花枝くん不合格
2004年3月中旬。
まだ寒さが残る日に第一志望の高校の合格発表に来ていた僕は受験票に書かれた「206」の番号を見ながら他の中学から僕と同じく受験番号を探す人たちの中に紛れながら探していた。
「203、204、205、207」
あれ?受験票の番号は「206」だがその番号がない。
見間違いではないかと思いながら受験票を見返す。
「203、204、205、207」
「・・・ない」
再び番号を見返しても「206」は見つからない。
その瞬間、頭が真っ白になった。
勉強が足りなかったのか、あの時あの問題を間違えたからなのか。色々と頭の中を駆けめぐっていた時に「花枝、番号はあったか?」。
振り向くとひょろ長で目が細く髪が短髪で一見野球部っぽい同じ中学で友達の加藤が隣に立ってた。
「加藤・・」
「俺・・・・落ちた」
まじかよ、と顔をする加藤。
「加藤はどうだった?」
「俺は受かった」
「そうか、俺はこれから学校行って担任と話してくる」
そう言って俺は強く握りしめた受験票を持って会場から去った。
学校に着き、担任と駆けつけたオカンと3人で面談になった。
ふくよかな体型でずっしりと椅子に座り、今にもため息をつきそうな担任の剛先生と落ち着いた感じのオカン、いや、実際には内心かなり心配して色々話したかっただろうがいつも落ち着いてるのが俺のオカンだ。
重たい空気の中で剛先生が口を開いた。
「花枝、まぁしょうがいない。落ちたことは諦めて次を考えよう」
次なんて、てかどこの高校があるんだよ。ずっと一次の水田高校で考えていたのに。
先生はもってきた資料から1枚、俺とオカンに見せてきた。
「県立金縞高校?」
まったく調べてもいない高校だけにどんなところなのか想像ができなかった。
「先生、ここ以外ないんですか?」
「とりあえず花枝が受かりそうなところはここしかない。市内はもっと学力の高いやつが落ちて、二次募集でくるから倍率は一気に上がる」
それを見たオカンからは「あんたが選びな」と一言だけ。
いや、そこはせめて何か言ってほしかった。ただ悩んでる暇はない。もう受かる方をとろうと俺は決めた。
重たい空気を破り俺は言った。
「金縞、受けます」
この決断が俺の人生史上もっとも濃い3年間になるとは思ってはいなかった。
そのあとは受験の手続きをして、試験までの2週間は勉強と面接対策をした。
実は金縞高校、通称カネ高は受験に面接が必ずある。
そのため面接の練習を2週間の内で8回もした。
受験日当日、オカンの車に乗って曇った天気のもと会場まで向かった。
同じ中学から受けるやつ俺1人、受かっても誰も俺を知らない。それが1番不安だったが、なんとしてでも受かりたい気持ちしかなかった。
会場のカネ高に着いて、オカンに応援されながら受付で受験票を見せて、資料を貰い。自分の座る教室に向かった。ランクの低い高校と聞いてたのでヤンキーが多いのかと思ったが、周りは普通のやつばかり。
案外ヤンキーなんかいるはずないよなと思いながら、安心して受験に挑みあっという間に筆記と面接が終わった。
あっけなく終わったので正直受かるかどうかはよく分からない。
迎えに来たオカンと車の中では試験の話ばかりをしながら家に帰った。
合格発表がたしか3月15日すぎたくらいだったかな。
前回の落ちた記憶が強くてさすがに会場に行く気が起きなかった。そんな気持ちを持ちながら会場に向かった。今回はオカンが仕事で、じいちゃんに連れて行ってもらった。
会場に着くと剛先生はいなくて、代わりに音楽の授業を担当している浜田がいた。
俺を見つけると「花枝、今日は剛先生は他の生徒の発表に行ってて代わりに俺が見に来たんだよ」と説明してた。そのあと直ぐに合格票が貼られたボードまで行き、自分の番号を受験票と照らし合せながら探した。
「俺の番号は313」
「208、209、310、311、312、313」
番号をもう一度見返す。
「312、313」
「313」
あった。何度も受験票を見ながら番号を確かめる。
その瞬間、心が舞い踊った。すぐに浜田先生のところに行って「先生、あった、番号あった」と言った。
先生は嬉しそうにしながら「花枝良かったな、剛先生には俺から伝えておいたから」。
そのあとじいちゃんに伝えて、合格者はすぐに合格者説明会に参加することになってたので受付で資料をもらい説明会に参加した。
俺は会場で辺りを見回したが、同じ中学のやつは誰もいなかった。
本当に俺は1人なんだと実感した。ただヤンキーのようなやつはいない、それだけが唯一の救いかと思った。
説明会が終わり、家に帰り、オカンから「心配してたけど受かって良かったね」とばあちゃんも同じことを言ってた。オトンは小3の頃に離婚しててたまに会うくらいだ。
オトンにも受かったことを伝えた。
とりあえず面倒なことは終わったのであとは1週間後に制服合せと入学に関しての説明会があるから、それまで遊んでいられる。高校生生活が楽しみだなと思っていた。
俺は次の入学説明会で現実を見ることとなる。




