3. 4年2日目 友達
俺は茂みに隠れながら、ばれないように静かにしている。心臓の音がうるさいほどになっている。
俺は目の前の光景が信じられなかった。騎士は、正義の味方のような、そんな都合の良いイメージがあったからだ。
だが、実際はどうだろう。木に縄で縛りつけられた無抵抗な少女に、剣を構えている。助けるどころか、完全に牙をむいている。俺の中の騎士の株は暴落だな、何が正義の味方だ。
いや、今はそんなくだらないことを考えている場合じゃない。目の前で、生死を争うようなことが起きているのだ。どう行動するかを考えねば。
......どうする?
助けに行くか?俺ならそれもできるだろう。なんせ、人を殺したことがあるからな。だが、それはあくまで相手の装備が整ってなかっただけだ。目の前の騎士を見てみろ。全身甲冑だぜ、それも動きにくそうなことこの上ないくらいに全身防備だ。俺の魔法が通らず、そのまま俺もあの子も死んでしまう......という落ちだろう。うまくいけば最善だが、うまくいかなければ最悪。完全に賭けだ。
それとも放っておくか?その場合俺は確実に助かる。気づかれないかが問題だが、気づかれさえしなければ楽勝だ。騎士たちの意識は完全に少女に行っている。それに、さっきも言ったが、動きにくそうな甲冑だ。逃げ切ることは容易だろう。この方法は確実だが、1つの命が失われることになる。
逃げてしまえばいいじゃないか、という現実的な心と、助けて2人で生きて帰るんだ、という、非現実的な心の間で、葛藤が起こる。
逃げずに立ち向かうか?どこの勇者だよ。俺は平民だ。そんな正義感にかられる必要はない。
じゃあ逃げるか?お前はこの状況を放っておけるのか?お前は、人一人として助けられないような情けない人間なのか?
......ああ、埒が明かねえ。
そのまま数分。いや実際は1分もたってないだろう。ただ、その時間が物凄く長く感じられた。
結局、俺は逃げることにした。俺は人一人救えない愚図でもいい。ただ、生きていれば取り返しがつく。そう、自分に言い訳して。
俺はゆっくりと、茂みから動いた。
「だ、誰か助けて!」
......!体が震えた。......なんで、俺は逃げてんだ?この愚図が。
気づけば、俺は動いていた。しっかりと2本の足で立ち、腕を伸ばし、1人の騎士の下に標準を合わせる。
そのまま魔力を込め続け...
「石槍!」
3メートルほどの円錐が騎士の体を貫く。装甲はもはや意味もないというほどに砕かれ、騎士は絶命。
何が非現実的な考えだ。元から、この世界は......
非現実的というのにピッタリじゃねえか。
「な、何だ!貴様は誰だ!なぜそのようなことをする!」
騎士が慌てたよう言う。俺はニッ、と笑いを作り言った。
「僕はただの子供ですよ。何でかは……自分の心に聞いてみてください」
俺はカッコつけていい、騎士の下にもう1度石槍を放つ。
騎士は上空4mほどまで打ちあがり、そのまま倒れた。おそらく死んだだろう。
俺はほっと息をつき、そして言った。
「......案外賭けに出てみるもんだな」
さって...じゃあ、後始末をしますか。
****
「よし、これで大丈夫だろう」
「あ、ありがとう...ございます」
少女は俺に向かいペコリと礼をした。
少女の容姿は、まず注目すべきは背中の羽だ。天使のような羽が生えている。亜人だろうな。
髪は白だ。目は黒。何というか、天使をそのまま人にしたような感じだ。
顔はというと...幼さが前面に出ている感じだ。ただ、行動や言動は大人びている。成長が遅い系の亜人だろうな。
ってか、俺この子の情報全く知らねえわ。聞いとこ。
「そういや、君の名前は?」
「...名前はありません。天人族ですので」
「……天人族って、名前貰えないの?」
もしそうだとしたら不便だな。どうやって区別してるんだろう。「1号、あれやっといて」 みたいな?いや、ないない。
「天人族は、10歳にならないと名前が与えられないんです。」
「えっと、今何歳なの?」
「...5歳です。あなたは?」
え、5歳?まじかよ。種族柄じゃなかったわ、何でそんなしゃべれるんだよ。
「僕は4歳だよ」
すると1号...じゃなくて目の前の少女は驚いたような顔をした。
「え、うそでしょ?4歳なのにあんな魔法をつかえるの?」
「それはこっちも同じだわ。なんでそんなぺらぺらしゃべれるんだよ」
お互いに少しの沈黙が流れる。気まずい空気だ。あの子も俺と同じで、反論できない状況だろう。なんでかは分らないがな。
「...お互いに謎が多いですね」
「そうだな。ま、今度からは気をつけろよ」
そういって俺はその場を去ろうとした。
「え、ちょちょと!待ってください!」
少女は俺を引き留めた。いや、なんでだよ。
「お、お願いします、いかないでください!」
少女は泣きそうになっていた。俺が何したってんだよ。あ、色々したか。でも実際、見捨てようとしてたわけだし...ここはついてこないほうがいいだろう。
「なんでだ?僕では何の役にも立てないだろ?」
「そ、それでも!私の隣にいてください!」
う~む。頼られるのは悪い気分ではないがな...
「えっと...住む場所とかは?僕の家は流石に無理だぞ?」
「じ、じゃあその家の近くにもう一軒、さっきの石の魔法で家を作ってください!」
そんな簡単なことじゃないんだがな...石の魔法もそんな自在には操れないしな。それに、いろんな問題もあるが...ま、今の親しか知り合いがいない状況よりはマシになるだろう。
「...分かったよ。でも、食べ物とかは自分で何とかしろよ」
「はい!ありがとうございます!」
こうして、俺は友達ができたのであった。
その後、騎士の武装を剥ぎ取り、骨は土に埋めといた。鎧とかはかなりな高値で売れるだろうしな。
そんなこんなで、俺が家に着くころには、もう夕方になっていた。
まあ、この剣とか鎧とかでいくらか金は浮くだろうから、許してもらえるかな?
と思って親に渡そうとしたが、怪しまれるのを危惧して置いておいた。
因みに、あの子には森の中にいてもらった。夕飯を食べたら戻るつもりなので、それまでは何とか生き延びてもらおう。