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山吹さんちのご兄弟  作者: 百瀬コーキ
2/7

第1話:五人兄弟の朝

「だ、だれ?」

 と思わず尋ねた俺に幼稚園児は可愛らしく小首を傾げつつ「寝ぼけてるの?」と聞いた。

 なんだこの園児、それにしてもどっかで見たことあるような顔してやがるな、食い入るようにジッと見つめると園児はますます首をかしげた。このパッチリした目といい、黒いサラサラの髪といい、なんか毎日顔を合わせているような、この見慣れた感じ。ハッ!!


 コイツ、どことなく俺の母に似ているんだ、あの野郎いつ産んだ?! えっ、つーか母さん産んだの? ま、まさかな、従弟とかそんな落ちだろう。

 とりあえず二階にある俺の部屋に園児を残したまま階段を駆け下り、キッチンのドアを勢いよく開けつつ叫ぶ。


「母さん! 俺の部屋に見知らぬ園、じ、が?」

 だが、思わず言葉に詰まる。キッチンに立っていたのは母ではなく、見知らぬ20代位の男だったからだ。しかもエプロンつけてる。サラサラの金髪に顔は俺よりカッコいい、女子がいう王子様とはこういう事か、いやそんな場合じゃねェ!!

「あっ、征大 朝ごはん出来てるよ」

「だ、」

「だ? どうしたの? さては昨日も遅くまでゲームしてたなぁ。あれほど早く寝ろって言ったのに」

「誰だテメー?!」思わずおたま片手に立っている男を指差し大声を上げる俺。


 すると

「朝っぱらからうるせぇ」と俺の頭上よりも遥かに上から声が降ってきた。慌てて振り向くと、短い黒髪の巨人が立っていた。コイツはさっきのやつとは違った感じの男の中の男みたいなカッコよさが出ている。

「な、な」開いた口がふさがらないということを身をもって実感した、口をパクパクさせながら考えていると、巨人は寝ぼけ眼のままキッチンに立つ男に「朝飯は?」と問いかけていた。


「今日の朝ごはんは、誠治せいじの好きなアジの開きだよ。お味噌汁のむ?」

「のむ、俺今日は飲み会あっから晩飯いらねぇから」

「了解ー、あんまり飲んじゃダメだよー」

 巨人は俺を押しのけて食卓につき、寝癖のついた頭をガシガシとかきながら大きな欠伸をしテーブルに並べられた食事に手をつけはじめた。


「? なんだ征大、飯喰わないのか? だったら俺がアジもらうけど?」

 未だに口をパクパクさせて立っている俺を見て巨人、おそらく誠治? は味噌汁を啜りつつテーブルに置かれたアジの開きを箸で指した。

 なにも答えない俺に首を傾げて今度は俺を箸で指し、

「オイ、兄貴コイツ寝ぼけてんじゃねぇの?」

「そうなんだよぉ、さっきからずっと様子がおかしくて、多分また徹夜でゲームしてたんだと思うけど?」

「どうしたんだろうねぇ」と二人揃って俺を見ながら首を傾げた。

 い、一体なんなんだこの我が家に似合わないはずの大家族的ほのぼのとした光景は?!


 今度は二階からドタドタと階段を転げ落ちるように誰かが下りてきた。

 また、あの園児か? と考えていたら「遅刻! ヤベェ! 今日は朝練あんのに!」とあの園児よりも幾分か低い声が馬鹿でかい大きさで聞こえてきた。今度はだれなんだ!


「兄貴! そこ退けよ!」馬鹿でかい声が今度は間近で聞こえた。おそるおそる振り向くと俺よりも少し低い身長、おそらく中学生ぐらいのカッコいいというよりも可愛いといった風貌の少年がぐしゃぐしゃの頭のまま立っていた。声の大きさに驚いて退いてしまうと、少年はもの凄い勢いで部屋に飛び込み朝飯にがっつき始めた。 今度は茶髪かよ、つーかさっきからみんな顔がいいなオイ。


聖哉せいや兄貴! 牛乳取って!」

「オイ! 誠士郎せいしろう! 物喰いながら喋るな!」

「兄ちゃん! そういいつつ人のアジ取ろうとすんな!」

「やかましい! 社会人には体力がいるんだ!! 年上を労われ!! それだから万年補習なんだ! 馬鹿弟!!」

「コラ! 二人とも! 喧嘩しながら食べない!」

 なんてテンポのいい兄弟なんだ。思わず呆れてしまう。

「おはよー」今度は聞き覚えのあるのほほんとした声。もとい母さんの声。なんかアホらしくなってきた。


「母さん!」救世主の登場に大声をあげて振り向く俺。

 しかし、またしても言葉につもる、何故ならそこには謎の園児と仲良くお手手を繋ぐ母親がいたからだ。見れば見るほど似ている二人。オイオイ、マジで産んでないだろうな。因みに笑えることにうちの母親は年の割には若く見えるし、俺より小さい。俺より小さい。大事なことなので二回いってみたり。


「征大ってば、大きな声出してどうしたの?」

「呑気なこと言ってる場合じゃねぇよ! コイツらとそのちびっこ何なんだよ!?」大声を上げつつ未だに食卓で争う不審者たちと母とお手手つなぐ園児を指差す。

 だが、母は園児と顔を見合わせつつキョトンとした顔で、

「? 誰って? 何言ってるの?」などと答えた。

「だから! コイツら一体誰なんだよ! まるで自分の家みたいに居座りやがって!!」母に向かって怒鳴ると、母はさも当然と言った顔で無い胸を張って俺に向かって答える。


「自分の家なんだから当たり前じゃない」

 はっ?

「じぶんのいえ? なに言ってんだよ? 俺と母さんは二人暮らしなんだから、他のやつがいるはず無いだろ」

「征大、さっきから変よ。まさか、自分の兄弟の顔を忘れたの?」

 今このオバハンなんて言った?

 思わず俺は母の背に隠れこちらを恐る恐る窺う園児を指差し「きょ、兄弟?」と尋ねた。

「そうよ、この子たちはあなたの兄弟じゃない」

 俺は信じられず再度問う。

「兄弟ってあの、兄とか弟の?」

「そうだって」

「英語で言うとブラザー?」

「そうだって言ってるじゃない、頭でも打ったの?」

 母さんに頭の心配をされるとは、これはかなり重症だ。

「う、嘘だろぉ?」

 呆然とする俺の後ろでは未だに三人による朝食戦争が続いていた。


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