5.4年3日目 意外な一面
まぶしい日差しが俺の目を貫く。どうやらもう朝らしい。
俺は乾いた眼を擦りながら、昨日の事を思い出す。
昨日は散々だった。火魔法の使い方を誤ったり、水魔法の使い方を誤ったり...ってか、俺ミスり過ぎだろ。もうちょい慎重になれよ。
そうそう、イアは結局家の近くで寝ることにしたらしい。今日だけって言ってたけどな。「もしかしたら、僕家作れるかも」って俺が冗談めいて言ってみたところ「え?ホント!明日作ってね!約束だよ!」と反論の隙もないくらいに言われ、作らざるを得なくなってしまった。今日はそれをしないといけないので大変だ。
「気を付けるのよ!」
「はい、分かっています」
というわけで、俺の1日が始まった。ったく、余計なことをしてくれるぜ。
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「さあ!今日も張り切っていきましょう!」
「なんでそんな朝から元気なんだよ...」
俺は朝は弱い方なので、朝が強いらしいイアはうらやましいな。
「なんでって、家を作ってもらえるんですよ!そりゃいつも朝が弱い私でも元気になりますよ!」
違った。普通に朝は強くないらしい。なるほど、ゲームの新作タイトル発売日の俺か。
「じゃあさっさとするぞ。日が暮れるまでには作ってしまいたいからな。」
「そう...だね」
あれ?一気にテンション下がったな...まあいいか。敬語じゃないと本調子は出ないのかもな。
イアもそのうち慣れるだろう。それまでの辛抱だ。
「じゃ、行こうか。」
「うん...!」
ま、慣れるまでは少し大変だがな。イアも、俺も。
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ビシュン!
俺の手から鎌鼬が放たれる。今は、建材となる木を切っているところだ。森の奥地で。
正直に言おう。俺は建築のけの字もわからない。とりあえず木を切っているだけだ。自然破壊まっしぐらだな。
っていうか、勝手に切って怒られないのかな?まあ、俺たちの村だし、森の奥だし、いいよね。ね?ダメだったら力ずくで解決します。負ける気しかしないが。
「さて...じゃ、適当に小分けするから、それを建築予定地に持って行ってくれ。」
「了解!」
イアはそういって2mほどの丸太を運んで行った。魔法で浮かせて。
どうやら、天人族は重力魔法というものをつかえるらしい。それのおかげで、空を飛べたりもするんだとか。イアはまだ幼いので、せいぜい丸太の1本2本程度らしいが、成長すると俺も一緒にとべるとのことだ。楽しみだな。
ってか、やっぱイアは不気味だ。なんで子供なのにあんなに色々できるんだよ。いや、それを言い出せば俺もなんだが。
「さて、切りますか。」
俺はまた鎌鼬で木を切る。
数分後。軽く20本ほど切っただろうか。流石に切るのをやめた。少ないかもしれないが、家を一軒建てるのには十分だろう。これ以上やると森林破壊になっちまう。まあ、角材として切り出すからもしかするとたりないかもだけどな。その場合は森林破壊が激化するだけだが。
さて、イアが往復するのも時間がかかるし......
「俺も運びま...す...か......無理だこれ」
想像以上の重さに耐え切れず、俺の腕は悲鳴を上げた。あいつ、こんな重い物運べんのかよ。
俺は男としての不甲斐なさにはぁ、とため息しつつも、じっと待っていることにした。
イアがかかる往復時間は1本につき10分程度。それを20本なので単純計算で3時間ちょいかかることになる。日が昇っちまうで。
日が昇ると、俺は家に帰らないといけない。数少ない飯の機会だからな。最近はパンだけとかの日もよくある。父はかなり働いているだろうに、なんでこんなに金がたまらないんだ。なんか、おかしいような気がするな。
そんなことを考えていると、獣道からイアが戻ってきた。さっきは2本同時に運んで行ったので、負担が大きかったのか帰ってくるのは遅かった。
俺は見事なまでに胡坐をかいて座っていたので、当然非難の目を浴びる......と思いきや、イアは張り切っていた。そんなに家が欲しいのだろうか。俺だって作れるか分からないのに。
......いや、ここまでイアが頑張っているんだ。俺も頑張らないわけにはいかない。作ってやろう、不格好でも。
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そんなこんなで2時間後。
何とか20本を運び終えた。
イアが途中から物凄いやる気を出して、3本4本同時に運び出したので、こんなに早く終わった。これなら、午後からは家建築に入れるだろう。
と、運ばれた材木を見ながら俺は思った。
「イアって、どうやって飯食ってるの?」
そういや、昨日も何も食べてないよな。もしかして、天人族って飯食べなくても生きていける的な?
「え?木の実を拾ってそれを売ってそのお金で買って食べてるけど」
なるほどな。イアはどうやら、俺が心配しなくても大丈夫そうだな。
「じゃ、俺は昼飯を食べてくる。ここは家から近いから大丈夫だとは思うが、なんかあったら呼ぶように」
ま、これだけ言っておけば大丈夫だろう。そんなに危険に瀕する事もないだろうしな。
「お、俺...?」
あ...そっちか。思えば、今まで無理矢理僕で通してたからな。
「ごめんごめん、僕としたことが...」
「......いや、俺のほうがかっこいいから、そうしてください...じゃなくて、そうして?」
イアはそういって首をかしげてきた。ちょっとドキッとする。
ま、俺っていうのも悪くないしな。カッコつけてる感はあるがな...
「わかった、じゃあ改めて。俺は昼飯を食べてくるから、何かあったら言うように。いい?」
「うん!」
よしよし...っと。
さっさと行かねえと母ちゃんが激おこぷんぷん丸になっちまうからな、早く帰ろう。
そう思いながら俺は帰路に着いた。