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プロローグ

幼稚園の頃はスーパーヒーローや仮面ライダーに憧れていた。

不思議な力や能力を駆使し、悪い敵を華麗にやっつける彼らは、いつも空に登る太陽と同じぐらい輝いて見えた。誰だって一度は正義の味方になりたいと思ったことがあるはずだ。

もちろん自分もその一人だった。母親の風呂敷をこっそりと拝借し、それを首に巻きつけてマント代りにしたもんだ。そして優越感に浸りながら滑り台に登り、

「正義の味方! やっちーマン参上!」と高らかに叫ぶのがロマンだった。

『やっちー』というのは、幼稚園時代のあだ名である。自分の名前をヒーロー名にするなんて我ながら単純だ。でも幼くて、それゆえピュアなハートを持っていた自分はすごくその名前がカッコいいと自負していた。

自分こそが世界の中心で、だからこそ、この世界の主人公は自分だと信じていた。

ある日のことだ。いつものように自分は滑り台の上で公園を眺めていた。

すると、ブランコの周辺で、自分より小さい男の子が、自分より大きい男の子に虐められている光景が目に入った。可哀想に玩具を奪われて暴力を振るわれている。

これは正義の味方の出動だ。自分は滑り台から降りて彼らの元に向かった。

「おい!そこのお前!手を離したまえ!」

自分の第一声を、今でもはっきり覚えている。テレビでヒーローが言っていた台詞をそのまま引用したからだ。オリジナリティなんて欠片も無い。

いじめっ子は「なんだ、おめぇ?」と、いかにもな悪人面で歯向かってきた。この様子じゃ話し合いで解決できそうもないな。そう判断した自分は「チェストぉおおおおおぉおおお!」と熱い正義の拳を奴の顔に入れる―――――――予定だった。

しかし、それよりも速くいじめっ子のビンタが俺に届いた。

唖然とする自分に、休む暇なく奴は腹を蹴り上げる。

運悪く鳩尾に入り、その場でうずくまる自分。

いじめっ子は「よっわー!」とせせら笑うと今度は足で頭を踏みつけた。砂粒が肌に突き刺さって痛い。

「お前なんか正義の味方じゃねぇよ!」

バーカバーカと嘲笑する奴の言葉が悔しかった。そして腹の痛みに耐えながら、この状況の惨めさに泣きそうだった。いや、もう半泣きだった。俺はヒーローなんだぞ、と小声で反抗するも奴の耳には伝わらない。ますます足の踏みつける力が強くなってくる。

「…………誰か……………助けっ……て…………!」

途切れ途切れに救援を求めた時だった。

ブランコが揺れる音がした。

さっきまで誰もいなかったのに。

奴はそれに気がつくことなく、今度はサッカーボールみたいに蹴り飛ばそう右足でフォームをとった。

ギィギィと鈍い音が大きくなっていく。


ヒーロー、ヒーロー。

正義のヒーロー。

助けて、ヒーロー。


「おい! そこのお前!」

誰かが叫んだ。

いじめっ子が振り返る。

それと同時に、

「スーパーマイクロファイバートルネードモイスチャーホイップハイドロガンボンバーキック!!」

謎の人物が、いろいろ矛盾した技名を唱えると、勢いよくブランコから飛んだ。

太陽がそいつの身体を照りつける。

逆光で顔は見えないが、そのシルエットは――……ものすごくカッコよかった。テレビで見たヒーローそのものだった。

が、やってることはえげつなかった。なんでかと言うと、そいつの飛び降りた着地点はいじめっ子の顔面だったからだ。

体操選手が技を出し終わったようにそいつは両手をY字に挙げた。

いじめっ子はというと鼻血を垂れ流して何かわめいていたが、その内容は覚えていない。

どちらかというと、そのあとに謎のヒーローが、彼に鮮やかな回し蹴りを食らわせた方が印象的だ。

いじめっ子は無様に倒れ、そして涙と鼻血で顔をくしゃくしゃにして逃げ去っていった。

某然とその様子を見ていた自分に、「正義は勝つ!」とそいつは言った。

黒い短髪に小麦色の焼けた肌。タンクトップと短パンに赤いスニーカーがよく似合う少年がそこにいた。

「君、大丈夫かい?」

ほら、と差し出された手を自分は流されるまま握った。暖かくて、優しい手だった。

「あ、……りっ、がどぉ……!」

しゃくりをあげつつお礼を言うと、いやいやとそいつは謙遜した。もっとも、このときの自分は謙遜なんて言葉は知らなかったけれど。

「それじゃ! バイバイっ!」

そう言って帰ろうとする少年に、自分は聞いた。

「名前……おじえでっ!」

こんなことを見ず知らずの少年に聞いて、自分はどうしたかったのだろう。

その理由も覚えていない。

なんせもう十年も前のことだ。はっきりと全部覚えてる方が恐ろしい。

少年は明るく答えてくれた。

「 だよ!」

そう言って、歯を出して笑った。清々しい笑顔だった。まさしくそれはヒーローだった。

そしてどこかに消えてしまった。その後、何度も公園に行ったが二度とそいつに会うことはなかった。

結局、少年の名前は忘れてしまった。

彼が居なくなって、一人取り残された自分は、黙って風呂敷を取った。

涙が溢れて止まらなかった。

自分は正義のヒーローではなかった。

ただのどこにでもいるガキだった。

それだけじゃない。

その時、知ってしまったのだ。

この世界の主人公は自分じゃないことに。

こうして、信じてたものが全て虚像へとひっくり返されたあの日、佐藤靖道は自分が普遍の存在だということに気づかされたのだった。



今回、これが初めての小説です。

まだまだ分からないことばかりですが、コメントや評価を頂けたら

それはとっても嬉しいなって。

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