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「いっけなーい、ちこくちこく」
ぼくはエル。今日から冒険者学園に通う一年生だ。大事な入学式の日だというのに遅れてしまうのはよくない。
隣で寝ている勇者を起こして支度を始める。顔を洗って、髪を梳かして、制服に着替えて、お気に入りの首輪をつける。
勇者というのは、ぼくの友達の男子生徒だ。入学試験でパーフェクトを叩き出した超人で、寮の部屋割りを決める時に何か色々やってぼくと同室にして貰ったらしい。
その色々の部分は誰もぼくに教えてくれなかったが、とにかく凄かったらしく皆から勇者と呼ばれている。
「エル、すまない。昨日はよく眠れなかったんだ」
「ん、いい。まだまにあう」
「ああ、急いで用意しよう。……制服も可愛いぞ、エル」
「ん」
朝食は食パンを一斤持って行くことにして、寮を出る。道行く他の新入生がこちらを見て何やらひそひそと話しているが、気にしない。
「冒険者学園にようこそ、新入生の諸君」
もぐもぐ。
「くく、君達の反応も分かるが間違いなくぼくが学園長さ」
もぐもぐ。
「こんな少女が? なんて思った人もいるだろう。しかし人は見た目によらないものだ」
もぐもぐ。
「例えばそこにいる男子生徒は実技・知識ともに文句無しのレベルまで達しているが、こと一人の少女の話になると豹変する」
もぐもぐ。
「例えばその隣の女子生徒、これまた試験でかなりの高成績を収めた少女だが入学式中にパンを一斤丸ごとたいらげようとしている」
ごちそうさまでした。あれ? 何故か皆から見られている。学園長先生までどうしたんだろう。
「このように、多種多様な人物が集まるのが冒険者学園という場所だ。諸君にはぜひそれぞれの得意な分野を高め合い、苦手を支え合って有意義な学園生活を送って貰えることを願おう」
うんうん、こういう話があると学校って感じがする。学園長先生の話の後は一通りの説明があり、無事入学式を終えることができた。
ぼく達はSクラスというクラスに振り分けられていた。どうやら入学試験で特別いい成績を収めた生徒がここらしい。
教室に入るとすでに数人の生徒がいた。キャラ付けで言うと幼なじみ、お姉さん、ショタ、親友、おじさんって感じかな。もしかしてこれで全員なのだろうか。
教室を見回していると担任っぽい先生が……あれ、学園長先生だ。
「諸君、席についてくれたまえ。場所はどこでも構わないよ」
勇者のひざの上に座らされた。
「すまない、どこでも構わないとは言ったがちゃんと一人一つの椅子に座ってくれ」
学園長は咳払いをした後、話し始めた。
「まず改めて二人は、入学おめでとう。ぼくが学園長兼Sクラスの担任だ」
へえ、兼任なのか。学園長直々に教えて貰えるなんてすごい。
「Sクラスは通常のクラスと違って、三学年が分かれていない。何故ならここにいる生徒は冒険者として既に一人前にやっていける程度の知識や技能を備えているからだ。言ってしまえば学園で教わる必要のない生徒達だな」
ふむふむ、なるほど。ぼくと勇者以外はみんな先輩みたいだ。
「しかし、学園生活というものは楽しいぞ。それに、様々なコネが生まれることもある」
うんうん、友達のいる学園生活にはぼくも憧れがあった。
「我々はSクラスの生徒に直接教えることはない。その代わり、有意義な学園生活を目一杯楽しんでくれ」
つまり自由ってことかな? 色々特別な感じでちょっと嬉しい。
「もちろん受けたい授業があれば受けるもよし、青春を謳歌するもよしだ。ただ、自由な代わりに先生から何か頼みごとをされたらできるだけ聞いてやって欲しい」
なるほど、先生からクエストを受けることもあるんだ。
「こんな所だ。今日はこれで解散だ、後は自由に学園を見て回ってくれ。部活の勧誘もあるから面白いと思うぞ」
そうだ、学園といえば部活動だ。というわけで、勇者と学園を回ることにした。
流石に王都の学園というだけあって広い。建物も沢山あって、迷ったら出られなさそうだ。
「エルは気になる部活はあるのか?」
「ん。調理部、家庭科部」
「はは、欲望に忠実だな。いいんじゃないか」
「家庭科部に興味があるの?」
勇者と話していたらSクラスにいた幼なじみっぽい人に話しかけられた。
「あたし、家庭科部なのよ。よかったら見学していかない?」
「いきたい」
「エルもこう言っているし、お言葉に甘えさせて貰おう」
「やった! あなた達はエルちゃんと勇者さんでいいかしら」
「ん」
「勇者という名前ではないがな……」
家庭科室は広く、寮のと同じくらい充実した設備が整っていた。これらを見ているだけでもワクワクする。
「ところで、エルちゃんの首輪は勇者さんの趣味かしら?」
「ああ。俺がいつでもエルのことを把握できるようにな」
「重いわね……二人は恋人同士なの?」
「ああ、こい「ん。友達」友達だ……」
「なるほどね。ならあたしにもチャンスがありそう」
「まさか、エルはやらんぞ」
「取ろうとは思ってないわ。ただあたしは可愛いものに目がないのよ」
「むぐ」
幼なじみに抱きしめられた。まるでぬいぐるみみたいにもふもふされて、ちょっとくすぐったい。
「……エル、家庭科部はやめよう。こんなのは俺が耐えられん」
「ん、勇者がいやならいい」
「あっ、待ってよー!」
勇者はぼくを奪い返すと、抱えたまま家庭科室を出ていってしまった。確かに勇者はあまりそういうの得意じゃないし、仕方ないかなあ。
「部活は危ないな。いや、あの分だと教室も危ない。エルはずっと寮にいさせる方がいいか……」
ぼくは寮の雰囲気も好きだ。勇者と同じ部屋だし、何よりとてもおちつく。今は考えこんでいる勇者が気になるが。
キッチンやお風呂も各部屋にあるし、いい宿よりも豪華だ。ここで三年間暮らせるなんてとても贅沢じゃないか。
始まりはちょっとハプニングがあったけど、これからの学園生活はきっと素敵なものになるだろう。ぼくはそう思いながら目を閉じた。
「おはよう、エル。よく眠れたか? 幸せそうな寝顔をしていたぞ」
「勇者、学校いきたい」
「突然だな。いや、学校か……ふむ」
「勇者と、ダメ?」
「確かに、それはいいな。旅が終わったら行ってみるか? 学校」
「ん、いく」
「よし、分かった。王に話をしておくよ」
「ありがと」




