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七話:平凡女のお仕事

家捜し状態でなんとかそのまま食べられる物を探し出し、腹五分目程度になったお腹を擦った。

味と食べ物の正体は取り敢えず二の次三の次である。


「‥‥さて、胃も落ち着いた事だしお話しでもしようか。

ねぇ、クルド君?」


「‥‥」


「なにその涙目、ワタシ何かした?」


「‥‥」


「だから、なんで涙目なの?

次いでに言えば、涙目で睨まれたって全然怖く無いんですけど?」


逆に可愛らしいとすら感じるよ?


「‥‥もう良いです」


フイッと顔を反らすクルド君は片手でコメカミを擦っていた。

先程やった頭を鷲掴みから梅干しの刑への移行が、思った以上に効いたらしい。

ヘタレなだけでなくモヤシっ子要素まであるのかこの子は、と少々呆れた。

だが、良く良く思い返してみるとあの刑は成人した弟ですら半泣きにさせてしまう代物である。

だからまぁ仕方ないかと思い直した。


「とにかく、話しを続けるけど良いよね。うん、良いって事で。はい、話し進めるよー」

「あ、あの~僕の意見全く聞いて無いようなんですけ‥「それで今後の事なんだけどね」‥ハイスミマセンナンデモナイデス(泣)」


悲壮感を漂わせ始めたクルド君。

スルーで。

「ワタシさぁ、お金も仕事も無いしこの世界の人間でもないじゃん?

住む所はクルド君の所で良いから考え無いとしても、それにしたって色々問題有りなのよ」

ワタシの言葉にフンフンと相槌を打つクルド君。

「えぇ、ハイ、そうですね。僕の家に滞在するのが前提なのが微妙な気分ですが、そ、お‥‥で‥‥‥‥っ!?」

クルド君の相槌と言葉が途中で止まり、表情すらも固まっていた。

案外人の話しを良く聞く子の様だ。

固まるクルド君に更に追い討ちをかける。


「だ、か、ら、ワタシは仕事とお金が無くて、『この世界の人間』でもないんだって」


「‥えっ?、ぅえっ‥‥え~‥‥‥‥‥

エ゛ッ!?」

数瞬間を置いてやっとこさ理解したクルド君に、畳み掛ける様に話し掛ける。


「とにかくそんな訳でワタシ結構切羽詰まってるのよ、頼みの綱はクルド君だけで他には全く無し。ワタシの此れからはクルド君にかかっていると言っても過言じゃないって事。会ったばかりの君にこんな事頼むのなんて、凄く申し訳無いんだけどさ。

まぁワタシと知り合ったのが運のつきって事で諦めてよね。アッハッハッ。

さてさて、そんでワタシの今後なんだけどさ、取り敢えずこの世界の常識を学びつつクルド君に寄生するっていう案が一番有力なんだけど、どう?あぁうん聞いてみただけだから気にしないで、まぁ大丈夫って事で。んでも世話になるだけじゃ流石にアレだから、ここに慣れたら食事とか家事をするよ。

クルド君は住み込みの家政婦でも雇ったと思ってて。

‥‥‥‥とかいう感じでどう?」

「えっ!?あっハイ?!」

「はい、ありがとう。じゃあこれでワタシはクルド君の住み込み家政婦って事で、けってーい」

「えっ、いや‥‥今のはちがっ‥」

「そうだ、クルド君。他の家政婦さんてどのくらいの頻度で来てるの?」

「はっ?あ、あの‥‥三日ごとでお願いしてますけ‥」

「それじゃあその人にこの世界の家事とか習うよ。

一般常識とかはクルド君に頼んでも良い?」


反論や意見を求めず考える暇も与えず、立て板に水論法で話し続け最後だけちゃんと問い掛けた。


流されやすいお人好し体質の人にはうってつけな方法である。

クルド君の一般常識は結構怪しいと思うが、背に腹は代えられない。


「え、え~と『頼んでもいい?』と言われても、内容に色々と疑問が残るんで素直に頷けないんですが‥‥‥‥」

「気にしないで。

気にしたら負けだよ、クルド君。

で、お返事は?」

クルド君は暫し躊躇った跡、首を傾げつつ頷いた。


「よ、よろしくお願いします?」


「そこで何で首を傾げて疑問系なのかが気になるけど、敢えて今は言わないよ」


「イヤ言ってますよね、ソレ」

「でも、頷いてくれてありがとう。

今日からクルド君はワタシの雇い主で先生だね、コレからヨロシク~。

契約書とか労働条件とか賃金とかは後で決めようか」


「あっハイ、こちらこそ宜しくお願いします。

‥‥にしても、いきなり生々しい話しになるんですね」


―――あぁ、流されてる流されてるよクルド君。

ここまで上手くいくと逆に君の事が心配なってきたよ、お姉さんは‥‥‥‥

クルド君に後半を呆れた様な口調で言われ、内心憮然とする。

働く上では当たり前に必要な事を言っただけなのだが、生々しいと言われるとは思わなかったからだ。

お金と労働問題はなぁなぁで曖昧に済ませていると、後々ややこしい事になると相場が決まっているのだ。

親しき仲にも礼儀あり。

クルド君と言うほど親しくは無いが、これからの事を考えれば早い内に決めてしまえば面倒は少ない。

金の切れ目が縁の切れ目になったら目もあてられない。

だが、問題が一つ。

ワタシってこの世界の文字、読めるのか?

「ワタシ的には現実的、と言って欲しいけどね。

‥‥あ、そう言えば家政婦さんって何日前に来た?」


「確か、二日前に来たんで明日来ると思います。」


「‥‥じゃあ、今日の昼と夜は外食だね」

さっき家捜ししたキッチンを横目で見つつそう言えば、多少なりとも自分の常識の無さを自覚したクルド君が気まずそうに頷いていた。

まだ探せば何かしら出てくるだろうが見つけたら見つけたで判断するのに時間がかかるし、空腹時にそんな手間暇かけていたらキレる。

ていうか、実際にさっきキレかけて棚を殴り倒したくなった。

空腹って老若男女問わず気が短くなるモンなんですよ。


「ワタシの仕事は決まったから良いとして、クルド君はどんな仕事してんの?

ていうか、今日お休みなの?」

「‥えっ、え~とですね‥‥‥、今ちょっと長期休暇中なんです。

仕事内容とかは、街や国の保安や魔法研究が主ですね」

クルド君の話しを聞いて少々驚いた。

正直な話し、クルド君の事をワタシは良いとこのボンボンでニートな奴だと思っていたからだ。

だから仕事の話しを振りはしたが、そんな答えが帰ってくるとは考えてすらおらず驚いたのだ。

「何でそんな驚いた顔をしてるんですか?」

しまった、驚きが顔に出てしまっていたらしい。

いけないいけない、と顔を揉みほぐし気にしないでといった。

訝しげな顔をするクルド君に片手を振った。

「イヤイヤ、まだ若いのに働いてるなんて偉いなぁって思っただけだから」

「まだ若いって‥‥、ナーガさん僕とそんな変わらない位の年なのに」

若干呆れた様にそう言われ、アレ?と首を傾げる。

「クルド君て今何歳?」

「僕ですか?

今年で19になりますけど、ナーガさんもその位ですよね?」

「はぁ?

ワタシ29だけど」


「あ、やっぱり僕と同じで19だったんですね」

「‥‥いや、だから29歳だって。

分かる?にじゅうときゅうさい、なのよワタシはね!」

分からせる為、噛んで含ませる様にゆっくりとそう告げた。

「‥はっ?、えっ‥‥エ゛エッ!?」

少しタレ目で大きな目を更に大きく見開いたクルド君は、驚愕だったらしい事実に驚いていた。


基本的に日本人は外国で幼く見られがちだが、ここでもその傾向が有るらしい。年相応な顔をしている筈のワタシがここでは未成年に見えるとは‥‥‥

異文化交流ならぬ異世界交流は、色々常識が違っていて面白い。

「そんなに驚かなくても」

「えっ、だっだたっだって、29って30の一つ前の29ですよねっ!?来年きたら30になる29の29の事たら30になる29の29の事ですよねっ!?」

「‥‥あんまり年の事、連呼しないで欲しいんだけど」

クルド君の発言にピクッと口元が引きつる。

だが、クルド君はワタシの話しを聞いておらず、その後もずっと29が29で29を~とか何とか呟いていた。ビキッと口元だけでなく顔全体が引きつってきた。

それでも何とか自分を押さえていたが、次のクルド君がした発言により全てが決壊した。

「‥‥案外、お年を召した方だったんですね」

ワタシは満面の笑みを浮かべ、一つ頷いた。

―――うん、クルド君梅干しの刑決定。





――――――――

お久しぶりの更新です。感想くださった方ありがとうございました。ヘタレクルド君に需要があってホッとしてます。

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