5話 「強襲」
「ふぅ……はぁ……」
ひとしきり泣いて、落ち着いてきた。
「一緒に、帰ろう。」
その様子を見て、彼は柔らかくこちらに手を伸ばす。
「本当に……ありがとう……そうだ、名前は……?」
彼は、にっこりと笑った。
「俺は、『グレイス』。君は?」
「シンシア。」
グレイスが伸ばした手を、しっかりと掴んだ。
「街に下りよう、シンシア。」
「えっ……?それは……」
グレイスの提案は、俺にとって、不安だった。
一応、手当てはしてもらい、直っていない箇所には包帯を巻いてもらったが、それでも目立つ。
「大丈夫。とりあえず、俺がよく利用してる宿屋があるから、そこの人なら、何も言わないよ。それに、もし何か言われても、俺は『勇者』だからさ。」
自信満々にそう答えるグレイスに、ちょっと苦笑いする。
「本当に自信家だよな……」
「言ったでしょ?自分に自信がないやつが、他人を照らせるのかって。」
「確かに……だから『勇者』やれてんだもんな。」
「そういう事。」
透き通る瞳をキラキラさせながら、グレイスはハニかんだ。
ふと、真面目な顔になり、あのときと同じ真っ直ぐな目で俺を見る。
「シンシアがなんで『こう』なったのか、まだ聞けてないね。」
「…………」
「話せる範囲で、話して欲しい。本当に……話せる範囲でいいから。」
───
俺は、今日の出来事を全て話した。
妹の死
悪魔との戦闘
冒険者達からの一方的なリンチ
そのすべてを、グレイスは受け止め、理解してくれた。
───
「気になるのは……悪魔との戦闘ってところだな……そいつ、なんて名乗ってたか覚えてるか?」
「えっと……確か……マル……マルコルウス……?」
微妙に思い出せない。
記憶を掘り進めてなんとか思い出そうとしてみる。
それを聞いて、グレイスは驚愕の声を上げた。
「マルコシアスか……!?」
「あっ……!それ……!」
「あの破壊跡……やっぱりマルコシアスだったか……もっと早く来ていれば……」
拳を握りしめ、悔しそうな顔をしている。
「もっと早く……?」
「あぁ……マルコシアスレベルの上位悪魔になると、ただ倒すだけじゃ完全には消滅させられないんだ。俺が来たときにはもう『魂の残滓』は残ってなかったから、多分逃げられてる。」
「嘘だろ……」
あいつ……まだ生きてんのかよ。
次会ったら絶対…………
「それにしても、タイマンで上位悪魔を倒すなんて……戦闘経験も、スキルもない状態で……?」
「そうだな。」
グレイスは半分引いたような顔で遠くを見ていた。
───
山を降りると、家が少しずつ見えてくる。
「宿屋はもう少し進んだところにあるから。」
ゆっくりと、夜の街並みを歩いていく。
───
「あそこが宿屋ね。もう明かりは消えちゃってるか。」
指を差した先には、少し大きな建物が見えた。
木造造りの、普通の宿屋。
「意外と質素なところに泊まってるんだな。」
グレイスは目を細めて、寂しそうに語りだした。
「『勇者』なんて言っても、大金持ちってわけじゃ全然ないし、『人魔共存』を掲げて行動してるけど、ちゃんと耳を傾けてくれる人はそんなに多くないよ。特に、冒険者とか、ハンターとかね。」
「俺はお前の理想を最後まで見届けるぜ。」
かつてのグレイスがそうしたように、俺も真っ直ぐとした視線を送る。
「……ありがとう。」
「そういえば、なんで『勇者』って呼ばれるようになったんだ?」
グレイスの実力が正確に分かっているわけじゃないが、精神面だけでそんな大層な称号が付くわけがないと思った。
「あぁ……その件は話すと長くなるから、宿屋で話そう。」
音を立てないようにゆっくりと、宿屋の扉を開ける。
寝ている人がいるための配慮だろう。
扉を開けてすぐ、異変に気付いた。
あの時と同じような、生臭い臭いがした。
「シンシア。」
「あぁ……」
グレイスは俺の前に立ち、剣の刃を抜く。
「まぁまぁまぁ……随分と遅かったですねぇ……皆殺しちゃいましたよ……?」
暗い宿屋の奥の方から、男の声がした。
「誰だお前。」
グレイスは剣を構え、刃を声の主に向ける。
「お待ちしておりましたよ?勇者様。私は『心体腐人の会』所属、『オルガン』と申します。」
『心体腐人』……!?
まさか……こいつも……!?
「ところで勇者様は、後ろには振り返らないタイプですか?」
後ろ……?
「しまっ……!」
グレイスが焦りの声を上げ、振り返ると同時に、「カチャッ。」という音がし、俺の脳天に何かが押し当てられる。
バ/ン!
「がっ……」
「シンシア!!」
頭を撃ち抜かれ、脳漿が炸裂する。
意識が途絶え、力なく倒れる。
「さて……お仲間はお亡くなりになってしまいましたが……勇者様はどうなさいますか……?」
「……何が目的だ。」
「我々『心体腐人の会』にとって、あなたの存在はとっても邪魔なんです。死んでください。」
オルガンは愉快そうに嘲笑いながら告げた。
「断る。」
「そうですか。なら死んでくだ……」
「おい……今日だけでどんだけ急展開なんだよ……」
奴の言葉を遮るように、言葉を紡ぐ。
オルガンは目を見開いて俺を凝視する。
「まさか……あなたも……!?」
俺は頭の出血を抑え、フラフラと立ち上がる。
「そうだよ。俺も『心体腐人』なんだわ。うちの勇者殺そうってんなら、容赦しねぇからな。」
ありったけの殺意を込めてガンを飛ばす。
「お〜……怖い怖い。でも、嬉しいですね。こんなところで同志と出会えるなんて、運がいい。『アヴュウス』、こいつは捕らえて、会の一員にしましょう。」
後ろの、俺を撃ち殺した女が答える。
「分かりました。じゃあ、まずは躾からですねっ。キャハッ……!」
申し訳ございませんが、しばらく投稿をストップさせていただきます。
忙しいのと、今一度、自分が本当に描きたい話を見つめ直すためです。
この作品になるかは分かりませんが、また必ず戻ってきますので、その時にまた出会えたら幸いです。
ここまで読んでくれた皆様に心から感謝申しあげます。




