関係があるに違いない。


「知らないね」


 あまりにも早く、やけに強い返事だった。

 だから五月の事を知っていると確信した。


「そうですか」


 西条は作業の手を止めなかった。だから、その表情はわからなかった。

 何とか聞きだしたいと思ったが、今日はたぶん無理だろう。何か言い方法が無いかと写真を見たとき、その横にアルバイト募集の紙を見つけた。週二回一日二時間。ハードウェアの知識がある人。それだけが条件だった。


「そう言えばバイトの募集をしているんでしたよね。まだ決まっていないんでしょう」


 瑞希が早く見つけろと言っていた事を思い出した。

 勤務時間が十五時から十七時までと、中途半端な時間だから、あまりなり手がいないのだろう。条件に年齢制限は書いてないから、中学生でもいいはずだ。


「僕にやらせてくれませんか。ハードウェアの知識なら、多分問題ないと思います」


 実際に組み立てた事は無かったけれど、パーツの事なら人より詳しい。アルバイトとしては十分だろう。


「お前、中学生だろ」

「でも、年齢制限書いてないですよ」

「普通の中学生は、こんな店には来ないからな」


 西条は近くに置いてあったパーツを拾い上げ、それについて幾つか質問した。比較的最近のものだったから、殆ど完璧にその名前や特徴を答えられた。


「なるほどな」


 感心しながらそのパーツを眺めていた西条は、やがてカウンターの奥から一枚の紙切れを取り出した。


「必要事項を記入しろ」


 真っ白い紙に、住所と名前、それに連絡先を記入した。手続きはそれだけだった。


「来週からだから。遅れずに来てくれよ」


 ここでバイトをしていれば、いつか五月に会えるはずだ。たとえあえなくても、何か情報を得る事ができるだろう。ついでにバイト代も入るから一石二鳥だ。

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