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平行世界

作者: 目目連

初めましての人も、いつもお世話になっている人も………。


どうも、目目連です。


『めめれん』ではなく『もくもくれん』です。


と言うわけで目目連が小説家になろうで執筆活動(主に二次創作)をして、はや一年です。


それを記念しまして、短編を投稿させていただきます。


先ずは第一弾、オリジナルです。

並行世界――パラレルワールド。同時系列の異世界。もしもの世界。それは真逆の世界。それは少し違う世界。それとも―――――




第一章   並行世界






「――ハーちゃん!」


ボクを呼ぶ声がする。


「ハーちゃん、言うな」


ボクは呼ぶ声の主――小脇こわきのおでこを小突く。


「あう。いいじゃん、可愛いよ?」


「ボクは別に可愛くなくていい」


『ハーちゃん』とはボクの母親がボクを呼ぶときに使う呼称なのだが、一度ボクの家に遊びに来た友達がそれを聞いて呼び始めたのがそもそものきっかけ。それ以来ボクの周りの友人はボクのことをそう呼ぶ。


(子どもっぽいから嫌なんだけどな)


そんなことを思いながらももう慣れてしまった自分がいる。


「でハーちゃんはどう思う?」


「え、何が?」


「だからパラレルワールドだよ。漢字で書くと並行世界。昨日弟たちとさ夜を語り明かしたんだよ」


「語り明かしたんなら昨日じゃなくて今日なんじゃない?」


「え?!そうかな……うん?う~ん………って違うよ。そういうことじゃなくて、ハーちゃんの並行世界についての意見をお伺いたててます、私」


「文章がぐちゃぐちゃだよ。ふん、並行世界ね…………」


パラレルワールド。よく漫画やアニメなんかである設定。ボクがまだ小さい頃に夢描いた物語の世界。でも今のボクは現実を知り、そんな世界が無いことを実感してしまった。いや、もしあったとしてもボクが主人公になることは無いだろうと思う。


「……あったら良いね」


ボクはテキトウに相づちを打つ。


「ふふふ。そんなハーちゃんにお得情報だよ。聞きたい?聞きたいよね」


小脇は含み笑いをしながら何故かにじり寄って来る。


「いや、別にいい……」


「そうでしょ。聞きたいでしょ、聞きたいでしょ。特別に恵ちゃんが教えてあげようではないですか」


「言ってないし」


小脇(めぐみ)。高校に入って知り合った友だち。自称情報通。少しカールのかかった茶髪で今時の女の子と言った感じだ。男女分け隔てなく接し、意外と(いや、容姿はボクから見ても並以上だから以外でもないのか?)モテる様だか本人に自覚なし。性格は……言うまでもなし。席が近いため一方的に話しかけられたのが仲良くなるきっかけだった。ボクはあまりこの手の娘は苦手なのだけど……まぁ流れに弱いのである。


「でねでね。なんとわが校には七不思議があるのですよ」


「話変わってない?」


「いやいや、待ちたまえ。本題はこれからだよ、ハーちゃん」


顔を寄せたかと思えば、オーバーリアクション。かと思えばいきなり耳に口を寄せての内緒話。コロコロと表情を変えて忙しない娘だった。これがまた男子に受けるらしいが……。ボクには真似きないし、しようとも思わない。


「実はだよ、ハーちゃん君。その七不思議の一つに『並行世界への鏡』と言うものがあるのだよ。パラレルミラーと言うらしい」


「ハーちゃん君って……」


「なんでも図書館の奥にさ、資料室ってあるじゃん。そこの奥の方、人体模型の隣に姿見があるらしいんだよ。そこにさ、並行世界の自分の姿が映るらしいんだよ」


「へぇ。ボクは初めて聞くよ」


ボクは出来るだけ平淡に抑揚なく驚嘆する。


「で行ってみない?」


「……何処へ?」


嫌な予感しかしないけど一応聞いてみる。


「図書室!ハーちゃん確か図書委員でしょ?資料室の鍵って何とかならないの?」


目をキラキラ輝かせながらボクを見つめてくる小脇。


「……善処してみるけど」


「やったね。さっすがハーちゃん!」


と区切りがついた所でチャイムが始業を告げる。朝礼で1限目の授業は男女別で行われるそうだ。


(わざわざ現代社会を男女別でやるのは何で?)


ボクは疑問に思ったが別に歯向かう意味はないので大人しく従う。


「男の子は小ホール、女の子は視聴覚室へ向かって下さいね」


ふくよかな体型の担任がほんわかとした雰囲気で教卓の前で話し終え教室を出ていくと皆が一斉に移動し始めた。


(さてボクも……)


とボクも指定された教室へ向かうと


「ハーちゃん、何処行くのよ。私たちは『こっち』じゃない」


「あぁ、ごめん。間違えた」


小脇に言われ気付き、小ホールへと向かっていた足を『視聴覚室』へと向ける。




そう。ボクは女の子。





「もう。ハーちゃん、たまにぼけっとしてるんだから。私が止めなかったら小ホールに行ってたでしょ」


「うん。ちょっとボーとしてた」


「全くボクっ娘でドジっ娘なんて…………可愛すぎるっ!もう、お姉さんにスリスリさせなさい」


「ちょ、ちょっと止めてよ、恵」


小脇がボクに頬を寄せて来るのを何とか止める。


(たまに恵の言葉の意味が分からないんだよな)


と割りとどうでもいいことを考えていた。


移動中ボクは窓から外を見る。


密界――――あの偏屈な幼なじみがそう評したボクらの街並み。


所狭しと建物が建ち、それは過密化しすぎた結果だった。


道は徐々に削られていき今では道など無いに等しかった。何処かへ行きたいなら他人の家を跨ぐしかない。あるときは居間を渡り、あるときは屋根を渡る。そんな世の中だ。少し昔では考えられなかったらしいが生憎ボクは現代っ子なのでよく分からない。偏屈な幼なじみ曰く、この国の規制が緩んだ事が原因らしい。



『大幅な規制の減免。世間的にはそう言われているよ。ハーにも分かりやすく言うなら法律が軽くなったのさ。今までは物を盗んだら罰金か禁固だったんだ。それが今ではなにも無し。軽犯罪に関しては無罪放免だ。

うん?いやいや、それによって悪人が増えるってわけでもないさ。もとから犯罪をしない奴はしないし、する奴は規制が厳しかろうとするもんだ。それに軽犯罪に手を出す奴らは興味本意や背徳感に酔ってる奴らだ。規制が緩んだおかけでそういった奴らは減少したようだぞ。ん、それは違うな。それで善人が増えるわけではないからな。それよりハーは直ぐに自分の意見を曲げ過ぎだぞ。もう少し自分と言うだな……あぁ、話が逸れたな。この話の後に続きはするとして、だ。

罰則が緩まると言うことは別に良いことではない、何せ規制自体が緩くなることにより規制する側の規制も緩くなるのだからな。ん?何だ、何を変な顔をしているんだ。それに何だか憔悴しているな。ちゃんと睡眠はとっているのか?いかんぞ、今は若いから無理が出来るが年老いてからその無理が返ってくるのだからな。ふん、また話が逸れたな。規制する側の規制が緩くなるとはだな。まぁ極端な事を言えば軽犯罪だろうと発砲の許可が下りるということだ。いや、これは大袈裟なわけではないよ。ふふ、ハーも直ぐに分かるさ。そして規制する側が規制を破った者に容赦のない制裁を加えた場合、私たちはそれに怯え、今までみたく法のギリギリをいくことはしなくなる。そうすると私たちは昔の規制のまま暮らしてしまうわけだ。三つ子の魂百まで、とはよく言ったものさ。つまり、結論。規制する側にしか利益は発生しないのだよ、ハー。さて今度は君の自主性についてだな……………』

 


それから三時間延々と喋り続けた幼なじみには尊敬の念すら覚える。


「あ、竹トンボだ」


そんな事を考えていたボクの横で小脇が窓の外を指さす、それの先には確かに竹トンボが在った。


正確に言うなら全長が高層ビル以上の竹トンボだ。


それは規制する側の出した強行策の一つ。偏屈家に言わせれば初撃。その竹トンボはゆっくりとした動きで回り始める。当然密集した街でそんなことをすればどうなるか子どもでも分かる。竹トンボの羽の高さ以上の建物は見事に倒壊していく。ご丁寧なこと羽には鉄で補強がされており、正に壊すのが目的の物だった。


「うわぁ、スッゴい。コンクリートが豆腐みたいだぁ」


そんな声が横から聞こえたがボクは全く反応出来ずにいた。


(こんなに………)


初めてだった。ニュースや新聞では幾度か取り上げられていたが実感がわかなかった。でも今、現実に目の前で起こることは目を背けられない。


(……こんなにも酷いものなのか)


なんの予告もなしに無慈悲に回り始める竹トンボ。もし中に人が居たら、中でなくても周りに人が居たら……。


そう考えると何だか膝が重く、思考すら重くなってきた。鈍い思考の中であの偏屈家はこんな時何を思うのか、と考えた自分がいた。


それが回り終わるまでボクはただそれを見ることしか出来なかった。


「今の凄かったね、ハーちゃん」


竹トンボが去って、小脇に声をかけられるまで自分が立っていることさえ忘れてしまっていた。


「ハーちゃん?」


返事をしないボクに疑問に思った小脇が顔を覗きこんでこようとしたその時


「おぉ、はの字じゃないか」


ボクらの後ろに突如現れた第三者。


「こんな所で呆けて何やっとるんじゃ?そないに窓の外は面白いものだったかの?」


「いえ、特には」


竹トンボの分からない恐怖に呆けていたボクはその似非方言的口調で一気に冷静さを取り戻し、振り返り様に答える。


「何か用ですか、追い剥ぎ先輩」


「ぐへへへ。お嬢ちゃん、良い着物着てんじゃねぇか。うへへ、ちょっと寄越しな」


「ちょ、きゃーっ止めてくださいよ」


「かかか。冗談だて、冗談」


「今、思いっきりスカートと襟掴んだじゃないですか……」


手をワキワキしながら先輩は笑う。


(今、目が本気だった)


「それによ、はの字。追い剥ぎ先輩違う、荻萩おぎはぎ先輩。りぴぃと、あふたみぃ。お・ぎ・は・ぎ」


「で先輩、何か用ですか?」


「ん?可愛い後輩が窓を見て黄昏てんから声かけて邪魔したろう思うただけじゃ」


そう言ってまた手をワキワキしたのでボクは一歩引いてスカートを手で押さえる。


「え、えぇと。ハーちゃん私先に行ってるね」


と言って小脇は小走りで逃げていった。


「先輩のせいですよ。恵に引かれちゃったじゃないですか」


「ちっちっち。はの字は分かっとらんの。ありゃ儂の魅力に耐えきれずに待避したんじゃて。ふっ、モテる男は辛いの」


(あぁ、この人はもう駄目だ)


荻萩先輩。三年生でボクの通うこの高校の二大有名人の1人。その性格もさることながら人目を引くのはその格好の方だ。学校指定のシャツの上に甚平を袖を通さずに羽織り、スラックスも改造し袴のようにしている。


(よく教師に何も言われないな)


とは言え、この人が生徒会の役員をやっているんだよな。しかも副会長。入学式の時に壇上に来たときボクたち一年生はかなりどよめいたのは鮮明に覚えている。和風趣味全開で筆記用具は筆と硯という噂が流れるほどだ。一度先輩に煙管は無いんですかと聞いたら、「煙管は駄目らしいんだわ」と既に試み済みだった。


「それにしてもド派手にやったの、お上もよぉ」


と言って今の今までビルが建ち込めていた辺りを見る。


「『文』の奴が感化されなきゃエエんだがな……」


そう、ぽつりと呟いた。


「あぁ、会長ならありえそうですね」


あや


我が校の完全無欠の生徒会長。一年の頃から生徒会長の座に座り、三年連続生徒会長を勤めている超人だ。それでいて後輩たちに優しく、全生徒の憧れの的だった。文武両道は当たり前、容姿端麗、先生うけも良く、おまけに財閥のご令嬢だ。完全無欠とは彼女の為にある言葉だと真しやかに囁かれているほどだ。


「はぁ、何で天はあんなもんを創ったんだ?神さんも気の迷いはあるもんだな」


―――ピン、ポン、パン。


そこで校内放送が流れる。


『あぁ、あぁ。はいは~い。文ちゃん会長ですよぉ。緊急連絡、緊急連絡。荻萩ちゃん、荻萩ちゃん。文ちゃんの悪口を言った罪で今日の授業後、折檻室へご招待デス!』


「な、ちょっ待て」


『それでは文ちゃん会長の緊急連絡終わりぃ。PSハーちゃんへのセクハラはまた別に折檻するからね、は~と。だからハーちゃんも私の事は文ちゃん会長と呼んでね』


そう言って放送は途切れた。


「――な、………」


流石の荻萩も言葉を失う。


「先輩も大変ですね」


ボクはそんな先輩に精一杯、投げやりな言葉をかける。


「他人事だな、はの字」


「はい。他人事ですので……」


「ほぉう。そんな可愛い後輩に先輩が良いこと教えてやろう」


「……何ですか?」


明らかに悪い顔をしながら言う荻萩。


「今日な、朝から放送機器の調子が悪くてな。朝のチャイムをからへそ曲げたみたいんよ。儂の感覚が確かならもう授業始まっとるはずやな」


「………へ?」


「確かおまんとこは一時間目は現社の山本女史だったな。あの人は時間厳守やろ。一分たりとも許さんのやないか?」


ボクの顔から血が引いていくのが分かった。


「かと言ってサボるのもサボるでバレたら大変やろな、はの字?」


ボクは先輩の言葉を聞かずに走り出す。


「かっかっか。精々足掻けよ、後輩」


後ろからそんな声が聞こえたが今は無視だ。


(あ、そうだ……)


ボクは一旦足を止めて振り返る。


「先輩」


「ん?」


予想外だったらしく不思議な顔をする荻萩。


「パラレルワールドってどう思います?」


「……あったらエエんやないの」


一瞬、影が落ちたように見えたが今はそんな時間は無いのだ。ボクは先輩に一礼した後にまた走り出す。明日へ、………いや、謝りになんだけどね。


それを見送る荻萩。1人佇むその姿はまるでさっきまでとは別人の様だった。


「荻萩ちゃぁん?ダメだゾ、ハーちゃんに悪戯したら」


そんな彼に何処からともなく現れた少女が話しかける。


「ん、お前ほどじゃねぇよ」


そんな彼女の奇行など見飽きている彼は何の驚きも見せず、答える。


「うふふ、何のことかしら?」


少女は屈託ない笑顔を見せる。まるでこの世に悪意など在りはしないのだとでも言うように。


「で、放送器具は直ったのか、文?」


「ふふん。全然駄目なのだぁ」


少女――文は胸を張り、得意気に言う。


「駄目なのかよ。お前に直せないんじゃ何処の技術屋呼べば直るんだよ、全く面倒だな」


今まで使っていた似非口調は捨て、素の荻萩で喋る彼に文は前に回り込み、その小さな体で下から覗きこむ。


「面倒だなぁ。それって荻萩ちゃんの口癖だよね。だってここの放送器具ねぇ、古いんだもん。直すのに部品が足りないのっ」


荻萩の口調や声色さえも真似て言う。この少女にとっては声帯模写すら当たり前なのだ。


「はぁ?古いってウチの放送器具は最新式だろ?」


国の税金をフルに使い、学校の設備を全体的に向上した。それは勿論、この少女の入学と同時にだ。国すら後ろ楯にする天才なのだ。


「へぇ?だってあんな構成、小学生になる前にまとまったよ?」


「はぁ、何でこんな奴に才能が与えられたんだ?本当に神様の迷走かよ」


「プニプニ」


溜め息を吐く荻萩の頬をつつく。


「パラレルワールドって何だ?」


文の腕を掴み、止めさせ問う荻萩。


「ん?パラレルワールド、平行世界。同時間軸の別次元、もしもの世界とか?」


首を傾げて答える。初めから最後までずっと笑顔で言葉の真偽が分からない。


「お前はいつもそうやってはぐらかすのな」


「そういうところが好きでしょ、荻萩ちゃんは」


「――なっ」


「私も荻萩ちゃんの好きな子の気を惹こうと奇抜な格好をしたり、変な口調にするところとか好きだよ」


と不意打ちに頬にキスをする。軽く触れるだけの幼い口づけ。


「えへへ」


「………」


そこには甚平を着た顔を真っ赤にした男子高校生と幼い風貌をした女子高校生が佇んでいた。この二人がこの高校の二大有名人にして、生徒会を仕切る副会長と会長なのである。






ボクは帰宅している。1時限目以外ならいつもと変わらないひだった。いや、1つ違うのはいつもはそびえ立っていた建物の1つが倒壊していることだ。しかし誰1人としてそれに異を唱えることも、慌てることも、話題にあげることさえしなかった。


(ボクの中にあるこの感情はなんだろう?)


ボクは帰り道の益田さんの家のリビングを通りながら思う。


(何で皆平気なんだろう?)


リビングでテレビを観ている益田さんの長男(25才。無職。名前不明)に軽く会釈をする。


(ボクがおかしいのかな?)


リビングの窓から庭へ出て、隣の伊藤さんの家に入る。次は田辺さん、その次が林さん、橋田さん、隅田さん、川田さん、橋田さん…………


(あれ?田の付く人多いなこの辺……)


そんな益体のない事を考えているとふと、とある家に辿り着いた。


(何でボクはいつもここに来ちゃうんだろ?)


ボクはそこの家の敷居の前に立ち止まる。周りには誰も居ない。何故だかこの家を通り道にする人はあまりいない。


ボクは正面の扉を見つめ、一度深呼吸をしてから扉に手を伸ばす。そして迷いながらも二階の部屋へと足を進める。


(何でいつもこんなにも緊張するだよ、ボク)


部屋の扉の前でもう一度深呼吸。次いで扉の取っ手に手をかけ開く。


「ん、ハーか?今日は随分と早く来たのだな」


と言って椅子を回してボクの方を見る。


「おや?制服のままかい、そのまま来たのかい?」


今まで読んでいたらしい分厚い本を閉じ、机の上に置く彼。


「ん、どうしたんだい?そんな入り口に突っ立てないで入りなよ、ハー」


いつもと変わらない無表情ながらも表情の豊かな顔。透き通った心地の良い声色。皮肉めいているのに何だか憎めない動作。


(あぁ、ボク。今、安らいでるんだ)


心からそう思えた。


「……ん?どうしたんだい、ハー。ふふふ、気づいているかい?今キミ、スゴく情けない顔をしているよ」


そう言われてボクは初めて自分が泣きそうな顔をしているのに気づいた。


「――!!」


ボクは手の甲で涙を拭う。


「ふふ。何が在ったかは予想はつくよ。取りあえず座りなよ。話は落ち着いてからだね」


とベットに目をやる。


「……うん」


ボクは素直に従い、ベットに座る。ふかふかして心地いい感触を少し楽しむ。


「そのまま寝ても構わないよ」


そこでボクを見て微笑んでいることに気づく。


「ふ、ふんだ」


ボクは急に恥ずかしくなり、クルリと反対を向く。


(多分スゴく顔が紅くなってると思うから……)


「ふふ。全くハーは面白いな」


イスの軋む音が聞こえた。それと人が歩く気配がした。足音は聞こえない。


(歩く気配は分かるのに何で足音がしないのかな?)


場違いな感想を思っているボクの隣でベットが窪む。


(隣に座った?何だろう?―――ッ!!)


するとスイッと頭を優しく引かれ、ボクは横に倒れる。ボクが感じたのは布団のふかふかした感触ではなく、少し固く、だけど柔らかいそして温もりのある…………


(………ひ、膝枕っ!!)


「少しは落ち着くかい?」


髪を撫でながら、囁く。


「……うぅ~(ダメだ、今絶対変な顔してるよぉ)」


ボクは相手の顔を見ることも、勿論反論すらできず、為すがままだった。一応顔は隠していたが耳まで真っ赤になってはあまり効果はないだろう。


暫くその体勢が続いた。


「落ち着いた?」


そう訊く彼に軽く頷くボク。


「で今日はどうしたんだい?学校で何かあったのかい?」


ボクの髪を軽く手ですきながら優しい声色で尋ねる。


「……うん」


「それで何があったの?」


「竹トンボが……」


「竹トンボ?」


事のあらましをおおまかに喋った。何だか喋ったら気分が紛れた気がした。


彼は黙って聴くのではなく、“それで”とか、“その時ハーはどう思った?”など合いの手を入れてくれる。話ベタなボクへの配慮なのだろう。


「……竹トンボか。ふふ、その友達はセンスが良いね」


そう言って無表情に微笑む。不覚にもそれに見蕩れる。


「高さ制限強行機、つまり竹トンボはこの密界における政府の強行策の序章さ。まだこの街ではこの程度。別の都市部では第二章、第三章が行使されているんだよ」


そう言って机の上にあるパソコンを見る。


「都市部の知人からの情報さ。ゴジラと言っていたな。正式名は高さ制限強行甲機。竹トンボとは違い、高さ制限の越えた建物を破壊し尽くす。その建物を跡形もなく。違反を取り締まり、尚且なおかつ過密化し過ぎた現状の打破の大義名分に乗っ取りね」


「……そんな」


中に人が居るかもしれないのに


「そう、正に屁理屈さ。でもね坂道を転がり始めた小石は坂道が終わるまで転がり続けなくてはいけないんだよ」


「……?」


この手の比喩はこの幼馴染みの癖だ。いやこれは多分揶揄だろうか。話がややこしくなるから思考を放棄しようとすると……。


「またハーは思考を放棄しようとしてるね?いけないよ、それは」


考えを先読みされた。


「キミは頭が良い方ではない」


スッパリ言ってくれるよこの幼馴染み。そりぁ、この幼馴染みや会長に比べりゃボクの学力なんて蟻のようなものだが……。


「かと言って悪いわけでもない。あえて言うなら平均。クラスの平均を知りたいならハーを見ればいい位だ」


貶されも褒められもされていない。


「だけど頭の回転だけ言えば早い。知る中でもあの『ナマケモノ』にすら勝ると思うね」


『ナマケモノ』―――よくこの幼馴染みの口から出る言葉。とある知人を指す言葉だがボクはその人の事を全く知らない。


だからその事を喜んでいいのか分からない。


「考えることは大切だよ」


そう言ってニコッと笑う。勿論無表情で、だが。


「つまり規制する側も止められないのさ。もし規制を止めてしまえば今までの反動が返ってくる。それを彼らは恐れている。そして規制を強める。悪循環だ。地震のようにいつか大きな波紋を呼ぶのは目に見えているのに防ぎようがない」


嘆息して見せる幼馴染み。


「…………もし」


「ん?」


「もしもこっちに……ご、ゴジラが来たら――」


意識しても声が震えるのを止められないボク。


――ポンポン。


「――?」


頭を二回軽く叩かれた。


「それは大丈夫さ。ここはまだ他に比べれば過密化は進んでいない。それに…………」


一瞬暗い顔をする幼馴染み。


「彼女がいる限りゴジラが意味をなす事は無い、からね」


「……?」


(たまによく分からないことを言う。多分話をはぐらかそうとしているんだ)


「まぁ。だから当分は来ないさ」


そう言ってまたポンポンと二回頭を叩く。


「おや、お邪魔でしたか?」


そこで部屋の入口から声がかけられた。


「―――!!」


ボクは驚いて体を起こし、そっちを見ると……。


「やぁ、ハー君に君も、はろはろ」


そこにはスーツ姿の男が立っていた。一般的会社員の姿をした男。市街地に出れば判別がつかなくなりそうなほどに平凡で平均的な容姿。しかし目元をサングラスで隠し、不敵な笑みを張りつけた表情をしている男。


「今日、仕事ありましたっけ?」


彼が男に尋ねる。


「いや、オフだよ。僕は何時、如何なる時でもこの格好なのさ」


男がニヤリと笑う。


「そうですか……」


「…………」


「…………」


男がボクと彼を交互に見てニヤニヤする。ボクは何だか恥ずかしくなって顔を伏せる。


「他に何か?」


「いや、別に。ふむ、君はハー君の事になると直ぐムキになる。それはあまり良くない傾向だ。若さ故に、だけでは済まないときがいつか来るぞ」


「大きなお世話です」


「そうかい、そうかい。それではな」


そう言って男は去っていった。


「……いいの?」


ボクは我慢できずに彼に喋りかけた。


「あぁ。別にいいさ。ハーが気にすることじゃない」


そう言った彼の表情には影が落ちていた。







その後、世間話をした。他愛もない話。他意ない話。価値のない話。


それでもとても充実した、安穏な、幸福の時。










「ハーちゃん。鍵、借りられた?」


昼の休み時間に恵がそう言ってきた。


「あぁ。図書館の資料庫の?」


それを聞いてこの前の話を思い出す。パラレルミラーだっけ?


「そうそう。で、どう?借りれそうなの?」


ボクは無言で鍵を取り出す。


「おぉ。さっすがハーちゃん!」


と鍵に飛びつこうとする恵をひょいっと避ける。


「ハーちゃんのいけずぅ」


「いや、なんとなく。てかボクに頼らなくても簡単に借りれたと思うよ?」


「ん?どゆこと?」


「別に借りる理由とか訊かれなかったし、そんな厳重なわけじゃないよ。自分で借りればよかったんじゃない、って話」


「……えへ。考えつきませんでした」


と舌を出す恵。


「じゃあ、早速、放課後行ってみようよ。ハーちゃん」


「え?!ボクも行くの?」


それは本気だったんだ。


「勿論、借りたのハーちゃんだし。一緒に行こうよぉ~楽しいよぉ~」


駄々をこね出す恵。


「はぁ~。まぁ暇だから良いけど……」


「イッェ~イ!」


両手を挙げて全身で喜ぶ恵。


(何だか、嫌な予感がするんだけどなぁ―――)








 ―――放課後。


「ハーちゃん、今日、図書委員の仕事は?」


「今日は無し」


「そっかぁ」


恵と喋りながら図書室へ行く途中の廊下で荻萩先輩を見かける。


(関わらずに行こう)


とボクが思ったのを見越してか先輩はニヤリと笑いボクを発見した。


「よぉ、はの字」


手を軽く挙げて、こちらへ向かって来る。


「どうも」


ボクは軽く会釈する。


「こっちの方面に来ちょるってことは、図書室かんの?」


「はぁ。少し調べ事を」


――パラレルミラーについて。心の中で付け加える。


「そうかぁ……」


先輩は図書室の方を見て、いやそれより遠くの何処かの方を見ていた。


「そいじゃ、邪魔しちゃアカンな。ほいな、またな」


そう言ってツカツカと去っていった。ボクは何だか肩透かしをくらったような感じがした。


(なんか先輩いつもと違う様な……)


そんなことを思いながらもボクは図書室へ足を向ける。





「これがパラレルミラー?」


ボクたちは何の障害も問題もなく、資料室に入る事が出来た。そこには恵の言った通り、人体模型の隣に姿見があった。額縁に唐草の模様の彫られた古めかしい姿見だった。


「ねぇ、めぐ――」


いつもと変わらない、人懐っこい顔、誰もが元気になれる笑顔で…………ボクを――――――羽交い締めにしていた。


「……え………め、恵?」


「なぁに、ハーちゃん」


いつもと変わらない朗らかな口調。なのに今、この場においてはひどく場違いで、それが違和感で、竹トンボを見たときの感覚にひどく似ている。


「め、恵、悪ふざけはやめてよ。それよりこれが恵の言ってたやつでしょ?」


「うん、そうだね」


言葉とは裏腹に恵はボクを拘束する力を緩めることはない。


「い、いい加減にしないとボクも怒るよ」


「うん、そうだね」


返ってきたのは乾いた答え。いつもと変わらない朗らかな口調の答え。だからこそ…………違和感。


「お困りかなぁ、ハーちゃん?」


すると部屋の奥、明かりの少ない部屋の死角から声をかけられた。


「そんな時はこの完全無欠の生徒会長、文ちゃんにお任せだね」


小さな体か暗い闇から浮かび上がる。


「……か、会長さん?」


「のんのん。文ちゃん会長ぅ~。はい、りぴぃと、あふたみぃ」


場に不釣り合いな程に陽気な声が聞こえる。いや、ボクが場違いで、不釣り合いなのか?この気持ちが、違和感が………。


「まぁ。別にぃ構わないよ、ハーちゃん」


会長の笑顔が異様に歪に見えた。


「ハーちゃん、ちょっと世間話に付き合ってね」


唐突に、何の脈絡も、伏線も無く会長が話始める。


「ハーちゃんは世界がつまらないって思ったことない?私はね、あるよ。『私の世界』はね、とってもつまらなくて、下らない世界だった。科学の発展で空間の操作が可能になって、人は一畳の空間があれば世界を構成できる程に発展してた」


会長が淡々とした口調で喋る。


「だから、隣地との間が実際、30cmに満たなくても私たちには1kmにでも10kmにも出来た。そんな技術が発展した世界が『私の居た世界』そんな世界を揶揄やゆして『疎界そかい』って呼んでた人もいた。」


疎界と密界


「だから私はそんなつまらない世界を捨てて、新しい世界を創る事にしたの。幸い、私にはその技術も資金も時間もあったから。私は私の為に私だけの世界を創る事にした。先ずは世界を設定して、システムを構成して、プログラムを書き込んだ。そして世界を構築した後は人を配置して、一人一人、丁寧に過去を考えて、未来を設定して、でも途中でめんどくさくなっちゃたから私の世界から人をそのまま、こぴぃ、あんど、ぺぇすと、しちゃったり……」


ボクは唖然としていた。いきなりだから?壮大だから?漠然だから?―――――いや、違う。ボクは知っているんだ。会長の話が全て事実で、真実で、紛れもない現実であると言うことを。それに何の根拠も、理論も、ない。それでも確信をもって、揺るぎない真実だと思っているボクに自分で唖然としていた。


「でもね。その私の創った世界にバクが見つかったの。正確に言うなら異分子。私が設定した、ぺぇすとした人間以外の人間が見つかったの。これは大いに問題だよね、ハーちゃん。だから私はその異分子を排除、でりぃとすることにしたの。当然だよね。折角、創った世界に混ざった異分子だもの排除して当然。その存在は簡単に見つかった。まぁ、逃げも隠れもせず、普通に、のうのうと暮らしてたんだよね。何食わぬ顔でね。だからでりぃとするのも簡単だと思ったよ。うん、普通はそう思うよね。でもそれは間違ってた。その異分子はいくら排除しても、でりぃとしても、何一つ変わらない。そこで平然と、平穏に、平凡に私の創った世界で暮らしてる。どう思う、ハーちゃん?私はどうしたらいい?何をしたらいい?何をすれば異分子を消せるかな?」


そうボクに尋ねる会長が怖い。理解できなくて怖いわけでも、勿論物理的にでもない。理解したうえで怖いのだ。物理的脅威がないうえで怖いのだ。






――――――なにせ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――異分子とは―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――つまりは――――――






「―――ハー!!」


思考の途中で声が聞こえた。懐かしくて、心地よくて、そして大好きな、あの人の声。偏屈家でも無表情でも意地悪い性格でも、それでも誰よりもボクの事を思ってくれて、優しく想ってくれる、ボクの大切な人。


「ハーを放せ!」


ボクと恵の間に無理矢理に割り入ってボクを守るように会長と対峙する彼。ボクの幼馴染みの彼。


「あれれぇ?ここは部外者立ち入り禁止、ですよぉ?」


乱入者にも驚きもせずにいつもの口調で業務的に喋る会長。


「もう止めておけ。何をしても無理だ」


「無理じゃないですよ。やっぱり人任せではいけなかったのですね。だから本当は確実性が確かめられるまで行かないつもりを止めてまで私が来たわけですし、後は異分子をでりぃとしちゃえばそれで何もかも解決です」


「………恵?」


ボクを放した恵が会長の元まで歩いていく。


「お疲れ様、恵ちゃん」


会長の前まで行くと膝をつき、こうべを垂れる。それはまるで女王に謁見する騎士のように、そして会長が


―――ポンポン。


と頭を二回軽く叩く。


「―――えっ?」


すると恵の体が光の粒子に分解されていく。それは蛍のように綺麗で、そして儚い光。ボクが事態を把握する前にその光はその場から消えていた。……そして恵もその場から消えていた。


「頭を二回叩く。それがこの世界に住む人間のでりぃとボタン。それは私が創った人間も、ぺぇすとした人間、皆に共通すること。強制的な排除方法だよ」


そう言う会長はいつもと変わらない少女の笑顔を浮かべていた。


(え、それって……何?いや、でもボクいつも………え?)


「ハーは聞かなくていい。関係ない戯れ言だ」


彼は会長を睨みながらそううそぶく。


でもボクは知っている。いや、理解してた。ボクの感情や知識、経験を無視して強制的な理解。納得できない理解。


「関係なくないだろ。張本人だろよ」


その声はボクたちの後ろ、つまりはボクたちが入ってきた入口からした。


「荻萩ちゃん、ダメでしょ。部外者通しちゃ」


「無茶言うな、文」


そこには先輩が仁王立ちで立っていた。まるで入口を塞ぐように。


「………え、せ、先輩?」


「よお。はの字、いや、今は別に演じる必要もねぇか」


いつもの似非方言ではなく、素の口調で喋る先輩。


「全く、面倒だな。アンタもアンタだぜ。こいつに逆らうなんて無駄をするなんてアンタらしくもねえな」


「無駄かどうかは自分で決めるさ」


彼は振り返らずに先輩に答える。


「そうかい。ま、アンタらしいと言えばらしいがな」


そう言って先輩が疲れたように笑う。


「………だが文に反するなら―――」


「荻萩ちゃぁん、話長いよぉ」


「おいおい。今、俺カッコいいこと言おうとしたんだぜ?」


会長が先輩の話を途中で遮る。


「別に私はこの子を説得するつもりなんて無いよ。私に反するなら――――でりぃとしちゃえばいいんだもん」


笑顔が………怖い。ボクは初めて会長に恐怖した。


「まぁ、何だ、そう言うわけだが。どうするよ、アンタは」


「…………」


頭を掻きながら彼に問う先輩。ボクからでは彼の表情が見えないので今、彼がどういう表情をしているかは分からなかった。


「………らないさ」


「あぁん?」


「――結果は変わらないさ」


そう言って彼はボクを鏡の方へ押しやった。


「――――えっ?!」


「ハーは消させない。逃げるんだ、ハー」


「え、どう言うこと?」


わけが分からず聞き返すボク。


「鏡だ。鏡の中に逃げるんだ」


―――え?


「なっ!!アンタ正気か?」


「その鏡はアイツの作った境界線だ。密界と疎界とを行き来する道筋。ハーなら渡れる筈だ」


「あぁ、もう!!本当、面倒だな」


先輩が入口から中へ足を踏み出した時


「――動くなっ!」


「あ?」


針で縫われたかの如く、先輩の動きが途中で止まる。


「なっ、て、テメェ。アンチウイルスの機能を使うか、普通」


「……くっ」


彼も片膝をつく。


「駄目だなぁ。荻萩ちゃんは私が送った人間だからアンチウイルスの機能を使ったら反動が来るって知ってるでしょ?」


「く。そ、それでも動き位は封じれる」


苦しそうに呻く彼に会長が呆れたように、やれやれと首を振る。


「だ、大丈夫」


ボクは駆け寄る。


「…大、丈夫だ。それよりも早……くっ」


額に脂汗をかき、痩せ我慢なのは火を見るより明らかだった。


「―――ハーちゃん」


ボクは恐る恐る見上げると――


「ハーちゃんはとてもいい子だよね、うん」


「逃げるんだ、ハー」


ボクたちの直ぐ近くに会長が立っていた。


「いい子なハーちゃんには選ばせてあげるよ。こっちの世界に残るか、あっちに行くか」


と言って鏡を指さす。


「おいおい。また、何を言い出すんだ、文?」


「うぅん?気まぐれ、かな?」


「あぁ、そうかい」


呆れたように呟く先輩。


「ハー、行くんだ」


「な、何でそんなこと言うの。嫌だよぉ、い、一緒に行こうよぉ。そうだよ、一緒なら……」


「それは無理だぜ。はの字よう。そこを通れるのは文がぺぇすとした人間だけだ。もし創られた人間が通れば………光になる。いや、正確に言えば数字の羅列に戻るだが、まぁそれは些細なことだな」


「―――え、え?」


「はの字も気づいてんだろ?ソイツは文が創られた人間だ。文がウイルスを削除するために創ったアンチウイルス機能の付いた、な。だからコイツははの字の傍に居たのさ。異分子たるはの字の傍で監視をしてたのさ。まぁ、文に反するとは思わなかったがな。文が精巧に創り過ぎたのか、それともはの字の影響か知れねぇがな………」


「ハー、聞かなくていい。キミには関係ない。いや、関係はあるか。だが知らなくていい。自分に関係があることを全て知る必要も、義務も何もない。だから―――」


その目には確固たる意志が宿る。


「キミにはこれからも、幸せに生きてほしい。小さなことで怒ったり、笑ったり、泣いたり、キミにはそんな平凡で幸せな生活を送ってほしい」


「そ、そんな、こと……ボク。ボク、一人じゃ何もできないよ」


「―――大丈夫だ、心配するな。キミならできる。なんたって………自慢の幼なじみだからな」


そう言ってボクの唇に………………………………………優しい感触がした。


「せめてもの餞別、だ」


そう言う彼の顔が赤く見えたのは気のせいではないと思う。


「荻萩ちゃんも文ちゃんにああいうことしたい?」


「ば、バカかっ。いきなり何を言い出してんだよ、お前は」


「―――ハー、頑張れよ」


「………うん」


そう言ってボクは立ち上がる。そして鏡の前に立ち、真っ直ぐに鏡を見ると、そこには――――――――男子の制服を着たボクが居た。


「うんうん。頑張ってねぇ、ハーちゃん。応援してるよ」


「ま、適当に頑張んな、はの字」


会長と先輩が声をかけてくれたがボクは目の前のもう一人のボクに釘付けにされていた。だから鏡の異変に一切気づけなかった。鏡の面が膨らみ、銀の膜がボクを包み込んでいった。











「無事に行ったのか?」


「うぅん、多分かな?正直、私にも分かんない。何せ、ハーちゃん、異分子だし……」


「……そうか」


「おいおい、お二人さんよぉ。談笑するのは先ず俺の動きを解いてからにしてくれよな」


「あぁ。すまないな、荻萩」


そう言って彼が機能をOFFにする。


「はぁ。全くよぉ、こんな面倒なことしなくても良かったんじゃないのか、お二人さん。アンタらなら別の簡単な方法をいくつも思いつくだろ?」


ぐるぐると肩を回しながら、コキコキと首を鳴らす荻萩ちゃん。


「ん~?まぁ、いいんじゃないかなぁ。こっちの方が退屈しのぎになるし」


「はぁ。最終的にそこに行きつくわけか」


「そりゃそうですよ、荻萩。それが目的でこの三人が集まったのですからね」


「そりゃな、こんな仮想空間作るなんて馬鹿げたことやるには俺の資産と文の技術、そしてアンタの知識がねぇと成り立たねえよな」


「まぁまぁ。難しい話は後でぇ。やっと完璧な世界の構成がこんぷりぃとしたんだし三人で祝おうよぉ」


「まぁそれもそうですね。ではお疲れ様でした、文」



―――ポンポン。


 二回頭を叩く。


「何よぉ、子供扱いはしない、でよ……?」


――――あれ?あれれ――――――いや、違うよ?――あれは私たち三人には、制作者には付いてない、はず?―――――――いや―――、いや、――うん。そうだよ。―――冗……談だよ――ね。―――あれれ、おかしいな――――――オ――カ、――シイ―――、ナ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――











―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―


エンドロールが流れていた。黒地に白字のかんそなエンドロール。


「総じてクソゲー、辛うじて良作って所か?」


俺は画面を見ながら一人の呟く。


「ったくよ。こんなゲーム貸して何を言いたいんだよ、アイツは。ディスク叩き割って返せば納得か、あぁ」


この場に居ない人間に対して愚痴をこぼす、俺。かなり虚しいな。


「まぁいいか。そろそろ学校に行く時間だし、愚痴は本人の前で言ってやるとするか」


俺は体を伸ばして今までプレイしてたゲーム機のリセットボタンに指を伸ばし


―――ポチッポチッ。



二回押した。


「ふんじゃま。疎界でも密界でもねぇがさくさくと日常ってやつを楽しんできますかね」


俺は今までプレイしていたゲームを鞄に入れ、学校へ向かった。


勿論、完全無欠の生徒会長も、甚平着たヘンテコな副会長も、資料室の奥に鏡も在りはしない普通の学校だがな。


あれは所謂、フィクションさ。実在するものは端から端まで、余すとこなす作り物、創り物さ。


とりあえず俺の今の最優先事項はこのゲームを投げ返すのか叩き割って返すかを考える事ぐらいだな。






第二章    平行世界





「それで、どうでした?」


「あぁ、クソゲー以外の何者でもないな、あれ」


「まぁ、てつはそう言うだろうと思ってたよ」


「大体、何なんだあれは?伏線も文脈も無視か。しかも後半、どれだけテキトウなんだよ」


「あぁ、ありゃシナリオライターが憑かれたのさ」


「字が違うぞ、ゆう


「おりょ?そうかい、違わないさ。いや、当たらすとも遠からず、さ」


「はぁ。お前はとうとう頭までイカれちまったのか?」


「失礼だな、哲。だが、僕らの会話が小説ならこういった曖昧な発言は特殊な語尾くらい重宝されるものさ」


「前提がおかしいんだよ、お前は。大体会話が小説でも情景描写が入らねえんじゃ分かりにくいだろ」


「いや、だからさ。会話に情景描写を混ぜるのさ」


「全く訳が分からねぇよ」と哲は逆立ちをしながら言った」


「その描写は確実におかしいだろがッ!!」


「何だよ、折角してあげたんじゃないか。文句言うなら哲、やりなよ」と悠は手に持っていた包丁を自らの頸動脈を……」とまぁどうでもいいんだけどね」


「被せんなぁッ!!」


「うるさいな。ツッコミは叫べばいいと思ってるのか、哲。それじゃどこぞの中年の眼鏡芸人的発想だな。それはいただけない」


「テメェがさせてんだよ。しかし実際問題描写が無いのは無理ねぇか?人物の紹介とかも不便だろ?」


「そうかな。あ、ちなみに僕は須磨すま悠。成績優秀、容姿端麗、眉目秀麗、完全無欠の女の子だよ」


「違ぇだろがッ!テメェの名前は東屋あずまや悠。成績は中の下、容姿は平均、平々凡々な男だろがよッ」


「はいはい。訂正、乙」


「大体、名字を源氏物語の巻名に掛けて変えたことが誰に分かるんだよ!?」


「そんなこと言うもんじゃないぞ、関屋哲くん。キミも巻名が名字の者としてこれぐらいたしなみ程度に………」


「何の役にも立ちそうにないたしなみだな」


「そんなものさ」


「ゴホンっ!関屋くん、東屋くん。今は授業中ですよ?」


「おい、悠。こう言う場合はどうなんだよ。今、先生が俺らに注意したが、これじゃ誰がしたか分からねぇだろ。第三者の介入の時はやっぱり不便だろよ」


「ふむ、確かに、だな。じゃあ、話す前に名前を付けようじゃないか」


「どうやって?」


「(悠)こうやってさ」


「あぁ…………意味分からんわ」


「二人とも聞いてますかッ!」


「(悠)先生。発言前には名前を……」


「何の話ですかッ!!」


「お「(哲)」いおい、それは無理があるんじゃ、って今、何か途中に入れなかったか?」


「(悠)うんにゃ、別に何も」


「だから二人とも「(……)」話を………?」


「(悠)ねぇ、哲。先生の名前って何?」


「「(哲)」はぁ?そりゃ……………(先)、でよくねぇ?」


「だ、ダメで「(先)」すよ。……って既に入れられてしまってますよぉ?!先生にも桐壺きりつぼって言う名前が……」


「(悠)何ぃ!1帖目だとっ!この僕ですら12帖目だぞ」


「「(哲)」だから源氏ネタはもういいわッ!!」


「だか「(死)」ら私の話を………って明らかに酷くなってませんか?」


「(悠)気のせいデスよ」


「「(怨)」気のせいでは………やっぱりなかったッ?!」


「せんせぇ、早く授業進めて下さぁい」


「あ、はい。とにかく二人とも先生は教員になったら一度は使ってみたかった言葉があるんですが……」


「(悠)この“バカチンがぁ”、とかですか?」


「いいえ、二人とも―――――――――――――――――――廊下に立ってなさい」




………………………………………………………………………………………………………………………………………………




「「……はい」」






「(悠)どちらが悪いとかじゃないと思うんだ、喧嘩両成敗みたいな。だからこの場合は両方が悪いと言うことで手を打とうじゃないか」


「「(哲)」何をだよ。てかいつまでも続けんだよ、名前付けんの。俺の時だけ長いんだよ何か」


「(悠)そりゃ、自分で付けないからさ」


「「(哲)」いや、意味わかんねぇし。必要ねぇだろ、こんなもん」


「(悠)食わず嫌いかい、哲さん。哲さんともあろう人が食わず嫌い!!まぁ、聞きましたか、奥さん。これだから最近の若者は意気がるだけで何もしやしないんだから」


「「(哲)」何でそこまで俺が言われなきゃ………分ぁったよ、やればいいんだろ?」


「(悠)流石、哲さん。しびれるぅ」


「………………(哲)こ、これで良いのかよ」


「まぁ、ぶっちゃけ必要無いけどねぇ」


「何でやらしたんだよッ!!」


「おいおい、逆ギレは良くないな、哲」


「十割正当だ」


「いや、でもな。マジな話、会話だけの小説ありだと思うわけよ、僕。一昔には、主人公の喋りとモノローグが一緒のラノベが在ったし、さ」


「なんだそりゃ。会話がそれで成り立つのかよ?」


「まぁ、成り立ってたと思うし。アニメ化の際にも良いように働いてたよ。だから僕らの会話もいずれはアニメ化だよね」


「話が飛躍しすぎだ。それにさっきも言ったが前提が大間違いだぞ」


「いやいや、人生何があるか分からないじゃないか。哲は僕らがリアルの住人と思っているかも知れないけど、実は誰かの夢の中の登場人物かもよ?」


「はぁ、なんだそりゃ?この前のゲームの話か?」


「いや、胡蝶の夢だよ。知らないの?」


「古文だったか?たしか孫子?」


「いや、荘子だね」


「どっちも一緒だろ」


「違うよ。孫子は戦術、荘子は儒教。これぐらい一般教養だよ」


「嘘つけ。どうせ、エロゲの影響だろが」


「最近のは設定にも凝ってるからねぇ。とは言え、現実問題、今後の会話にはこれらが関係することは皆無だね」


「じゃあ、何で話したんだよ」


「世間話じゃないか。暇だろ、哲。暇は人を駄目にする。勤労、勤勉こそが人の性だよ」


「……それもエロゲか?」


「五割正解で五割当たり」


「で十割真実、ってか」


「だね」


「はぁ。お前はいつも楽しそうだな、悠」


「ん?何、いきなりシリアス展開?いいよ、ドンと来な。お兄さん、そういうのぶち壊すの大好きさ」


「いや、壊すなよ。まぁいいわ、一応話すわ。最近何だか世間が」それよりさぁ」


「序盤で割り込むのかよッ!!」


「じゃあ先に僕の話を聞いてよ。そしたら哲の下らなく、矮小かつ卑屈な上に醜悪な相談を聞くよ」


「よし。聞かなくていいから、一発殴らせろ」


「よし。聞いていいから、殴るな」


「テメェが先ず人の話を聞きやがれッ!」


「よぉし。落ちつくんだ、哲。落ち着く言葉を教えてあげよう。とりあえずピザって10回言ってみよう」


「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ」


「ピザって字が違う字に見えないかい?これがゲシュタルト崩壊だ」


「だからなんだッ!!」


「おかしいな?更に怒りが増えた……」


「おかしいのはテメェの頭ん中だ」


「何を言うか、僕の頭は正常にお花畑が栽培中だ」


「自覚がある!!」


「そんなことよりおうどん、食べたい」


「もう、つっこむのすら嫌になってきた」


「なら休んでるといいよ。その間僕はちょっくら地下探索して秘宝、桶狭間の桶を取ってくるから」


「つっこまんぞ」


「いや、それには先ず、入り口の鍵として関ヶ原の関から壇之浦の雛壇に納められた………」


「つっ…こまん……ぞ」


「三方ヶ原の原草を渡り…………」


「つ………ぞ」


「賤ヶ岳を越えて……」


「なんでさっきから戦国の地名ばかりなんだよッ!!………はっ?!」


「ふふふ。ついにつっこんだね、哲。そして壇之浦は源平だから戦国ではないのだよ!」


「うっせぇ!!」…と手をあげる哲。そんな彼に対して周りは冷たい視線を向ける」


「だから勝手な描写を入れるんじゃねぇ!!」


「ふと思ったことを発言するよ。哲はエクスクラメーションマーク、つまり感嘆符を多用しすぎだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「お前にそのまま返すわ、その言葉ッ!!」


「アハハハっ」


「ハッ」


「―――楽しそうですね、二人とも」


「「……はっ?!」」


「今は何をしてるのですか、関屋くん」


「………主に反省の意味を込めて、廊下に立っています」


「はい。では今現在の貴方たちの言動はそれには見合っていますか、東屋くん」


「………概ね」


「………そうですか。先生は本当に二人には驚きます。まさか人生で使うでないと思っていた言葉のベスト1だけでなくベスト2まで使うとは……」


「今度こそ、“バカチン”ですか?」


「いいえ――――――バケツを持って立ってなさい」


「「――はい」」











――――て言うシナリオはどうだろうか、哲」


「却下だ」


「脚下だ?」


「ちげぇよ。てか、一人語りが長いわッ!」


「一人、騙り?」


「何でだよッ!!聞き間違いの王か?!キングですか?!」


「あ、そのつっこみは天パな銀髪甘党侍っぽいね」


「うっせぇ!!」


「ふむ。いい出だしだと思ったんだけどなぁ。とりあえず試しに一回やろ?」


「断る」


「琴、割る?」


「拒否する」


「今日、秘する?」


「………よし。テメェとはじっくり語り合う必要があるな、主に体で」


「いや、哲。僕にそっちの、ウホッ的趣味はない。掘るならそこら辺の犬としてくれ」


「違う意味で受けとるんじゃねぇ!!」


「哲、だから言ってるだろ。僕らの会話は小説なのだから。曖昧に表現すると分かりにくいんだよ」


「おい、待て。お前確か、曖昧な表現が重宝するとか言ってなかったか?」


「うん、言ったよ。それがなにか?」


「開き直んなッ!」


「君は何だい?そんなに全力でつっこんで…………やはり、突っ込みたいのか?!」


「話を掘り返すなッ!」


「掘るッ?!」


「そこだけ抜粋するな!」


「うむむ。哲、僕は重大な事に気づいてしまったよ」


「どうせ、ろくでもないことだろうが………何だよ」


「僕らの会話………小説じゃないッ!?」









「当たり前だぁぁああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」










「アハハハっ」


「ハっ」


「二人ともいい度胸してますね」


「「――うげッ」」


「二人とも、今は何をしている時間ですか?」


「(ヒソヒソ)おい、悠。この展開って」


「(ヒソヒソ)まさに嘘から出た真、だね」


「聞いてますか、関屋くん、東屋くん?大体ですね、お二人は成績だって悪いわけではなく、先生たちの受けだって結構良くって………………」


「(ヒソヒソ)選択肢を間違えるな、哲。間違えれば即バットエンドだぞ」


「(ヒソヒソ)てか、俺が処理するのかよ」


「(ヒソヒソ)そりゃ、君の声が大きいから先生が来たんだから、君が処理するに決まってるじゃないか」


「(ヒソヒソ)それはお前が……」


「(ヒソヒソ)いいから、早く処理してきてよ、哲」


「(ヒソヒソ)くそっ。ったくぅ、何で損な役回りなんだよ」


「二人とも聞いてますか?」


「……先生」


「は、はいぃ!」


「先生には大変お世話になって、感謝してるんですよ、俺たち」


「は、はぁ………」


「そんな俺らが先生からの指示をほっぽって遊んでるわけないじゃないですか」


「おぉ、口先八丁舌先三寸だ」


「おい、余計な茶々入れんな」


「そうですか、分かりました。お二人がそこまで考えていたなんて思いもしませんで、まだまだ先生も未熟ですね」


「お、籠絡目前だな」


「では先生に貴方たちがどれだけ反省したかを教えてもらえますか?今後の参考にさせてもらえますか?」


「……え、あ、えっと」


「さぁさぁ、関屋くん?」


「いきなり、ピンチだ」


「えぇと、…………く――」


「はい?」


「く、詳しくはWebで……」


「(ヒソヒソ)なんでやねん」


「二人とも…………」


「バケツエンドとは…………」


「哲のせいだからね。3:1だからね」


「「さぁ、来い」」


「意味が分かりませんが……」










「…………後で職員室に来てください」









「「ここで外したぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」」








「それで考えたんだけど二段にするのはどうだろう?」


「何の話だよ」


「小説さ」


「まだ続いてるのかよ」


「うん、さっき先生に怒られている時に思いついたんだ」


「お前なぁ」


「で二段だよ、二段」


「でどういうことだよ、それ」


「ノベルズにさ、二段で文章書かれているのあるじゃん。それから発想を得て、二段に分けて書くんだよ」


「だからお前の言っている意味が分かんねぇよ」


「上では僕ら、下では先生がお説教してる。どう斬新じゃない?」


「斬新ちゃ斬新。あと二世紀程後に評価されるんじゃないか。だが問題があるだろ」


「なに?」


「書きにくいだろ、それ」


「それは編集者さんと話し合ってすれば楽だよ?」


「いや、その考えだと一つ書くのに二つのものを考えなきゃいけないんじゃないのか。それはかなり面倒くさいと俺は思うがな」


「まぁそうだね。うぅん、難しいな」


「だからなんでそんなにも小説に拘ってるんだお前は?」


「ん?だって…………特に意味は無いよ」


「いや、その言い方だと意味深にしか聞こえないぞ」


「疑り深いな、哲は。何かいいことでもあっ……」


「ちょい待て、その発言はヤバイ」


「おっ。分かるんだ、これ」


「お前が前に俺に貸したもんだろが」


「あぁそうだったね」


「まぁいいわ。これからどうすんだよ。いつまでも教室にたむろってちゃダメだろ」


「それもそうだね。そろそろ部活も終る時間だしね」


「だれか待ち合わせでもしてるのかよ」


「ふふん。ヤキモチかい?」


「うっせぇ。男にヤキモチなんか焼くか」


「ツンデレかい、哲。哲のデレはなんだか面白そうだね。是非、僕にデレてくれて構わないよ」


「黙れ、このゲーム脳がッ!」と言いながらも頬を染める哲であった」


「だから勝手な描写すんなッ」


「昇降口まで付き合うよ」


「ああ」










「おや、今帰りなんですか、関屋君?」


「あぁはい。教室で悠と喋ってましたから。先生もお疲れ様」


「私が言うのも何ですけど、よく怒られてなお、喋ってましたね」


「まぁ怒られ慣れてるからですかね」


「あまり慣れるのはどうかと思いますが。東屋君は一緒じゃないのですか?」


「悠ならまだ校舎にいますよ」


「一緒に帰らないのですか?」


「あぁ。よく言われますけど別に一緒には帰ったことないですよ、アイツとは」


「そうなんですか。家が反対方向とか?」


「さぁ?そもそもアイツの家なんて俺、知りませんし」


「へ?」


「それに学校の外じゃアイツと会うこともないし、会おうとも思わねぇし。多分、悠もそう思ってると思うけどな」


「そうなんですか。先生は二人とも仲が良さそうなので休日なんか遊んでると思ってました」


「それもよく言われます。実際は学校以外じゃ会ったこと無いんですけどね。学校内のみの関係ですよ。俺とアイツは」


「へぇそういうものですか」


「そんなもんですよ。そいじゃ、さいなら先生」


「はい、さようならです」










「…………不思議な関係ですね」


「そうですか?」


「ひゃわっ?!あ、東屋君?」


「はい、東屋悠です」


「いつから後ろに?」


「今さっきですよ、先生」


「そうですか。今さっきまで関屋君が……」


「はい、知っています。先生は不思議ですか僕たちの関係?」


「えっ?」


「まぁ不思議、ですよね、普通」


「あ、あの東屋君?」


「まぁそれはそれで良いんだけどなぁ。それじゃ先生また明日」


「あ、はい。さよならです」


「ふふふ~ん♪」












「たっだいまぁ~」


「あら、おかえり。ご飯にする?お風呂にする?それとも、あ・た・し?」


「じゃあ、ご飯にするよ。母さん」


「まぁまぁ。母さんの渾身のギャグは華麗にスルー?」


「じゃあご飯の後に母さんで」


「あらあら。じゃ今晩は精のつくものにしましょうかしら」


「じゃあ着替えてくるね」


「はいはい、早くきてね『ハーちゃん』」


「はぁい…………あ、そういえば」


「なにかしら?」


「なんで僕って『ハーちゃん』なんだっけ?」


「うふふ。それはね。あなたが初めて喋った言葉が『母親』の『は』なのよ。だからいつも『はー、はー』って言ってたからあなたはハーちゃんなのよ」


「……そっかぁ」


「それがどうかしたの?」


「ううん。今日も世界は平和でした、と区切って終わり」

どうでしょう?


これ、実は二年前に書いたやつなんですよね。


埋もれてたのを引っ張り出しました。もはや黒歴史ですね。


一応、ご意見、ご感想お待ちしています。


第二弾は東方系二次創作です。


それではまた、日曜に更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんかよく分からないけどすごい話でした。 俺の脳だと何百回も何千回も読まないと分からない気がする。 とりあえずこういう作品だいっすきだああああああああああああああああ。 ごほん、失礼しました…
[一言] 何回読んでも難解な話ですねえ。 想像と現実の区別がつきにくい。今進んでる話が現実なのかと思ったら、想像だったりして。 ところでヤマもオチもなし?
[一言] ………………??? これを理解するのに数年かかる気がする…… うーん? ハーちゃんはリアルに言ったのか? それともハーちゃんはゲームのキャラだったのか? もしくはハーちゃんとは存在し…
2011/05/13 23:29 退会済み
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