天使ちゃんは約束を忘れた
悪魔様視点。
「悪魔様!」
アレから週に2、3度は見るようになった天使は、今じゃすっかり懐いている。それは十数年経った今も同じだ。
「ああ、学校の帰りか?」
「うん! 悪魔と共同の学校なんてすごいよね。最近どんどん2種族の境目が無くなっている。この前なんか結婚式も行われたとか言う話だし」
「? そんな目で見てもクレープは買わない」
「違う! 悪魔様のバカ!」
あ、でもたしかに美味しそうだなぁ、と目を輝かせる天使は本当に可愛い。あんな小さかった子が圧倒言う間に、と思うと感慨深い。
「あ、クリームついた」
「……そういえば俺は何で天使にクレープを買って食べさせているんだ……?」
「私の両手が塞がっているからかな」
「……天使ちゃんの調教の成果じゃないすかね」
「アニキ優しい! パネェ!」
まぁいいか、と再び食べさせる。
雲リスみたいに頬張る姿はやはり可愛いと思った。
しかし別れというのは急にやってくるもので。
「――それでね、私、縁談が決まるかもしれないの」
「は」
「相手はリカバリー財閥の御曹司。私の家がソコを合併すればあとは敵なしだってお祖父様が言って。でも「いいんじゃないか?」
「多少政略なのは気になるが、恋愛結婚だから上手く行くというわけでも無い。互いに尊重し合えば――」
いい家庭が築けるだろう。
そう言おうとして声が出なくなった。何故だろう。『天使は約束を忘れる』それが天界の大原則で、そうでなくてもあの約束は子供に合わせるように言ったものだ。誰も本気になんかしていない。なのに……。
「だからね」
天使の声が耳を通り抜けた。
甘い、甘い声が俺の動きを封じる。でも、どうしても別れの言葉を聞きたくなかった。
干からびたような声を、それでも彼女の声を遮るように振り絞る。いつか来ると思っていた、でも目を反らしていたその光景。
桜の花びらが風に優しく舞う、心地よい日の光が差した昼過ぎ、
「お前「宜しくお願いいたしますわ。旦那様?」
それは楽しそうに笑った天使が、そこにいた。
その直後、ラインに悪友から『お前今日からリカバリー財閥の御曹司だってさー』から始まる御曹司が急遽廃嫡になり、何故かその後継者に俺が選ばれた旨が書かれていたのには、正直背筋が凍った。