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サードフレーム・五月(2006)  作者: 瑞城弥生
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十四

その日、五月は現れなかった。


「柏崎さん来てなかった?」


 帰り際に確認すると、確かに本は返してあった。


「代わりの女の子が返しに来ていたよ」


 端末を覗き込んでいた三年生が、横からそう教えてくれた。


「だめだな、こりゃ。ついていないって言うよりも、避けられているって感じだな」


 木村は嬉しそうだった。


「なに、そのうち会えるさ」

「だといいけどな」


 五月に会いたいという気持ちは、以前より少し落ち着いていた。既に一ヶ月が経過していたし、こうまで会えないと、縁が無かったのではないかと考えたりするからだ。


「実は、お願いがあるんだ」


 図書室を出ると、木村が遠慮がちに話を始めた。


「何だよ改まって」


 言い難そうに頭を掻きながら、木村は玄関まで無言で歩いた。


「大会の準備、手伝ってくれないかな」


 パソコン倶楽部は年に一回の大会を目標に活動している。今年は部長である静香と、一年生の木村の二人だけしかいなかった。人手不足は火を見るより明らかだった。


「どうして」


 分かっていたけどそう聞いた。


「ハードウェアに精通している人が居なくてさ、作業が進まないんだよ。部長の事なら心配しなくて大丈夫だから。俺がきちんと対応するし」

「いいよ」


 簡単に了解したので、木村は驚いていた。


「ほんと?」

「ああ。でも水曜日は図書館に行くから勘弁してくれな」

「分かっているって。じゃあそれ以外の日は大丈夫ってことで」


 文庫本はあらかた読んでしまったし、五月が来るのは水曜日だけと分かっているから、それ以外の日は暇だった。静香と会うのは億劫だけど、それも何とかなるだろう。


「もしかして部活やる気になったのか」

「そう言う訳でもないんだけどな。今日は遅いから明日からでもいいよな」

「ああ、よろしくな」


 玄関で木村と別れて家に向かった。

 何となく気になって商店街を覗き込んだ。

 長い髪の女の子が通り抜けた。

 同じ中学の制服を着ている少女だった。

 その後姿を一度も忘れた事はない。

 あまりにも想定外の出来事で、追いかける事も、声を掛ける事も出来なかった。

 彼女は人ごみをすり抜けると、瞬きする間に視界から消えてしまった。


「五月」


 完全に彼女の姿を見失ってから、やっとそれだけ言葉になった。

 追いかけるほど勇気は無かった。

 でも、彼女がここに居ると確認できた。

 それだけで嬉しかった。

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