五話:平凡女の目覚め
暗闇で、慟哭が聴こえた。
その声音は、聴く者全てが胸を締め付けられる程悲哀に満ち満ちていた。
女性なのか男性なのかは分からない。
光すら射さない暗闇の中で、絶える事無く聴こえる嗚咽混じりの慟哭。
手を指し伸ばす事を躊躇う程に、その嘆きは、深い。
暗闇で何も見えない筈なのに、何故か涙を流しているのがわかる。
聴こえる筈の無い涙を流す音が聴こえた。
―――あぁ‥‥泣かないで、泣いちゃ駄目
大丈夫、大丈夫だから
慰めにもならない慰めの言葉をかけるが、嘆きが深すぎて言葉は届かない。
―――誰か、誰か助けてあげて。
あんなにも、哀しい嘆きが深い人を。
段々と光が指し暗闇が薄れ始め、慟哭も掠れ聴きづらくなってきた。
胸を締め付ける様な嘆きは変わらないままで‥‥‥‥
‥‥ま、眩しい、あれ?ワタシカーテン開けてたっけ。
余りにも眩しくてベッドで寝ながら、手が届く筈のカーテンに手を伸ばした。
だが、幾度触っても有るのは木製の感触のみだった。
未だ四分の三位寝ている頭だが、そこは不思議に思った。
だってワタシのベッドはパイプベッドで木製の物なんて何も無く、ベッドの側には窓とカーテンしかないからだ。
「‥っ!!!」
そこまで思い出した瞬間、ガバッと跳ね起きた。
今まであった眠気は跳ね起きたその時に吹き飛び、緊張と焦り等々からか動悸が激しくなり自分の動悸が煩い程よく聞こえてきた。
ベッドの上で中腰になり周りを忙しなく見渡し、自分の部屋では無い事を確認した。
冷や汗が背中を伝う。
ベタつく肌と服に不快感を感じ、髪に手をやれば仄かに磯臭かった。
「夢オチ希望だったんだけど、やっぱりそこまで上手い事いかないか~‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥いや、諦めちゃいけない。
実はこのベッドしか置いて無くてカーテンすらないっていう部屋にいるのが夢で、又寝たら今度は自分の部屋でちゃんと起きるっていうオチに‥‥」
―――コンコン
扉をノックする音が聞こえた。
「おっおはようごっございます、起きて、ますか?」
ワタシの現実逃避はクルド君によって終止符が打たれた。
ガックシと肩を落とし四つん這いになって凹み、力無く呻く様に入って良いよと答えるた。
そんなワタシを見て部屋に入ってきたクルド君が狼狽えていた。
「‥ぅええっ!?
なっなんでそんないかにも落ち込んでます、的な感じで落ち込んでるんですか?えっ、まだ朝ですよ爽やかな朝なんですっよ?!」
クルド君の挙動不審振りに夢オチが絶対に無いことを再認識してしまった。
このヘタレっぷりに美形さが台無しになっている。
何とも残念な感じの青年だ。
性格良さげで金持ちそうで、顔だって良いのに全くときめかない。
優しげな顔立ちの端正な作りをしたクルド君の美形さは、日本で生活してたらあまり見られないし馴染みがない。
それなのに、ときめかない。
やはり、それだけ心に余裕が無いって事だろうか。
もう一度クルド君の顔をじっくり眺め、ため息を吐いた。
「ぼっ僕の顔見てため息吐かなくてもいいじゃないですかっ!」
クルド君のごもっともな発言は取り敢えず、スルーで。
四つん這いから移動し、ベッドの端に座り直す。
「クルド君おはよう」
「あっハイ、おはようございます。
って、僕の発言無視ですかっ!」
「所でさ、ワタシをこの部屋に寝かせてくれたのってクルド君?
だったらありがとね」
クルド君の発言をフルシカトし、そう問うと若干凹みながらも答えてくれた。
「また無視された‥‥‥。
‥はぁ僕が運びましたよ、食堂には寝れる場所ありませんでしたし。
でも、さっきこの部屋にカーテンが無いのを思い出しまして、それに起きたら違う部屋だっていう理由を説明したかったので」
「で、この部屋に来て今に至るって訳なんだね。」
ヨッと声を出しベッドから下り、クルド君をヒタと見据えた。
「取り敢えずさ、申し訳無いんだけど‥‥」
―――ゴギュッギュキュッキキュルキュ~
何かの鳴き声の様な大きな音が部屋に響き渡った。
「こんな感じで餓えてるんで、何か食べる物下さい。
お願いします」
ワタシはペコリと頭を下げ、鳴き声の震源地であった自分の腹をさすり擦りそう言った。
女の自尊心なんて、異世界で気にしてたら生きていけんわ!