十二
それから数日後の昼休み、木村がまたもや椅子と共にやってきた。以前と同じくやきそばパンとリッチロールを抱えている。
静香と顔を合わせたくないと言う理由だけで、部活に行かなくなっていた。教室でも何となく木村の事を避けていたのは、部活に誘われたくないからだ。
「どうしたんだよ。最近冷たいじゃん」
「いや、別にそんなこと無いって」
意図的に避けていたのは事実だけど、面と向かってそう言うわけにも行かなかった。
「ちょっと用事があってさ、部活は……」
「いや、いいんだ。今日は部活の話じゃないんだよ。部長にあんな風に言われたら行きづらいのは分かっているから気にするな」
静香の言葉はそれほど簡単には頭から離れなかった。五月の事を思い出すのと同じ頻度で現れては気分を害した。
五月が見つかりさえすれば、この苦しみから逃れられる。そんな気がした。
「それよりさ、見つけたのか」
「何を」
「暴漢から助けてくれた、美少女の五月ちゃんだよ」
休み時間を中心に、一年生の教室を探して歩いた。顔見知りがいるクラスでは、五月と言う女の子が居ないか聞いてみた。
それでも五月は見つからなかった。
彼女の存在を証明できるだけの情報さえ皆無だった。地道な聞き込みとか、張り込みが不可欠だとは思うけど、そう言った作業は自分に向いていないのだと痛感した。刑事とか探偵の類には成れそうも無かった。
「実はさ。その少女の情報があるんだけど、買わないか?」
木村は引き換えに数学の宿題を見せるように提案してきた。そんなもので五月の事が分かるならお安いものだと了承した。
「名前は柏崎五月。五月と言う名前の在校生は全校生徒の中にもこの子一人だ。一年八組出席番号十五番。生まれつき病弱で、普段は保健室で授業を受けている。それで教室には顔を出さない。だから彼女が同じクラスだと知らないやつもいるらしい」
「それで見つからなかったのか。でも、その病弱って言う設定はおかしいくないか。彼女は熊みたいな男を倒したんだぜ」
目の前で大立ち回りをした少女が、病弱だと言うのは納得できない。
「その点は未確認なんだけどな、病弱でも強いやつは居るだろうさ。沖田総司とか」
「いやあれは違うだろう」
「保健委員の証言によるとだな、彼女はすごい美人で、入学式もかなりの遅刻をしたんだとさ」
それだけ条件がそろっていれば、たぶん本人に間違いない。突然発作が現れるとか、余命幾許も無いとか、そういった可能性が無いともいえない。その子が入学式の日に助けてくれた少女かどうかは別にしても、五月という少女がこの学校いるのは事実だった。数学の宿題でお釣りが出るほどの情報だった。
「どうだ、役に立ったか」
「ああ、もちろん。ありがとな。はいこれ」
木村は嬉しそうに数学の宿題が書かれたノートを受け取った。
「それとな、彼女、たまに図書室に現れるみたいだぞ」
「図書室?」
「ああ、良く小説を借りていくらしい」
図書室といえば佐友里である。彼女はソフトボール部のほかに図書委員も掛け持ちしている。作家を目指し小学校でも図書係をやっていた。佐友里に聞けば、もっと早く分かったに違いない。
「大人しくてとっつきにくいけど、美人で頭のいいお嬢様」
「何だよそれ」
「彼女に対するみんなの印象」
言葉使いがやけに丁寧で、その上美人であればとっつきにくいのは頷ける。でもそれらの評価には大事な点が抜けている。
五月はとてつもなく強いのだ。
「後半の情報は付けにしておくから、何かあった時使わせてもらうよ」
自分で喋っておきながら報酬を要求するのもどうかと思うが、とりあえず、何処に行けば五月に会えるのかはっきりした。
「で、どうするんだ」
もちろんやるべき事は一つである。
「図書室で張り込む」
「悪いけどおれは付き合わないぜ」
「どうして」
「こっちはこっちで忙しいんだよ」
木村はそう言って笑った。




