ミッドナイト・ストーリー 〈完結〉
「ねぇあなた………
ちょっとここに座ってくれる?」
「なんだ、まだ起きてたのか………」
「眠れる訳ないでしょ!」
「なんだ………
どうしたんだよ。
………疲れてんだ。
今度にしてくんないか?
な、それより、なんか簡単なもん出来ないかなぁ?
お茶漬けでいいんだけど」
「簡単には済まさないからね!」
「何だよ…………
険しい顔して」
「へ───
惚けるつもり………。
逃げられると思ってんだ」
「いい加減にしてくれよ!
何時だと思ってんだ。
飯はいい………
シャワー浴びるから」
「これ…………
………………何?」
「何だそれ?」
「あたしが訊いてるんだけど…………」
「だから何?
…………指輪か?」
「これがブレスレットに見える?」
「知らないよそんな指輪。
どこにあった」
「よくもまぁ…………
イヤリングだって解ってて………」
「よし分かった………
君もそこに座って。
ちゃんと見せてくれ。
ほら、貸してみろ……。
………………………
うむ…………。
……で、もう片方は?」
「あんたのポケットじゃないの?
うっかりしちゃったわね?」
「なんだ?
………そのドヤ顔は。
ははぁ────
君、まさか…………
………… …………」
「ニヤニヤして誤魔化すつもり?」
「ほぉ! ほぉほぉ………
…………で?
お前妬いてんのか?」
「随分早い開き直りね?」
「志帆?」
「何よ…………」
「いつもありがとな?」
「ふざけんな!!」
「残業の疲れがぶっ飛んじまったよ。
怒ったお前見んの………
あれ以来………
だよな?」
「あんた………
いけシャーシャーと何言い出す訳?
ヘナヘナ笑うなバカ!!」
「馬鹿はひどいな?
俺…………
ここんとこさ、ずっと残業で………
君の顔、まともに見てなかったよな?
こうして向かい会うのも新鮮なもんだ………」
「新鮮はいいわよ………
で、何でこれが車に落ちてるの?
ちゃんと説明しなさいよ?」
「そうか、車か……。
少し考えてみるよ。
君も一緒に……………
……………………
おっ…………………
おいっ、どうした!
泣いてんのか?」
「…………………
… ………… ……」
「済まない………
あまり構ってやれなくて」
「何でそうやっていつも上から言える訳?
全然構ってなんか欲しくないわよ!!
この……………
鬼畜!!!」
「鬼畜かぁ……
随分だなぁ…………
ま………
兎に角ここは………
また明日って事で………」
「何でそんなシドロモドロになる訳?
あたし…………
今さら何聞いても驚かないよ?
だから、嘘だけは吐かないで!」
「本当に済まない………
毎日ちゃんと向き合ってたら、こんな事で君を迷わせたりしなかったのに………」
「やっぱりそうなのね?」
「そうじゃなくて………
…………
… ……………
あっ、ちょっと待って…
携帯が…………」
「別れよ?」
「何だよそれ………
………………」
「ずっと信じてたのに……」
「温美からだ…………」
「そんなの、今大事?
………………」
「待って…………
メールが…………
…ったく、今日はどうかしてる……」
「そんなの明日にしてよ!
馬鹿……………」
「待って………」
「今、妹のメール読む方が大事なの?
あんた…………
自分が何したか分かってんの!?」
「いや?
…………これだって大事かもよ?」
「死ね!!!
……………裏切り者!!
───── ─────
…………何よ!?」
「いいかい?
僕をちゃんと見て!」
「とうとう開き直るんだ………」
「それ…………
…………君の方かも」
「意味分かんないんですけど……………
あたし…………
明日、離婚届け取って来るから…………」
「『兄さん、こんな時間にごめんなさい。他でもないんだけど、こないだのリンちゃんの結婚式の時は色々ありがとうね。
で、今、ママに借りてたバッグとかネックレスを整理してたんだけど、真珠のイヤリングが片方見つからないのよ。そっちにないかなぁ。一度探してみてくれない?ゴメンね遅くに。返事は明日でいいからね。』………
…………みたいな………
………… …………
… ……………
…………見る?」
「…………見ない」
「愛してる」
「バカ…………」
「………やろうか」
「バカ……………」
「いいだろ?
今日は……」
「なによ………
……もう………
ほんとに……」
「ほら………
やっぱり笑ってる方がずっと綺麗だ………」
「……… ………」
「明日…………
俺、付き合わなくていいかな?
…………離婚…届け?」
「もう!……………
…… ………… ……」
──── ∞ ────
みっともないヒステリー
──── 完結