一話:平凡女の状況確認
取り敢えず、状況を確認してみよう。
ワタシは今日何時もの様に仕事が終わり、勤め先から自宅まで徒歩五分という激近の道のりを自転車に乗り帰宅した。
そして、部屋の鍵を開けドアを開いた。
よし、ここ迄に何も可笑しな所は無い。
だけど部屋に入った途端、触れていた筈のドアノブの感触が消え失せそれと同時に潮風が鼻腔を掠めた。
ワタシの部屋の芳香剤はピーチアップルの甘い香りを使っている。
それなのに、何故‥‥
とか思い部屋をよく見たら、屋内だった筈の部屋はなく広大な大海原となっていた。
その上ワタシは、その海を見下ろすかの様に切り立った崖っぷちに立っている。
景色は嫌に成る程絶景である。
「‥‥ワタシ、立ちながら寝てたのかなあ。
そこまでお疲れとか、どんだけ若さないんだろーマジでー。
ハハハ‥‥‥‥」
力無く笑い、現実逃避をするがワタシは立ちながら寝るなんて芸当持ち合わせていない。
認めたくない現実を見ない振りして無かった事にする。
でも、そんな事したって事態が何か進む訳じゃない。
「‥‥‥‥うあ゛~、マジかよー」
ワタシの現実逃避タイムは案外短かった。
仕方なく現実を認めた途端、我が身を襲う絶望感に両手で頭をかきむしり、その場に膝を付き何故か正座をしてしまう。
そのまま俯き、視界はベージュ色した地面に占められた。
「仕事どうしよ、てか此処何処だよ。
‥‥‥‥ワタシ、部屋に帰れんの?」
只今の所持金三千円。
浜松町から五反田迄のタクシー代くらいしかない。
だけど、あの海の綺麗な青さからいって此処が東京湾とは考えられない。
あの海の色は、昔見た沖縄のコバルトブルーの海によくにていた。
そして、暑い。
長袖Tシャツに長袖のカーディガンを羽織っただけなのに、汗が滲む程だ。
少なくとも東京の4月の気候じゃない。
じゃあ沖縄?とか考えたけど、ソレも何処か違和感が残る。
もし海外だったら、もの凄く面倒臭い。
パスポート無いし、所持金少ないし日本語以外は話せない。
英語はネイティブな発音が聞き取れないし、知ってる単語もあまりない。
正しく、八方塞がり。
逃げ場無し。
大使館まで辿り着けるかすら怪しい。
頭に置いた両手を腿の上に置き、目を閉じる。
考えて考えて考える、これからの事を。
困った時程、一回立ち止まり落ち着いて考えろと言う大好きなおばあちゃんの言葉が蘇る。
暫し瞑目し、出た結論は‥‥
「第一町人を発見しよう」
というものだった。
とにもかくにも、人を見付けないとどうしようもないと気が付いた。
たが、いきなり話し掛けるなんて怖い事はしない。
まずは相手に気が付かれ無いようストーカーの如く観察する所から始め、自分との相違を見付けるのだ。
話しはそれからだ。
一先ず出たその結論に納得し、ヨッと立ち上がる。
最後に、と思い結構な高さのある崖から海を除きこんだ。
その瞬間、ドンッという衝撃が全身を襲う。
「‥だっ駄目です!自殺はっ自殺なんていけませーーんっ!!!」
そんな声を背中で聞き、ワタシは結構な高さのあった崖から落下した。
盛大な水飛沫をあげると共に思った事は、人生って上手くいかない、だった。