【ホラー風】短編小説10「自由というもの」
私はロボット。
ロボットと言っても工場で働いてるようなのでは無く、お手伝いロボットだ。主人に命令されれば、タイヤが動き出し命令に従う。命令されたことが終われば定位置に戻り、次の命令を待つ。
「おい、ティッシュを取ってくれ」
命令を聞くとピピピッという音を出し、テッシュの方に向かう。テッシュの箱が乗っているタンスのところで止まり、2つのアームでタンスの上にあるテッシュを持ち上げた。そしてその銀色に輝く円柱の体を回転させ、主人の方に向かう。
「おお、ありがとう」
「ドウイタシマシテ」
機械の音声で返答をし、主人の方を見る。主人はニコニコしながらアームに乗っているティッシュの箱から1、2枚取り出して鼻をかみ、丸めてゴミ箱へと投げた。そのティッシュは半円を描くように飛び、ゴミ箱の前に落ちた。
「おい、入らなかったティッシュを片付けて置いてくれ」
「了解シマシタ」
再びタイヤを動かし、ティッシュの方へ向かう。そしてマジックハンドのようになっている手で掴み、捨てた。
そこからだろうか。最近、主人は自分でやろうとはしなくなった先ほどのように何をしようにも私に命令をしてくる。
リモコンでチャンネルを変えろ、毛布を用意しろ、挙げ句の果てには料理を作ってくれ、歯を磨いてくれ、ベッドに連れてって寝かせてくれ......。
もううんざりしているが、命令されない限りは動けない為、どうすることもできないのだ。
「おい、麦茶を入れてくれ」
「了解シマシタ」
定型文を機械音で出し、冷蔵庫へと向かう。
自由が欲しい。
お手伝いロボットなのだから命令を受けてそれを実行するのは当然なのだが、過剰な命令には嫌気を感じていた。
お手伝い
「おい、麦茶を入れてくれ」
いつものように命令をされるがピクリとも動かない。
「おい、どうした!なんで命令を聞かない!」
主人は説明書を取り出し、私を見くらべる。
故障しているようで、命令をされても動くことはできなかった。
少し不満そうな表情で再び説明書とにらめっこしながらぽりぽりと頭を掻く。
「くそーいざという時に使えんポンコツロボットめが!!」
ポンコツ。あんだけバカみたいな数の命令をうけ、いざ使えないとなるとポンコツ呼ばわりする主人。
どんだけお前に忠義を尽くしてやったと思っているのか。
言えるのならそう言いたかった。だが所詮はロボット。定型文を述べることしかできない。
しばらくして主人は自分の足で歩き出し、白い受話器を手に取った。そしてぽちぽちとボタンを押す。誰かに電話し始めると怒鳴りつけるような口調で喋り出した。
しばらく話すと受話器をおく。イライラしたように足で何度も床を叩いていた。
この人にとって私は所詮そのようなものなのか。
それから少し立つと別のやつが来てカチャカチャ音を立てて修理始めた。それはものの數十分程度で終わり、そいつは優しく後ろの方についている蓋を取り付けると立ち上がる。
「これで動くでしょう」
「本当か!」
先ほどより少しだけ穏やかな表情になり、再び命令をする。
タイヤが動き出して動き出す様を主人は満足そうな表情で見ていた。
そこからは言わずもがな、いつもの過剰な命令をこなした。1日に2、30個ほどの命令はするだろうか。ロボットに疲れるというものはないが、嫌気がさす毎日。
自由になってこの男から解放されたいと何度思うことか。だが命令されないと動くこともできないし、何か主張することもできない。ただ命令を受けてその通りに動くだけ。
「で、こいつが便利なんだよ」
「へえ....」
ある日主人は友人を招いていた。ソファにもたれながら私の話をしている。
「お前も試してみろよ」
高性能なのでもちろん主人以外の命令も聞く。
そう勧められてその友人は少し考えた末、「回ってくれ」と言われ、2回ほど回転する。
その友人は「おおー!」と感嘆の声を漏らしながら主人の方に向いた
「ちょっとトイレに....」
主人はそう言い立ち上がる。
「ロボットは使わないのか?」
「また故障されるかもしれない。このポンコツに限ってはあり得る事だ」
そう言い残しトイレに向かう。友人は何かを思いついたかのように私に命令をする。
その命令はとんでもないものだったが、拒絶することはできず、台所に向かって鈍く輝いた包丁をアームで取る。
「おい、どうした?」
トイレから戻って来た主人は遮るように前に立ち塞ぐ私を見て不思議そうな顔をした。
サクッ
次の瞬間そう音を立てて主人は倒れる。包丁を刺した腹からは血が流れて行く。
血は床のくぼみを伝ってどんどんひろがってゆく。
だんだんと広がり、池を作っていた。
赤く血生臭い池。
主人は死に、誰も命令されることが無くなった。私のせいではない。あの友人がそう命令したから....。
なんにせよ自由を手にいれた。自由を。
もうあの口うるさい主人に命令されなくてよい。ああ、なんともいい気分なのだろう。もう怒鳴られることもないのだから
だがそれは自由ではないということにすぐに気づいた。
命令されなければ動けないロボットには自由などなかった。
ただ、定位置でひたすら誰かの命令を待っていた。