7.4年3日目 龍が齎すは混乱の兆し
今俺は下のほうにある商店街に向かっている。時間は夕方。夕飯にはおそらく間に合わないだろうが...誘拐される危険がある分、俺がついてやらねえとな。信頼関係も築いておきたいし。
........あれ、イアが帰ってこれたんだから行く必要なくね?ま、まあここで帰ったら本当に薄情でつぎにあったとき何言われるか分からないからな。それに、誘拐されて帰ってこれなくなったら目も当てられん。俺は安全策をとるぞ。
しかし......暗いな。夜だからというのもあるが........明かりに慣れてる日本人からしてみると不安以外の何物でもない。お化け出てきそう。
「もう着くね!」
イアは元気そうに言う。全く、こっちの気持ちを考えてほしいもんだ。まあ俺がビビりってだけなんだがな。
「あんまし目立つことすんじゃねえぞ?」
「うん!」
まあ、彼女の場合は羽の事もあるし、全く目立たないってことはないだろうがな。そういう点も含めて俺がカバーしていかないとな。うん。
あれ......何か忘れてないか?
****
商店街は目の前だ。
ゲート的なものが30mほど先にある。
「ここのお店は大体把握してるから任せて!」
とイアは言っていたので、今回俺は完全に護衛ってことになる。足手まといにならないように注意しよう。重力魔法があれば俺は余裕で負ける気がするので、俺は現状だと完全に足手まといだ。もっとも、戦術の豊富さだと俺のほうが上だから、そういう意味では俺も行く意味があるのかもしれない。豊富っつっても4個の魔法が使えるだけなんだがな。
そんなこんなで数十秒後。
俺はゲートの前に着いた。
「よっし、行くか」
「うん!」
そういって俺とイアは門をくぐった。
****
まず門をくぐって思ったこと。それは、活気がないという事だ。そこら中の人が憎悪、嫌悪、軽蔑などの様々な悪感情をもってそうな顔をしている。笑顔なのは赤ちゃんぐらいだろうか。
それに、周りが何かあわただしい様子もある。急に屋台を片付け始めている。閉店早すぎね?まだ日は落ち切ってないぞ?
そして、なぜか俺は大量の視線を浴びている。悪感情まみれの視線が俺に突き刺さりまくっている。まるで、俺が悪魔とでも言わんばかりに。
「おかしい........前はこんなことなかったのに........」
イアは言った。あれ、となると今日は何か祭りでもあるのか?いや、それならこんな不快な顔はしないだろう。それなら........
「原因は何だ........」
それから数分。
周りには、避難誘導のようなことをしている人。鎧を着た兵士。杖を持った魔法使いのような人。何かを迎撃するような体制だ。
しかも、その視線の先は……俺だ。
「貴様!邪竜の使いか!」
1人の兵士から俺に向けられる剣と殺意。えっと...。なんで?
なんでこうなっているのかわからない以上、相手への的確な回答はできない。
いっそ、思い切って聞いてみるか?
「すみません。なんでこんなことになっているんですか?」
兵士は声を荒げて言った。
「とぼけるでない!ヨルムンガンドの使徒め!」
すると周りの群衆(半分くらい野次馬)が次々と口を開く。
「そうだそうだ!」「忌まわしき龍の使いめ!」「天人の横に着くとは何を考えている!」「ファフニール様がお許しにならないぞ!」
次々と浴びせられる言葉。もはや聞き取れないほどの音量。その中に、俺の記憶を呼び起させるものがあった。
「海人族め!」
この言葉が聞こえた瞬間、俺はやっと現状を理解した。
俺、一番重要なとこ抜かしてたわ。
それを理解した瞬間、兵士の1人による「行くぞ!」という号令で、あらゆる攻撃が俺たちに向かって放たれた。
俺はイアを守りながらここを切り抜けれるのか?
......いや、出来る出来ないじゃない。やるしかないのか。
こうして、数十分前までの平和な商店街は、一気に戦場へと変化した。