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RPGとギャルゲーを混ぜたようなこのゲームには、発生させると好感度の上がるイベントがいくつも存在している。
例えばぼくこと幼女戦士エルの場合は二人で魔物狩りに出るイベントや、各キャラ共通で町でのデートイベントなどがある。
幼なじみキャラの固有イベントはあまり覚えていなかったが、それなら町でデートさせればいいだろう。
町に着くなり二人で魔物狩りに行こうと誘ってきた勇者の隣で戦いながら幼なじみと勇者をくっつける算段を立てていく。
「ははっ、やっぱり二人きりだと無茶出来ていいな! フルメンバーの方が安定するが俺はエルと突っ込む方が好きだ」
「ん」
勇者はけっこうバトルジャンキーだ。死闘でも蹂躙でも組み手でも、とにかく戦うこと自体が好きらしい。
フルメンバーの時は自重して連携するが、ぼくやおじさんと組む時は突っ込んで暴れ回る。
でも幼なじみはヒーラーだし、戦闘関連でくっつけるのは難しそうだ。
「よくも俺様の部下を好き勝手殺し回ってくれたな、勇者ァ!」
「なんかでかいのが出てきたな。エル、連携行くぞ」
「ん」
「え、なにその技ギャアアアアアアア!!」
「大したことなかったな」
「ん」
勇者はこの前小さくて可愛いものが好きみたいなことを言っていた。小さくて可愛いと言えば大抵の女の子も好きだろう。
後で町に戻ったら勇者と買い物をしよう。そこで勇者に小さくて可愛いものを買わせて、ぼくが同じものを幼なじみにあげればペアルックでなんかいい感じになるはずだ。
となると、小さくて可愛いものを考えておく必要がある。さっきから大量に積み上がっていく魔石みたいなのは小さいけど可愛くはない。
「ふん、ここら一帯の魔物を軒並み殺した上に儂のハイオークを退けたか。だが、貴様等もここで終わりだ!」
「今度は小さいけどちょっと強そうだな」
ぬいぐるみ……チャーム……ストラップ……「我が名はこの町を恐怖で支配する魔人、ゲゼル! 魔王様の名のもとに勇者、貴様を排除して」「うるさい」「グワアアアアアアアア!!」
何かうるさいので潰しておいて、思考を再開する。今挙げた中なら好感度とステータスが同時に上がるチャームがいいだろう。
「エル、さすがだな。惚れ惚れするほど無駄のない動きだ」
「ん、ありがと」
勇者が頭を撫でてくれたのでお礼を言っておく。いつの間にか魔物は倒し切っていたようだ。
「よし、そろそろ帰るか。」
「…………」
「エル、どうした?」
「お買い物、いい?」
「いいぞ。丁度俺も買うものがあったしな」
帰りぎわに勇者も誘って、町へ向かう。
「エルから誘ってくるのは珍しいな。デートしたかったのか?」
「ん」
「それなら、いつでも誘ってくれ。というか、俺としてはさっきのもデートのつもりだったんだけどな」
「ん」
「やっぱり、エルも女の子だもんなあ。買い物とか食事の方が好きなのかもしれんが……でも、またこういうのもやりたいな。エル、いいか?」
「ん」
「ありがとな。やっぱり俺はエルが好きだよ」
「ん」
勇者の話を聞き流しながら記憶の中でマップを手繰り寄せていると、町に着いた。ちょうどチャームの店の場所も思い出すことができた。
勇者の手を引っ張って道を進む。この町の大通りには視点移動を使わないと見えない道が隠されており、そこの奥にレアなチャームの店があるのだ。
興味深そうに辺りを眺める勇者とともに店に入ると、店員が迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。どのような商品をお探しですか?」
「エル、先いいぞ。」
「ん。ペアの可愛いお守りが欲しい」
「かしこまりました。こちらいかがでしょうか?」
店員は、一対のハート型のお守りを持ってきてくれた。これは、見覚えがある。
たしか愛のお守りというチャームで、片割れをプレゼントすると相手の好感度が極大上昇するアイテムだ。本来はレアなモンスターのレアドロップなので、多分これはレプリカだろう。
愛のお守りは手に入れるのに時間かかった。そもそも落とすモンスターからしてなかなか会えない上に、落とす確率が渋いのだ。
一日かけてようやく手に入れたが、ぼくの二度とやりたくない苦行ラインナップのうちの一つとなっている。
「それはどんなチャームなんだ?」
「こちら愛のお守りというチャームで、最近うちに入ったものです。かなりレアでして、十年に一度ぐらいしか見られないんですけどね」
「そうなのか。それは本物なのか?」
「ええ、この店に誓って。なんでしたら触って頂いて構いません」
「じゃあ、失礼……本当にそうみたいだな。何らかの魔力を感じる、レアチャームの特徴だ」
「はい、その通りです。」
「いくらだ? 俺が買おう。」
「少しお高いですが……」
「なんだ、そのぐらいか。では払う、ついでに探しているものがあるんだが」
「はい、何をお探しでしょうか?」
「首輪はないか? 出来れば、居場所や健康状態を常にチェックできるものがいい」
「それでしたら、こちらはどうでしょう? 魔力を同期させることで、常に着用者の状態を確認出来ます」
「おお、これは似合いそうだな。買おう、一緒に会計してくれ」
「お買い上げありがとうございます」
「よし。エル、じっとしてろよ」
「ん」
カチャカチャ。
「よしできた。チャームも首輪もよく似合ってるぞ」
「ん、ありがと」
前世の記憶に思いを馳せていると、勇者の用事も終わっていたようだ。何か忘れているような気もするけど、気のせいだろう。
勇者に手を引かれて、店を出る。大通りに出ると町の人達がぼくの首をぎょっとした目で見つめてくるが、何かあるのだろうか?
そう言えば、さっきからなぜか首周りに安心感がある。安心感なら問題ないか。
「エル、クレープの店があるぞ。食べて行くか?」
「ん、食べる」
「買ってくるよ。いくつだ?」
「三つ欲しい」
「分かった」
やったぁクレープだ。勇者はこういう時何も言わずに奢ってくれるのが優しくて好きだ。
クレープを頬張りながらこれからのことについて考える。たしか、明日は町長の家へ行くんだっけ。
町に着いてから一日は休憩日にして、皆も思い思いに休んでいるみたいだ。幼なじみはお姉さんとこの町の食材で新料理の研究をすると言っていたので何日か後の晩ご飯が今から楽しみで仕方ない。
町長の家へ行くと、町長から最近魔物が活発化していることとその原因究明を頼まれる。
それから色々と情報を集めて原因である魔人ゲゼルを討伐するまでがこの町のストーリーだった。
魔人ゲゼルは物理耐性を持つ厄介な敵だ。結果的にこちらの攻撃は魔法に頼らざるを得なくなるので、エルを活躍させられなくて悔しかったのを覚えている。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい。皆さんはもうお部屋に帰っちゃいましたよ……えっ?」
「ああ、ありがとう。どうした?」
「いえ、エルさんの首……」
「これは首輪だぞ」
「見れば分かります! な、なんで?」
「いや、アドバイスを貰ってな。好きな人には首輪を付けておくといいらしい」
「なる……ほど……? エルさん、エルさんはいいんですか?」
「ん」
「いいんだ……大人ってそうなんだ……大人……?」
「はは、まあ大人になれば分かるさ」
宿にいたショタが妙な目でこちらを見ているのはどうしたんだろうか。よく分からないけど、宿の食事は大衆食堂みたいで美味しかった。