悪魔様はやっぱり嫌われている
「あ、あ、悪魔様の……っばか!」
朝っぱらから木霊した声は、何処に行くでもなく漂って消えた。毛布に包まった声の主に、悪魔は彼女の髪を優しく梳きながら囁く。
「可愛い」
「……っほんとバカ! もう知らないんだからっ!」
ふてくされた天使に、悪魔は困ったように小首を傾げた。
「何をそんなに怒っているんだ?」
「そ、れは……! 悪魔様が」
「ん?」
「――っ」
そんなに楽しそうに見つめられては、反論もなにもできないではないか。あああ……と赤くなった耳を隠すように蹲ると、温かいぬくもりに包まれた。こんな時でも彼の体温に安心する自分が恨めしい。
抗議の代わりに頭を胸に擦り付けると、幸せそうに悪魔様が額に軽く口づけをした。狡い。悪魔の所業だ。
「……ずるい」
「悪魔だからな」
「こんないじわるだなんて、知らなかった」
「可愛い女の子を堕とすには、これくらいの小細工は必要だろう?」
ばか、と呟いた言葉は届かない。それでも彼は意地悪く微笑んだ。
「それで、純粋無垢な少女を堕としたと? 悪魔だな」
「しょうがないだろう。魂の色に一目惚れしたんだ。悪魔は気に入ったものはなんとしてでも手に入れる」
「ふうん、僕はまだ気に入りはないから分からないが」
「やらないぞ」
「いらん」
少年はワインで赤く染まったグラスを揺らす。
暫くそうして弄んでいたがやがて口に含み、こくんと喉を鳴らして飲み込んだ。少年の赤目が小さく煌めく。
「ん? もう行くのか」
「ああ。外界が面白そうなことになっているからね。久しぶりにお呼ばれするのも楽しそうだ」
さぁ、失望させないでよ? 人間。
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別話として最後の少年悪魔の話も書こうか迷っております。(まだ未定ですが……)