13. 4年4日目 絵
「あれぇ?僕の見込みではもっと強いと思っていたけど......思い違いだったかな?」
「殺す!殺す!」
煽るようにレルム......クソ野郎が言う。
俺は煽られ、さらに怒りが加速したのか、最大出力のかまいたちをクソ野郎に放つ。
「うぉらああ!」
しかし、あっけなくそれは切り返され、お返しにと急接近してきたクソ野郎の刀が俺の皮膚をかすめ取る。
「本気でもその程度かい?」
「っるっせえ!石槍!」
クソ野郎の周りを8本の石の円錐が囲う。当てるつもりで打ったが、それらは一つも当たらない。むしろ、俺に当たりそうだ。
チッ!もう一回だ!
「氷槍!」
今度こそ、当ててやる!
「攻撃がワンパターンすぎる」
しかし、クソ野郎は手を地面にかざすだけで氷槍の軌道を変え、先ほどと同じようによけられてしまう。
「レジストも簡単にできてしまう。君、ちょっと努力が足りないんじゃないかな?」
「くっ......」
実際、ここ最近は魔法の鍛錬を怠っていたかもしれない。十分、今のままで余裕だと調子に乗ってた節はある。だけど......お前に何がわかるんだ。
怒りが再燃してきた。
と、そこでクソ野郎が静かにつぶやいた。
「禁術『信』」
俺には少ししか聞こえなかったが、そんなことを言っていたように思える。
怪訝に思った俺は、冷静でない判断力も相まって、どなるように聞いた。
「てめぇ!何しやがった!」
「......君は、敵に作戦を聞くのかい?」
「黙って答えろ!」
ああクソ、こいつと話してると不思議と腹が立ってくる。
唇から血が出ている。唇を切ってしまったようだ。今、俺は物凄い顔をしているだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
早くあいつを、殺さなければ。
「シン、ちょっとまって」
ふと、声がした。リナの声だ。
しかし......理性を失った俺には、声の判別もできなかったのか。
「うるせえ!お前も黙ってろ!」
仲間に対しても怒鳴っていた。リナは、呆れたようにため息をつくと、すこしイラついた声で言った。
「......シンは、感情操作の魔法に掛かってる。なんで怒ってるのかを思い出さないと、抜け出せない」
「何で......怒ってるのか......って」
俺は一気に怒りがこみあげてくる。何で怒ってるのか?怒らないほうがおかしいだろ!
「テメエは!仲間が殺されても!怒らないような外道なのか!」
「はぁ......完全に術中にはまってる」
そういうと、リナは俺に手を向け、雷の球を放ってきた。
俺は、紙一重で直撃は免れたが......左腕に食らってしまい、左腕が動かなくなってしまった。
「っチ!何しやがる!」
「言葉で無理なら、力で解決する。それだけ」
続いて、リナは3つの雷の球を打ってくる。
「鎌鼬!」
俺はそれを鎌鼬薙ぎ払いで止める。雷の球は半分に割れ。光となって消えていった。
今思えば、違う属性はすり抜けるという考察に至ったのに、なぜ雷属性に風属性が当たるのか、と疑問を持たなかったのか、と感じる。
しかし、そんなことなど気にも留めてられないのだろう。俺は、リナへの追撃をやめない。
「石槍!」
「炎球」
炎の球がリナの腕から放たれ、石の円錐がリナの足元から出現する。
俺は炎の球をもろに食らったが、リナは石槍を風の魔法で難なく避けた。
「ぐっ......」
「シンはどうせその程度。黙って抜け出せ」
リナの口調が強くなる。
俺は、男やクソ野郎との戦いでほぼなくなった数少ない残りのマナで何とかリナに一矢報いようとする。
「鎌鼬......!」
「それはもういい。雷圧砕」
青白い粒子が集まり、1つの大きな手のような形になる。
その手は、鎌鼬をつかんだと思うと、粉々に砕いてしまった。
「なっ......!」
「......これ以上逆らうようなら黙らせる」
リナの前に現れている拳が握りこぶしの形になる。
「......上等だ。やってやる!」
それでも......俺は、イアのために......!
「話、聞いてない。なら......」
リナの前の拳が俺の目前に迫った瞬間。
「......まっ......て」
かすれるような声が聞こえた。
イアの声だ。
あれ?イア、死んだんじゃ......
......ああ、死なないようにしたって言ってたか。
そしたら......なんで怒ってんだ?俺。
いや、怒りがわいてこないことはないが......そこまで感情的になることか?
気付いた瞬間、怒りがふっと冷め、理性が戻ってくる。
と、そこで気づく。リナの光の拳が、弱弱しくなっていることに。。
俺は、鎌鼬で迎撃する。
「鎌鼬......!」
意識がフワフワしている。ここ数日で慣れた、マナ切れだろう。
「っ!」
リナが驚いたような表情をする。俺が拳を返せるのがそんなに意外だったのだろうか?
「わ、私は......何を......」
リナが頭を抱えて言う。......なるほど、おそらくリナも禁術に掛かっていたのだろう。
となると......
「あれ、破られちゃったか。ま、この程度で苦しんでるようじゃまだまだだけどね」
「......」
クソ野郎は、憎たらしい笑顔でつぶやいた。
こいつがすべての元凶か。
「君にはもっと残酷な方法で死んでもらわないとね、僕の心が満たされないよ」
「......なるほど、絵に描いたようなクソ野郎だな」
他人の不幸は蜜の味ってか。ま、分かってたけどさ、そういう奴だって。
「じゃ、またどこかで。今度はどんなことをしようかなぁ~?」
「おい!待ちやがれ!」
俺の声に応じるはずもなく、クソ野郎は光に包まれて姿を消した。
「チッ......」
テレポート系の魔法か。面倒だな。
クソ野郎も居なくなり、ほっと一息つく。
残っていた怒りも少しづつ少なくなっていく。
ふと、後ろを振り返る。
そこには、少しづつだが回復しているように見えるイアと、そのイアをできる限り治療しているリナが居た。
そこで俺は、改めて思った。
......あいつは、絵にかいたようなクソ野郎だな、と。