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 勇者パーティーは勇者を除いて男三人、女三人の七人パーティーだ。勇者が男でも女でも恋愛的な攻略対象は三人になるようになっている。


 男の方はまず親友キャラが一人、ショタが一人、おじさんが一人だ。ぼくは女勇者でプレイしたことは無かったが、皆好感の持てる性格をしていた。特におじさんがカッコいいので割と贔屓していたのを覚えている。


 女の方は幼なじみキャラ、お姉さんキャラ、そして幼女……つまりぼくだ。ぼくの攻略ルートは完璧に覚えているが、他二人はあまり覚えていない。でも皆いい子だ。


 なのでぼくが今していることは、ぼく自身のフラグ確認と幼なじみルートを思い出すことである。


 今のところ目立ったミスは無いが、どこに落とし穴があるか分からない。勇者の動向には十分注意しておくべきだろう。



「俺のことをじっと見てるけど話しかけては来ない、少し内気な所もまた可愛いな」


「本当に可愛いね。あたしが欲しいぐらいだよ」


「バカ言うな、エルは俺のだ。いくら幼なじみでも渡さんぞ」


「うわあ、独占欲強め。愛が重いのは引かれるよ?」


「そんなことは無い、エルはああやって俺にぞっこんだからな」



 うん、ちゃんと幼なじみとコミュニケーションを取っている。順調に幼なじみルートを辿っているようで何よりだ。


 ちなみに今は馬車に乗って移動中である。昨日魔王討伐を命じられたぼく達は、王都を出て隣の町へ向かっているのだ。



「しかし、いい景色だなあ。エル、どうだ?」


「ん、綺麗。青い空、白い雲」


「エルは詩の才能もあるのか、流石だな」


「緑の草原、黒い湖」


「うんうん。……うん?」


「湖から伸びてくる黒い触手、振り上げられる触手」


「うわああああ魔物だああああ!」



 御者の人が何か叫んでいる。せっかく情緒溢れる詩を口ずさんでいたというのに……ん?



「……あれ、何?」


「自分で言ってて気付いてなかったのかエル!?」


「せ、戦闘態勢! 戦闘態勢!」


「触手来てる! 馬車守らなきゃ!」


「任せて下さい、アイスシールド!」



 お姉さんが氷の壁で初撃を防いでくれた。


 その隙に勇者と二人で馬車から飛び出し、触手に向かう。



「聞いたことないぞ、あんなの。初戦の相手にしちゃあデカすぎるんじゃないか?」


「……リヴァイアサン。推奨レベル40。不定形の水棲型ゲル状生物で、各種攻撃に一定の耐性を持つ。水無効、火1.5倍、雷2倍」


「エル、あれを知ってるのか。推奨レベル……とかは分からんが、雷で攻撃すればいいんだな!」



 つい攻略本の情報を口走ってしまったが、なんか都合よく受け入れて貰えたので頷いておく。


 勇者が向かって行くが、これは負け戦闘だ。


 なぜならこの湖は物語の後半で来るべき場所で、でも序盤で通る道の傍にあるから大抵のプレイヤーは襲われて死ぬ魔の湖なのである。


 この世界でも死んだら教会で復活できるようだし、まあ何とか「サンダーバースト!」「グアアアアアアアアア!!」……え?


 顔を上げると、勇者が黒コゲになったリヴァイアサンにとどめを刺していた。


 いやいや、おかしい。絶対おかしい。


 まだ旅立ちの日じゃん。メンバー全員レベル1のはずだよね? あれ? そう言えばレベル1なのにお姉さんサクッと触手防いでたな。


 あれー?



「お、これは……エル、折角だし手を出してくれ」


「?」


「右じゃなくて、左手」


「ん」


「……うん、似合うな。あの魔物もなかなかいいものを持ってるじゃないか」


「ん、ありがと」



 そういえばリヴァイアサンは指輪をドロップするはずだ。身に付けると各種ステータスが軒並み大上昇するほか、エンディングの結婚指輪として使われる重要アイテムだから、物語の後半でここに来るのだ。


 何も落ちてないということは、勇者が拾ったのか。それかまだフラグが足りないからドロップしなかったのかな?


 勇者が持ってる分には問題無いか。幼なじみキャラの左手薬指に指輪をはめるシーンを見るのが待ち遠しい。


 考えてる間にぼくの左手薬指に勇者が何かしていたが、別段気にする事は無いだろう。褒めてくれたので反射でありがとうしておいた。


 馬車に戻ると、皆が迎えてくれた。親友キャラがぼくの左手を見て何か言いたそうにしてるけど、何かあったんだろうか。


 その後の道程は特に問題なく進み、予定通り一晩野宿をすることになった。



「なあ、あいつの左手……」


「ああ、あれはリヴァイアサンを倒したら出てきたんだ。ちゃんと清浄魔法かけたから清潔だぞ」


「そこじゃねえよ。お前、いくらなんでも気が早くないか?」


「早くはない。それに、ああやってしておけば他の連中もエルに言い寄ろうとは思わないだろ」


「ただのませた幼女にしか見えんがな……お前、いつか首輪とか付けそうで怖えよ」


「…………」


「その手があったか、みたいな顔やめろ」



 ぼくが女性陣とナベの料理を手伝っていると、勇者と親友が何やら話しているのが聞こえてきた。仲が良さそうで何よりだ。


 警戒しているとはいえ、勇者が嫌いなわけじゃない。むしろ性格は好ましいと思うし、隣にいると安心する。いい匂いもするし、幸せな気分になれる。



「エルちゃん、配膳お願いできる?」


「ん、まかせて」



 ナベを皆の器によそって行く。もちろん御者の人の分もだ。申し訳無さそうにしていたけど、御者の人も立派な旅の一員だもんね。


 ナベは美味しかった。キャンプとかで自分で料理をすると美味しく感じる効果だろうか。


 幼なじみとお姉さんは普段から料理をしているらしいけど、今日のはよく出来たと言っていたからやはり美味しいのだろう。


 つい四回ほどおかわりしてしまった。



「あの器、大人の人と同じ大きさだよね……」


「少年よ、世の中には不思議が沢山あるもんだ」



 ショタとおじさんのひそひそ話をしり目に、夜用の魔物避けの魔道具の準備をする。


 幼女であるぼくは背丈が無いので、テントの方は手伝うのが難しいのだ。


 テントを張り終えて手伝ってくれた勇者に手を引かれてテントに入る。ついでに清浄魔法もかけてくれた。


 清浄魔法は便利なのだが、妙な部分で不便だ。もの一つ一つに別々にかける必要があり、人にかける時は服を脱がないと上手くかけられない、と勇者が言っていた。


 清浄魔法の熟練度が一番高いと言っていた勇者でも服を着たままかけるのは無理だと言っていたので、かなり難しいことなんだろう。


 服を着たまま清浄魔法をかける技術が確立出来れば結構儲けられるんじゃないかと思っているのは、ここだけの話。


 ぼくが服を着ている間に、勇者は清浄魔法を自分でかけていた。


 テントに敷いた布団は城のものとは比べ物にならないほど狭かったので、勇者に抱きつくようにして寝ることにした。とてもよく眠れそうだ。


 そういえば勇者は服を脱いでなかったような気がするけど、多分気のせいだろう。

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