転生した直後の初陣ってちょっとワクワクするよな
二週間ってあっという間ですね。
遅くなり申し訳ありません!
「うわぁ……マジか」
転生して早々、思わずそう呟いてしまうほど、周りの風景は圧巻なものだった。
辺り一面木が生えていて、木漏れ日だけが弱々しく、俺を照らしている。
まあ、俗に言う森なのだが……。
前回の転生先が街中であったため、戸惑いが隠せない。
「ランダムなのか……」
街中は施設が充実しているため、駆け出しには便利で何かと都合が良かった。
それに対して、森って……。
「はあ」
幸先の悪いスタートに、ため息を隠せない。
「とりあえず、村でも探すか……」
村にも街ほどではないが、道具を買える場所がいくつかある。
知識が駆け出しのそれよりも広いものだとしても、道具がなければ苦戦を強いられるだろう。
そんな理由もあって、俺は村に出発したのだが──
「……全然着かない!!」
適当に歩き回ってれば、見つかると思っていたがどうやら甘かったらしい。
「目的地がわかるようにしてくれたら、良かったのに……」
天界に向けて愚痴をこぼす。
しかし、そんなことを言っている状況ではない。
村が見つからないとしても、森を抜けなければ意味がない。
どちらにせよ、行動を起こす必要がある。
「参ったな……。もう一度探しても、さっきの二の舞になるだけだぞ……」
この先の行動に、頭を捻らせていると
「きゃあ! あ、あなた聖騎士!?」
茂みの奥から悲鳴が響く。
「行ってみるか」
事故が起きて、すぐ様スマホを掲げる野次馬よろしく、初期装備の剣を腰に下げ直し、走り出した。
―――――
「あれは……聖騎士と……魔導師?」
茂みに隠れて様子を伺う。
どうやら悲鳴をあげたのは、女の魔導師の方らしい。
震える手で杖を持ち、その先を聖騎士に向けている。
「こ、これ以上近づいてみなさい! 撃つわよ!」
無駄だ。聖騎士であれば、今の間合いでも問題なく攻撃を捌くことができる。
たとえそれが魔術であっても。
あの聖騎士が動きを止めず、近づいているのが何よりの証拠だ。
「『あれ』を渡せ。命だけは、助けてやる」
「『あれ』は私がクエストをクリアして得たものよ!そう簡単に渡さないわ」
『あれ』? 一体何だろうか。
いや、それよりも聖騎士の悪役ぶりがやばい。
あれ、聖騎士じゃなくて暗黒騎士だろ。
ともあれ、事情はわかった。
「そうか。では、力づくで奪うまで……!」
聖騎士の剣が、魔導師に迫る。
鉄の淡い輝きが、森の闇を切り裂いていく。
「──遅い」
光が進行を止め、聖騎士が仰け反る。
「なっ!? 」
その間に二撃、三撃と絶え間なく攻撃を入れる。
が、聖騎士の名は伊達ではない。
態勢を立て直しながら、攻撃を捌ききった。
だがこれでいい。
もともと、これで決めるつもりなどなかった。
相手に警戒心を植え付けることを目的とした連続攻撃。
それは見事に功を奏し、相手は間合いを取った。
「お前、何者だ……!?」
「通りすがりの『冒険者』だ」
「『冒険者』だと!? ありえない。今の剣撃はまさに聖騎士のそれ! 身分を偽るな!」
「あー、やっぱりそういうのわかっちゃうか。でも、本当に冒険者だよ。あの最弱職のな。……おい、そこの魔導師ちゃん」
「魔導師ちゃん!?ちょっと馬鹿にしないで──
「そういうのは後でだ。……離れてろ。このままじゃ多分巻き込む」
「戦う気なの!? 敵うはずないじゃない!」
「大丈夫だ。それに、こういうのを目当てに、また戻って来たんだ」
「戻って……来た?」
「こっちの話だ。終わるまでこっちに来るなよ」
真剣な空気を纏わせ嗜める。
こうするだけで真剣味が増して、強引にでもことを進められる。
……まあ実際やってみたのは、これが初めてなんだけどな。
「……わかった」
「よし、待たせたな。……斬りかかって来ても良かったんだぞ?」
相手を挑発する。
実際どう斬りかかって来ても、対処は出来た。
それは相手もわかっているのか、苦虫を噛み潰したような表情で俺を見据える。
「──行くぞ」
俺は律儀にもそう口にし、距離を詰める。
斜め下からの斬り上げ。一瞬の動揺ののち、こちらの剣が受け止められる。こればかりは剣自体のスペックが違うので、どうしようもない。
だが──押し切ろうとする力を止める。
時間にしてコンマ一秒。刹那、相手の力も緩み始める。
「そこ……だ!」
剣の作用点を移し、お好み焼きをひっくり返す要領で剣を振る。
相手の剣は宙を舞い、俺の手に収まった。
「最初から、それが狙いだったな?」
「流石の聖騎士さんでも、剣がなきゃ戦えないでしょ?」
わざわざ殺し合いをする必要はなかった。だからこそ、武器を奪い相手を撤退させることにした。
「──甘い」
突然の突進。
慌てて剣を交差させ守備態勢を作る。
「ガッ……!な、なんだと……!」
初期装備の剣が破壊され、その破片が俺の口を切る。
聖騎士の手には二対の剣が握られている。
「形勢逆転……だな」
「……隠しておくのは、反則だと思うぜ」
おそらく、伸縮が自在で隠すように装備していたのだろう。そんなものがあるなんて、思いもよらなかった。
だが、それだけのことだ。戦いはイレギュラーの連続。予想外のことが起きても、呑み込み冷静に徹することが重要だ。
「いずれ障害になり得ると判断した。殺させてもらうが、悪く思うな」
「セリフがもう悪役のそれだぞ。だが──今の一撃で仕留められなかったこと、後悔するぞ」
「妄言もそこまでに、しろ──」
剣がぶつかり、火花が散る。閑静な森に金属音が響き渡る。
「どうした、その程度か?」
「くっ……」
相手の二つの剣は休むことなく、俺の体に襲いかかってくる。
剣一本で二本の剣が生み出す剣撃を防ぐ事は出来ている。ただ、そこまで。反撃に移る事は到底出来そうになかった。というのも奴から奪い取った剣は耐久値が低く、攻撃に割けるような耐久値などありはしない。
──あの剣を奪えれば……!
目を動かし、辺りに視線を散らす。
ここは伐採された部分なのか、木に囲まれていない。
それにより、木を使って相手を翻弄することが出来ない。
──見つけた! あれを使えば、いける!
「何を余所見している!」
攻撃が激しさを増す。剣撃がまるで降りしきる雨の如く、正確に俺の身体を穿とうとする。
致命傷になるものだけを捌いてはいるが、圧が凄い。
俺の体は徐々に後方に運ばれていく。突如、足が地面の窪みにはまり体が傾くのを感じた。
「終わりだな。──死ね」
相手は俺を討てることを確信した様子で剣を振り下ろす。
かかった!
力を失った剣筋にこちらの剣を叩き込む。
耐久値の限界をむかえたのか、俺が振った剣が砕ける。──相手の剣が宙を舞うと同時に。
態勢を立て直しジャンプ、すぐさまそれを手にして相手と向き合う。砕けた剣の破片が視界を阻んだのか、相手はしばらく動かなかった。
「貴様、またそれか! ふざけるな!真面目に戦え!」
「これでお互い剣一本だ。……安心しろ、決着はつける」
すぐさま剣を水平にし突進。
「なっ!?」
そのまま息を突かせない勢いで、攻撃を叩き込む。
それは相手の防御を掻い潜り、弱らせていく。
「おのれぇ……!これで終わりだと……思うな!」
「剣技は職業に関係しないぞ」
最後の力を絞り出したであろう一撃を捌かずに、相手の背後に回る。
振り下ろした剣は薄いプレートごと、相手の背中を切り裂いた。
倒れる聖騎士の手から、もう一振りの剣を奪う。
「剣の礼だ。命は取らない」
気絶をしたであろう聖騎士に語りかける。
……意味はないけど、ちょっと言ってみたかった。
「それにしても俺、人のもの奪い過ぎだな。……もしかして職業『盗人』だったりするか?」
冗談を口にしながら、俺は初陣を締めくくった。
もっと迫力のある戦闘シーンを書きたいです。