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道で拾った棒が最強の神器だった件

作者: 雪丸
掲載日:2026/05/17

 二十年前。

 世界各地に“ダンジョン”が出現した。モンスター、未知の鉱石、超常の力。人類はダンジョンから発見される《遺物武装》を用い、怪物へ対抗する時代となり、武器がその人の人生を決める。強力な武器を得た者は英雄。弱い武器しか持たぬ者は底辺探索者。

 探索者育成高校へ通う天城ユウトもまた、武装適合の日を迎える。

 だが彼に与えられた武装は――《棒》。

 最低ランクF級。

 周囲は嘲笑した。


「終わったな」


「そんなので探索者やれるわけない」


 しかしユウトは諦めなかった。

 病弱な妹、美桜の治療費を稼ぐため、どうしても探索者になる必要があったからだ。

 ユウトは誰よりも鍛えた。剣術ではなく棒術を。派手なスキルではなく体術を。笑われながらも、毎日低級ダンジョンへ潜り続ける。

 そんなある雨の日。

 ダンジョン帰りの道端で、一本の黒い棒を拾う。

 不思議な棒だった。妙に軽い。だが異様なほど手に馴染む。

 そして何より――。

 触れた瞬間、脳の奥へ声が響いた。


【適合者確認】


【封印待機状態解除】


 ユウトは気味悪がりながらも、今の棒より丈夫そうだな程度にしか思わず持ち帰った。

 だがその棒こそ、神話時代に封印された最強神器――《終焉神器アポカリプス》だった。




 翌日。

 ユウトは初心者用ダンジョンで異変に遭遇する。

 本来いるはずのないC級モンスター《黒牙フェンリル》が現れたのだ。

 圧倒的な力。

 通常なら上級探索者でも苦戦する怪物。

 ユウトは逃げ場を失う。

 だが――戦うしかない。

 フェンリルが突撃する。

 死を覚悟した瞬間。

 黒い棒が発光した。


【第一封印解除】


 直後、ユウトの身体能力が跳ね上がる。

 視界が研ぎ澄まされ、敵の動きが見える。

 ユウトは全力で棒を振り抜いた。

 轟音がなり、フェンリルの巨体が壁を何枚も突き破って一撃で絶命する。

 この事態に探索者協会は騒然となった。

 無名の高校生が、災害級モンスターを単独撃破したのだから。

 さらにユウトは戦うほど強くなっていく。

 神器が魔物の力を吸収し、彼自身の身体能力も進化していった。

 炎を纏う魔剣使い。雷撃の槍使い。上級探索者たちと戦い、勝利を重ねるユウト。

 最初は“棒使い”と馬鹿にしていた周囲も、次第に彼を恐れ始める。

 やがてSNSでは、

『黒棒』

『災害級新人』

『一撃の天城』

 と呼ばれ話題になる。

 だが同時に、世界の裏側も動き始めていた。

 神器アポカリプスを狙う組織、国家、そしてダンジョン深層に眠る“神話級存在”たち。

 ユウトはまだ知らない。

 自分が拾った棒が、世界を終わらせる力を持つことを。



 棒を拾ってから1年後。

 崩壊した東京。燃え落ちる高層ビル。割れた高速道路。黒煙に染まる空。

 超大型ダンジョン《奈落門》から出現した災害級モンスター――《神喰い竜ニーズヘッグ》は、たった一体で首都機能を壊滅させていた。

 S級探索者部隊は全滅寸前。

 炎帝・九条蓮は血塗れのまま膝をつく。


「……化け物が」


 彼の最大火力である超広域殲滅魔法《太陽炎獄》。

 それすら黒竜の鱗を一枚焦がしただけだった。

 周囲には倒れた探索者たち。

 誰も立てない。

 ニーズヘッグが咆哮する。

 轟音だけでビルが崩れ落ちた。

 絶望。

 誰もが死を覚悟した、その時。

 瓦礫の向こうから、一人の少年が現れる。

 黒い棒を肩に担いだ青年。

 天城ユウトだった。


「おい、大丈夫か!?」


 場違いな声。

 九条は目を見開く。


「来るな……!! 死ぬぞ!!」


 しかしユウトは止まらない。

 その瞳は、恐怖ではなく怒りに燃えていた。

 避難区域には、まだ逃げ遅れた人々がいる。

 妹が入院している病院も近い。

 ここで止めなければ全員死ぬ。

 それだけだった。

 ニーズヘッグがユウトを見る。

 巨大な黄金の瞳。

 竜が嗤った。

 次の瞬間、超高密度ブレスが放たれる。

 黒炎の奔流。

 触れたもの全てを消滅させる災厄。

 だがユウトは逃げなかった。

 黒い棒を、正面へ構える。


「――ッ!!」


 激突、轟音、爆風。

 しかし、黒炎は真っ二つに割れていた。

 ユウトの足元だけ、地面が残っている。

 九条が絶句する。


「……は?」


 あり得ない。

 ニーズヘッグのブレスは国家級結界すら貫通する。

 人間が受け止められるはずがない。

 だがユウトはブレスを斬り裂きながら前へ出る。

 一歩。

 また一歩。

 黒い棒が赤く発光する。


【第二封印解除】

【対神戦闘形態 起動】


 脳内へ響く無機質な声。

 同時に、棒へ膨大な力が流れ込む。

 ユウトの腕が軋み骨が悲鳴を上げる。

 だが――離さない。


「こんなところで……!!」


 地面を踏み砕く。

 爆発的な加速。

 視界が消える。

 次の瞬間には、ユウトは竜の眼前へいた。

 ニーズヘッグが反応し巨大な爪が振り下ろされる。

 音速を超えた一撃。

 普通なら触れた瞬間ミンチだ。

 だがユウトは棒を横へ薙ぐ。

 衝突。

 空間が震えた。

 竜の爪が弾き飛ばされる。


「ォオオオオオオ!!」


 ユウトは咆哮した。

 全身から血が吹き出す。

 神器の力に肉体が耐えきれない。

 それでも止まれない。

 仲間たちが後ろにいる。

 守りたいものがある。

 だから前へ出る。

 ニーズヘッグが怒る。

 数百もの魔法陣が空中展開。

 雷、炎、重力崩壊。

 災厄級魔法の同時発動。

 東京全域が飲み込まれる。

 その瞬間、棒が脈動した。

 黒かった表面が砕ける。

 現れたのは内側に封じられていた純白の光。


終焉神器アポカリプス

【真名解放】


 世界が震えた。

 ユウトは理解する。

 この棒は、“神を殺すため”だけに作られた武器だ。

 だから、神話級モンスター程度なら壊せる。

 ユウトは音を置き去りにして踏み込む。

 ニーズヘッグの魔法群を真正面から突き破る。

 肉が焼ける。

 骨が砕ける。

 それでも加速。


「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 全力で振り抜いた。

 閃光。

 一瞬、世界から音が消える。

 刹那、ニーズヘッグの巨体が縦に裂けた。

 空が割れる。

 雲海が吹き飛ぶ。

 数秒遅れて、超音波が東京全域を揺らした。

 神話災害級モンスター討伐。

 誰も声を出せなかった。

 S級ですら勝てなかった怪物を、一人の少年が真正面から叩き潰した。

 ユウトは膝をついた。

 ボロボロの身体。砕けた腕。視界も霞む。

 それでも棒を離さない。

 九条が震える声で呟く。


「……お前、何者だ」


 ユウトは荒い息を吐きながら答えた。


「ただの……探索者だ」


 そう言って意識を失った。




 奈落門事件後。

 世界は天城ユウトを恐れた。

 国家ですら止められない存在でありその気になれば、一国を消せる怪物であると。

 海外組織は監視を始め、各国政府は接触を試みる。



 だが当の本人はいつも通り学校へ行き、妹の見舞いへ行き、帰りに特売の弁当を買う。


「いや、俺ただ平和に暮らしたいんだけど……」


 その肩には一本の棒が担がれていた。


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