表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春ノ桜  作者: まなつか
1/3

送り出す、彼らの青春、見届けて。



 私は教員をやってまだ4年だ。私なりに一生懸命がんばってやってきた。

 そして今日は初めて受け持った三年生のクラスの卒業式である。

「みんな、それじゃあ廊下に並んで」

 みんな静かに廊下に並んだ。緊張した空気の廊下。私もいっそう気を引き締めて体育館へと向かった。


 卒業式は好きではない。

 私から言わせればこんなお堅い式など彼らは全く望んでいないはずだ。

 もっと笑って、泣いて、喜び、そして別れに悲しむ。そんな卒業式があればいいなぁと私はいつも思うのだ。いつか校長になれたならやってみてもいいかもしれない。

 私は自分の受け持ったクラスの生徒の名前を呼んでいった。皆、元気よく返事をして卒業証書を受け取っていった。

 私の仕事はもうこれで終わりだ。

 なんとかかんたらとかいう理事長だのなんだののお偉いさんの話をぼーっと聞きつつ私は考えていた。もう少しこのクラスにいいことをしてあげれたんじゃないだろうか、と。



 卒業式が終わって私は学校の校舎の周りを散策していた。

「あれ……?」

 誰かの話し声が聞こえる。もうみんなはとっくにグラウンドの方へ行っているはずだが。

 私はついつい聞き耳を立ててしまった。

「せ、先輩。私、ずっと先輩のことが好きでした!」

 あらあら。告白の現場でしたか。

 私は悪いとは思いつつもそーっと木の陰に隠れて見守ることにした。

 なんと、告白されているのはうちのクラスの角田君じゃないか。いつもあまり目立たない子だったけど、親切だった。ちゃんと見てる人は見てるのね。

 風が吹いて桜の花びらが舞い散った。今年は結構早く咲いたなぁ。

「あ、のさ……。葉山さん」

 おっ、いけいけ。彼は恥ずかしそうに頭をかきながら舞い散る桜をみていた。

「あ……」

「えっ?」

 一瞬目があった。私はしまったと後悔した。しかし彼はすぐに目を逸らした。そして――

「僕も……好きなんだよ」

「ほ、本当ですか?」

 ありがちでべたべたな展開だったけど私は結構好きだった。青春って感じがたまらない。

「あ、あの……先輩の第二ボタンを下さい」

「あー。それは……えっと」

 角田君が私にちらちらと視線を寄越してくる。うちの県では受験の前に卒業式をやることになっている。そのためボタンをあげてしまうと受験の時に減点されてしまうのだ。私は何度もあげないようにと事前に注意を出していた。

 しかし、私は落とし物箱の中にボタンがいくつか入っていることを知っていたので微笑んでうなずいてあげた。

「いいよ、あげる」

「ありがとうございます!」

 彼女はうれしそうに目を輝かせて小さなはさみを取りだし、角田君のボタンを取った。

 そして、流れる静かな時間。

 時折吹く風で桜の木がサワサワと揺れ、そのたびに花びらが舞い散る。

「最後に、僕からもいいかな?」

 先に口を切ったのは角田君だった。

「はい、なんでしょう?」

「抱きしめても……いいかな?」

 いきなり大胆だなこの野郎。まぁ、流石に私がみている前でキスなんてしないか。ってか私がいなくなればいいんじゃないか。

 そう思うも目が離せなかった。

「……いいですよ」

 彼女は恥ずかしそうにうなずくと彼の方にそっと寄っていった。

「好きだよ、葉山さん」

「私もです、先輩」

 私は正直に暖かそうだな、と思った。今日はいい天気だ。黒っぽい制服は暖かいだろう。

「あのさ、連絡先交換しない?」

「あ、はい」

 彼らはお互いの生徒手帳に連絡先を書いた。

「ありがとうございました、先輩」

「いやいや、こっちもね」

「それでは、また……」

「うん、またね」

 彼らは名残惜しそうに別れた。葉山さんは教室へと向かっていった。角田君は私の方へ駆けてくる。

「先生……えへ、えへへ」

「何よ、あなたやるわね」

「いや、その、えぇ……まぁ」

 彼はとてもうれしそうに笑って近くの桜の木を見上げた。

「綺麗ですよね。でも、なんか寂しく思えます」

「そうねぇ、確かに別れの時期に咲くもんね。でも、出会いの季節に咲く花でもあるじゃない?」

「まぁ、そうですね。先生、どこからみていたんですか?」

「あははは、丁度目があったときぐらいかな」

「ははは、そうですか」

「あ、そうそう。ボタン渡さないとね」

 私は彼にそこで待っていてと言って職員室に向かい、ボタンを一つ握って戻ってきた。

 彼は石垣にもたれかかって空をみていた。私に気づくとゆっくりと身体を起こして手を差し出した。私はその手にボタンを乗せる。

「ちゃんと受験までにつけときなさい」

「はい、ありがとうございます」

「それじゃ、みんなのところに行きなさい。待ってるわよ」

「はは、そうですね。それでは先生、ありがとうございました。がんばって合格しますね」

「うん、がんばって!」

 私は彼が駆けていくのをぼんやりとみていた。

 私も彼みたいな輝かしい青春が送りたかったなぁ。

 だけど、もう昔に戻れることは出来ないんだ。だから今青春を送ろうとしている人たちに素晴らしい思い出を残してあげようと私は思い、教師になったのだ。

 ちゃんと出来てるかな、私は――



 こんにちは、まなつかです。

 もう受験生だって言うのに相変わらずのんびりしています。仕方がありませんね。

 

 今回からは春にちなんでの青春もの(明るいもの)を書きたいと思います。

 で・き・れ・ば 鬱展開にしたくないのでがんばります。

 感想などをいただけるとうれしいです。

 それでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ