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六話:平凡女の教育的指導

コトッと、目の前に置かれた物に目が釘付けになる。

口元を引きつらせ、目の前にある物を指差し、クルド君に尋ねた。


「‥‥コレ、何て名前なん?」


「さぁ?」


「いや‥‥さぁって、いつも食べてる物なんじゃ無いの?」

首を傾げるクルド君は本当に知らなさそうに見えた。


「僕あんまり食べ物に興味がないんで、知らないんです。

コレも通いの家政婦さんが買い置きしてくれてた物なんで、食べ物だって事以外は何も知ら、なくて‥‥‥

えぇ~と、なんでそんな顔して僕を見るんですか?」

クルド君は自分の発言を聞き、愕然とするワタシを見ても理由は分からなかったらしい。

ワタシは、分からないのが分からない。

クルド君に向けていた視線を、先程まで見ていた物に戻す。

コトッと置かれたそれは、木製のスープ皿に入った

『青色』の

『物体X』だった。

皿の上に乗っていた物体Xは今にも踊りだしそうな形状をし、皿からはみ出そうな勢いの『ナニ』かであった。

(イヤイヤイヤイヤ!オカシイだろ、オカシ過ぎだろコレ!色と形が、食べ物のカテゴリーに入って無いってマジで!)

物体Xは形状や色だけでなく匂いも救い様が無かった。

口に入れる前から周囲に漂う異臭はまるで、夏に生ゴミを数日放置したかの様な匂いを発していた。

つまり、食べ物の匂いをしていません。

ていうか、デンジャーでハザードな匂いでありながら食欲を悪い意味で刺激する匂いだと思います。

ワタシの本能が、コレを食べちゃいけないって警鐘鳴らしまくって煩い位です。

勇気を出して銀色のスプーンでスープをすくい、目の前にまで持ってきたが身体がそれ以上の接近を拒絶する。

ホカホカと湯気をたてる『青色』の『物体X』。

色と形状と匂いさえマトモであれば美味しそうなのに、と残念に思う。

―――いや、そんだけ違ってたら最早違う物か‥‥‥

スプーンをゆっくりと皿に戻し、向かい側の席に座ったクルド君をチラッと見た。

クルド君は何故か、期待でキラキラとした瞳で此方を見ていた。

クルド君の前にも同じ様な皿に鎮座している『青色』の『物体X』があったが、クルド君はスプーンを持とうとせず胸の前で手を合わせていた。

所謂、夢見る乙女のポーズだ。

違和感が無い事に少しばかりイラッとした。

ワタシがやるより様になっているのは、ソレをやっているのが美青年だからだろう。

ケッこの美形が、と内心で毒吐くが内容が毒になっていない。

「僕、初めて人に料理を作ったんですけど、何かドキドキしますね」


相変わらずキラキラした眼差しに照れ臭そうな表情がプラスされ、まるで幼子の様に純粋なソレを見たワタシは食べないという選択肢が無くなってしまった。

考えても見て欲しい。

この状況で、『あ、ゴメン。コレ不味そうだから違う物ある?』何て言えるであろうか。

イヤ、言えない。

そんな事言える奴は、KYなだけで無く人でなしの鬼畜野郎だ。

「‥‥あ、うっうん。じゃあいただくね」

スプーンで『物体X』の腕っぽい物とスープをすくい、心の中でいただきますと呟きスプーンを口にいれた。

‥‥‥内心で、遺言状を残さなかった事を後悔しながら。

 

 

「っ!!!」

口に入れた瞬間広がる激烈な生臭さと洗剤っぽい味。

思わず噛んでしまった『物体X』から染みでる、青臭さとエグ味、渋味苦味。

早く呑み込み口の中から無くしてしまいたいけれど、喉が食道が嚥下を拒否している。

生理的な涙が出てきて目の前がボヤけてきた。

スプーンを口からガッと引き抜き、お茶らしき物が入っていた木製のコップを掴むと一気に煽る。

何とか全て飲み込むが、口の中にはまだ生臭さ洗剤臭さエグ味渋味苦味。

涙目のまま恨めしげにクルド君を見れば、怪訝な顔をしていた。

「あの~‥‥」


「クルド君」

恐らく、感想を求めたのであろうクルド君の言葉を遮った。

「‥‥味見ってした?」

「へっ?味見、ですか?

ソレって何ですか?」

又しても分かってなさそうなクルド君に、無駄な事を言ったとちょっと後悔した。

「取り敢えず、クルド君も食べてよ」

話しはそれからだと言わんばかりのワタシに、クルド君は首を傾げるが素直にワタシの言葉に従った。

「はぁ、それではお言葉に甘えて‥‥‥っ!!!」


スープを口に含んだ途端顔を壮絶に歪め、ワタシと同じ様に飲み物を一気飲みするクルド君。

その光景を眺め異世界でも味覚は一緒な事に安堵し、多少は溜飲が下がった。

美味しい物のみならず、不味い物も皆で共有したくなるのはどうしてだろう。


―――――――――――

「さて、謝罪はそんな物で良いとして言い訳でも聞こうか‥‥ねえ、クルド君?」


涙ながらにひたすらワタシへ『スミマセン』『ごめんなさい』『申し訳ありません』と、ワタシの足元に這いつくばって謝り続けるクルド君を冷めた眼差しで見下ろしそう言った。

クルド君に世話になる立場のワタシだが、クルド君とワタシの上下関係は逆転しているから問題は無い。

涙目で此方を見上げるクルド君と目が合うと、小さく悲鳴をあげ顔を青ざめさせていた。

結構失礼な奴だな、コイツ。

「え、あ、あのですね、買い置きされた物はあったんですよ」


「‥‥」

無言。

「でっでも、量が少なかったんで近くにあったグリアドネ草を隠し味と嵩まし代わりでいれたんです!」


「‥‥」


又無言。


「ぅぅ‥‥、それで味が薄くなったかと思って手近にあった調味料を入れて‥‥‥‥今に至る次第です」


「‥‥‥‥因みに、グリアドネ草っていうのは何?」


返事が貰えたのが嬉しかったらしいクルド君は、満面の笑みで皿の上に鎮座している『物体X』を指差した。

「ソレです!

その大きな固まりがそうです」


ビキッと口元が引きつった。


「へー‥‥、グリアドネ草の用途と効能とか知ってる?」


クルド君はハイっ勿論です!と答え、教えてくれた。


「グリアドネ草は薬草の一種で、魔法薬を作る時に良く用いられます。

効能や効果としては、滋養強壮、疲労回復等があり少量で効果的に結果がでる、中々強い薬草ですよ。

ただ、特有の味がするので魔法薬を作る時は、量に気を付けないと飲めなくなるんですよね~。

あっ!それと多量に摂取すると、たまに心の臓が止まるらしいです」

又々満面の笑みで答えるクルド君に、ワタシは自分の中で何かが千切れる音が聞こえた。


―――ゴスッ、ガツッ!

「ゥグッッ!?」

「心臓止まる様なモン人に喰わせるなっ!!!」

ワタシの拳骨を頭上に喰らい、その勢いで床に顔を打ち付けたクルド君へ怒鳴るワタシの心の叫び。

だが、まだワタシの心の叫びは止まらない。

床で呻いているクルド君の胸ぐらを両手で掴み、無理矢理引き起こしギロッと睨み付けた。

「大体ね!あのグリドルだかグリとグラだかしらないけど、全然隠されてないからっ!!!

ていうか、存在主張し過ぎ最早主役だからアレっ!

隠し味っていうのは目で見て分かんないから隠し味っていうのっ!そんで人様に出すんだったら事前に自分で味を確かめなさい、他人で毒見させるんじゃないっ!!!」

分かった?と問えばクルド君が蒼白な顔色で、何度も何度も頷いていた。

それを確認しクルド君をぺいっと床に投げた。


「‥‥まぁ?アレがわざとなら、ワタシって相当嫌われてるんだって事になるから?

会って2日でそんなに嫌われるのは、ちょっとショック‥「嫌ってなんかいませんっ!」‥なんだけど?!」

凄い勢いでワタシの言葉を否定してくれたクルド君は必死になって言葉を続けていた。

「確かに、出会いはちょっとアレでしたけどっ、でも、でもナーガさんを嫌うだなんて事はありませんっ!」

真剣な眼差しでワタシを見つめているクルド君は、ナガキと発音できなくてワタシの事をナーガと呼んでいる。

日本人だってちょっと発音しづらいワタシの名字は、名前と相まって中々に忘れにくい名前だった。

小さい頃は良く苛められたが、返り討ちし続けたらいつの間にか苛められなくなった。

因みに、母は那賀木愛ナガキアイで妹は那賀木美智ナガキミチ、弟は那賀木零ナガキレイという。

家族揃ってそんな名前である。

友人からは、楽しいけど疲れそうな名前だと言われている。とまぁ、ワタシの名前の話は置いといて。

「あぁはぁ‥‥、それはありがと。

大丈夫だよ、本気で嫌われたなんて思っちゃいないから。」

クルド君の勢いに押されそうは言ったが、疑問は残った。

会って2日で何故そんなにも好意を抱けるのだろう。

言っちゃなんだが、ワタシは不審者だ。その上、馴れ馴れしくって図々しい女だとも自覚しているし、そう相手に思われているとも考えていた。

だがしかし、クルド君の眼差しにはそういった不快感の様な物は感じられなかった。

普通ならこんなに偉そうにしている不審者に、警戒心は抱いても好意なんて抱かない筈だ。

それが、何故。


そんな思いが表情に現れてしまっていた様で、クルド君がまた何やら誤解し泣きそうな顔をしていた。

捨て犬の様な眼差しで見つめられると、罪悪感に駆られてしまうのは何でなんだろう‥‥‥‥

ジッと涙目で見上げてくるクルド君を見下ろし、ワタシは諦めのため息を吐いた。

クルド君はその事に又々悪い方へ勘違いしたらしく、シュンッとして視線を床に下ろした。

ワタシはスッと手を出し、さっき殴ってしまったクルド君の頭部を慰める様に撫でた。

「‥‥でも、まぁありがとね」

「っ?!」

ガバッと頭を上げ、驚いているクルド君を見下ろし苦笑を浮かべた。

慰める様に撫でる手は止めない。

「だって、ワタシの為に作ってくれたんでしょ?」

「‥は、はい‥‥」

「だから、ありがとうって言ってるんだよ。

結果的に食べられる物じゃなかったけど、ワタシの為に頑張ってくれたんだからお礼を言うのは当たり前でしょ?」

違う?と問えば暫しぼおっとした後、クルド君は勢い良く頭を横に振った。

「おっお礼なんてっ‥‥、お礼なんて頂ける物じゃ無かったんで‥‥‥‥‥

で、でも、こちらこそありがとうございます!

そんな風に言って貰えて、とっても嬉しいですっ!」

落ち込んだ様な雰囲気から一変、喜色満面な笑顔でワタシを見上げるクルド君。

その素直さが可愛く思えワタシも微笑みながら、頭を撫でた。

暫しニコニコと微笑みあっていた


が、しかし

ワタシは撫でていた手(プラスもう片手)で頭を両側から掴んみ、握り潰すつもりで力を込めた。

顔は微笑んだままで。

握力45kgのワタシを舐めちゃいけない。

スチール缶は片手でベコベコに出来るし、バスケットボールだって片手で振り回せるのだ。


「‥‥だ、け、ど、あの食材への冒涜は忘れないから、覚悟しとけよ?」

「アダッ!結局僕の事全く許して無いって事ですよねっ!?

‥アタダダ゛ッ!ナーガさんこそ僕の事嫌ってるじゃないですかーーーっ!!!」

食堂からは、十数分間クルド君の嗚咽混じりの悲鳴が聞こえていた。


嫌ってないですよ?

イラッとはしたけど。

これはただの、ちょっぴり愛の籠った躾なんです。



何処までいってもギャグで申し訳ないです。

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