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勇者パーティーの面々にRPG的な職業システムは存在していないが、習得する呪文やステータスで大体の役割が決まっている。
例えばエルなら前衛の物理攻撃役、親友キャラなら前衛の防御役という感じだ。当然敵との相性も出てくるので、一人のキャラを軸に攻略していくのは割と難しくなっている。
ちなみに勇者は大体何でもできるオールラウンダーである。さすが勇者。
話は変わるが、ピラミッドには古代文明の遺物が眠っていると言われている。それが関係しているからか、内部はアンデッド系の魔物が約半数を占めているのだ。
そして、アンデッド系に相性がいいのは治療を始めとした聖属性に秀でた幼なじみである。
つまり、このダンジョンは幼なじみの好感度を稼ぐのにもってこいというわけだ。
わけなのだが。
「ホーリーブレード!」
「グギャアアアアア!!」
「ははっ、大したことないな! どうした、アンデッドは不死身なんじゃないのか?」
「ちょっと、あたしの仕事無くなっちゃうじゃない」
「そんなことは知らん、倒したければ俺が倒すより先に倒すんだな!」
「そんなの無理に決まってるでしょ! このバトルジャンキーがーっ!」
「…………」
「ふははははホーリーバースト!」
「ギョエエエエエエ!!」
「やりすぎ」
「!?」
この勇者、やりすぎである。
なんでも出来るからって調子に乗ってアンデッドを片っ端から蹂躙するさまを見せつけられた。
幼なじみにアピールしたかったのかもしれないが、それで本人の仕事を奪っていては本末転倒だ。
そもそもゲームでは勇者、聖属性の攻撃出来なかったよね?
ずっと一緒にいたはずなのにいつそんなの覚えて来たの?
「エル、俺はやりすぎてたか? やりすぎてる俺のことが嫌いになったのか!?」
「ん」
「仕事を奪って悪かった! 謝る!」
「手のひらサイクロンかしら。まあ、いいわよ。どうせこの子にいいとこ見せたかったとかそんな理由でしょ」
「ああ、その通りだ。肝心のエルには嫌われてしまったがな……」
「この子があんたを嫌いになるわけないじゃない。あたしのために怒ってくれただけよ」
「そう……なのか? エル……」
「ん」
「俺の事、許してくれるか? 嫌いにならないか?」
「ん」
「エル……!」
考え事をしていたら突然勇者に抱きしめられていた。そばで胸焼けしたみたいな顔をしている幼なじみは何か関係があるのだろうか。
何にせよ、勇者が暴れ回ったおかげで楽に最奥まで辿り着いた。
ピラミッドの最奥にはボスがいないが、その代わりに罠が仕掛けられている。
ここには宝箱が一つ置かれているだけに見えるが、この宝箱が罠なのだ。実は壁の一部が隠し扉となっており、宝はそこに隠されている。
仮に隠し扉に気付かず素直に目の前の宝箱を開けてしまうと……
「これが宝か、宝箱も他のものより豪華だな」
「中には何が入ってるのかしら」
「よし、開けるぞ?」
「ええ」
ガコン。
「「!?」」
こんな風に、足元の落とし穴が作動するのだ。ピラミッドと言えばこれなので、しっかり引っかかってくれて満足だ。二人共いい反応をしていた。
「痛いな……エル、大丈夫か?」
「ん」
「……なんでちょっと満足げなんだ?」
「なんでもない」
「そうか。しかし、たちの悪い罠だな。おそらく本命を隠すためのものだろうが、完全に不意を突かれたぞ」
「ん」
再び最奥の部屋へ戻って来ると、勇者は壁や床を丹念に調べ始めてまもなく見事に隠し扉を見つけた。さすが勇者、探索に慣れている。
無事に黄金のブローチを手に入れた勇者は、ぼくとブローチを見比べて何か幼なじみと相談しているようだ。多分イベント会話だろう、攻略が順調そうで何より。
帰り道も結局幼なじみやぼくはほとんど何もしなかったが、いいのだろうか。全部勇者一人でよかったんじゃないのか。
「これはレアチャームだろうが……ゴテゴテしすぎているな」
「あの子には似合わなさそうね。と言うか、あたし達にも多分似合わないわよ」
「うむ。無理に装備する必要もないだろう、記念の品としてふくろに入れておくか」
「町長には報告しときましょ」
ピラミッドを踏破したぼく達は、昨日に引き続きまた町長に感謝された。
ピラミッドで一番価値のあるであろうものを持ち帰ってきて良かったのか聞いたら、まだまだ宝は沢山あるので引き続き冒険者の人達は来るだろうとのことだ。
まあ、勇者や幼なじみのように聖属性の攻撃ができる人でなければ奥までは潜れないだろうし、大丈夫なのかもしれない。
そしてぼくは今、久しぶりに一人で町を歩いている。勇者に「たまには一人で歩きたい、勇者は幼なじみと町を回るといい」と伝えて別れたのだ。
別れ際に武器を絶対手放すなと念を押された。昨日のこともあったし、しっかり頷いておいた。
これは我ながら完璧な作戦じゃないだろうか。自然な流れで勇者と幼なじみを二人きりにし、町デートさせる。帰ってくる頃には二人はラブラブになっていることだろう。
しかし……一人になっても、何をすればいいか全然思いつかない。思い返せば今まではいつも勇者が隣にいてくれたし、何をするにも勇者と二人でやっていた。
それが自然な状態だったぼくにおいて、現在の状態は不自然なんじゃないだろうか。
いやいや、そんなはずはない。前世ではほとんど一人で過ごしていたのに、今更一人になったって寂しいはずがないんだ。
邪念を振り払って道を歩く。しばらくすると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「サボテンステーキ、いかがですかー? あれ、あなたは昨日の!」
「ん」
「昨日はごめんね、あと本当にありがとう! あなたのお兄さんが来てくれなかったら私達もあなたもどうなってたか……」
「ん、いい。勇者は絶対来るから」
「信頼しているのね。ね、良かったらうちで食べていかない? もちろんお代はいらないわ。今日は一人なの?」
「ん、一人。お言葉に甘えて」
「分かったわ。一名様ごあんなーい!」
誘拐イベントの姉妹の家は食堂をだったのか。降って湧いた幸運に、一も二もなく飛びついた。
適当な分だけ注文して、ふと思いついた。さっきの悩み、あの子に相談してみるのはどうだろう?
料理を運んできてくれた際に、話を聞いて欲しいと伝えると快諾してくれた。
「話を聞くのはいいけど、ソレ本当に全部食べれるの……?」
「ん」
「そ、そう。それで、話って? もしかして、お兄さんのことかしら?」
「なぜ分かった」
「女の子の勘よ。なんとなくそんな気がしたの。話してみてくれる?」
「ん。勇者がいないと、落ち着かない」
「お兄さんがいないと落ち着かないのね。具体的にどんな感じなの? 寂しい? それとも悲しい?」
「ん……さむい?」
「寒い、ね……。ちなみに、そのお兄さんのことは好き?」
「好き」
「は、はっきり言うのね。なら、答えは簡単よ」
「?」
「それはね、好きな人が隣にいないから。あなたは、好きな人の隣にいたいタイプなのね」
「好きな人の隣に……でも、」
「好きの気持ちに言い訳しちゃダメよ。ご飯を食べたら、早くお兄さんの隣に行くといいわ」
「ん……そっか」
「そうよ。私は歳の差なんて、気にしなくていいと思ってる。応援してるわ。」
「ん、ありがと。分かった」
「良かった。ふふ、いつか本物の結婚指輪が付けられる時が来るといいわね」
「?」
「って、本当に全部食べちゃった……周りのお客さんの五倍はあるはずなのに」
結婚指輪の話なんてどこから出たんだろう。
とにかく、やっと分かった。ぼくは勇者が好きだったんだ。だから隣にいると落ち着くし、一人だと寂しく感じる。
前世では出来たことが無かったからどんなものなのかも全然分からなかったけど、これが多分……
友達ってやつなんだろう。
疑問が晴れてすっきりした。
帰ると勇者がプレゼントをくれたので、「ありがとう、ぼく達ずっと友達でいようね」と感謝を伝えたら宿屋全体の空気が一瞬で凍った。
ぼくも遂に魔法を使えるようになったんだろうか。ちなみに、プレゼントの中身はブローチだった。