十七
佐友里は、家に着くまでずっと一人で喋っていた。部活の事とか、クラスの事とか、去年まではわざわざ話す必要のないことを、ただひたすらしゃべっていた。そういう事を話題に出来るのが新鮮で楽しいに違いない。
「そういえば今日、図書室に柏崎さんが来ていたんだよ。金曜日なのに珍しいなと思ってたら、久しぶりに学校に来たんだって。それなのに教室には一回も顔を出していないんだよね。ほんと変わった人。ジュンは知ってたっけ? 柏崎さん」
その名前を聞いただけで、胸が高鳴る。
「ああ、彼女有名だからな」
入学式の日に助けてくれたのは彼女だと、まだ佐友里には言ってなかった。だけどいまさら言うのもどうかと思った。佐友里も忘れているだろう。
「ところでさ、明日は暇?」
「ごめん、部活なんだ」
「ふーん。珍しいね」
パソコン倶楽部に入った事を佐友里に言ったかどうか思い出せない。だけど何も聞いてこないから、多分知っているのだろう。
「そっか、私は久しぶりに休みなんだよ。たまには買い物にでも付き合ってもらおうと思ったんだけどな……」
「わるいな。今度付き合うよ」
佐友里と別れて家に帰ると、五月の顔が浮かんできた。学校に来ていたのに逢えなかったというのが残念でたまらなかった。金曜日に図書室に寄ったと聞いて。何だか腹が立ってきた。でも何に対して怒っているのか、自分で説明できなかった。
その日は久しぶりに五月との再会を想像しながら横になった。今回は商店街で偶然出会う設定だ。
そしてその夜、夢を見た。
五月はやっぱり、戦っていた。