序章
真っ暗な空間の中で声が響いていた。
その声は、四方から聞こえるようにも、一点から聞こえるようにも思える。
そして、その声は少女のものだった。
十二歳という年にしては、ひどく重く絶望に満ちた声だった。
その声はただひたすらに同じ言葉を繰り返す。
暗い、苦しい、つまらない、と。
ふと、少女の姿が浮かび上がってくる。
彼女は、その両手にあまるほどの本を持っていた。
少女がなでると、ぼんやりと発光しだす。
気付けば板張りの床があった。
少女はゆっくりと歩き出す。
歩みを進めるにつれ、周りの様子が少しずつ変わっていく。
薄汚れた白い壁が現れた。
真っ暗な外を見せる窓が出来た。
豪華な装飾があしらわれた扉が現れる。
その周りは広い玄関ホールになっていた。
少女が扉に手をかける。
だが、その扉はぴくりとも動きはしなかった。
「どうして出られないの」
少女の口から言葉が漏れる。
「せっかく思い道理になる世界を作ったのに、どうして!」
両手を思い切り扉に叩きつける。
しかし、物音ひとつしない。
何度も何度も叩き付けた後、少女はすっと消えてしまった。
そのとき、扉はゆっくりと開いていった。