プロローグ――遠い記憶――
泣いているのかい?
クス、強がらなくてもいいよ。僕だって君の立場だったら、きっと泣いただろうから。
不安で、怖くて、悲しくて……君は、僕のことを憎んでいるだろうね。
いいよ、僕に気を遣わなくて。憎まれて当然のことを、僕は君に課そうとしているのだから。だから、無理しなくていい。泣きたいのなら泣いていし、僕を罵りたいのなら罵ればいい。
うん。そうだね。……うん。……え、初恋もまだ?君いくつだっけ?あ、ううん。いや馬鹿になんかしてないよ。ただおじさんの初恋って5歳の時だったから……枯れているなんて思ってないよ。不能者だとも思ってないよ。でも、そうだね。そのままじゃ、寂しいね……。
そんな不思議そうな顔をしないでおくれ。僕だって、君を不幸にしたいわけじゃない。これから君にすることを思えば、どの口がそんなことを言うのかと怒られてしまいそうだけれど、これは僕の本心だよ。信じてもらえないだろうけどね。
まぁ、僕の弁解はこの辺にしておいて――格好悪いからね――ええと、要は恋愛ぐらいしたい、ということだよね?それなら多分、大丈夫だよ。え、説得力がない?だって考えてみてくれたまえ。恋なんてものは、しようと思ってできるものじゃない。気付いたら落ちているものなんだよ。要は魅力的だと思える人に出会えるかどうかなんだ。そこまで僕は責任を負えないから、断言するのはむしろ無責任というものだろう?
僕にできるのは、君の感情――心を残しておいてあげることぐらいだ。ん?残して平気なのかって?うーん、まぁ、バレたら不味いねぇ。ハハハ。でも、ね、ここには君と僕しかいないのだし、バレる可能性は低いと思うよ。バレたって、僕の寿命がちょっと短くなるくらいで、君には手出しできないよ。大丈夫。君は何も、心配しなくていい。大丈夫だから。
だから、ね、ゆっくりおやすみ。