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2話 『腐人(アンデッド)』

非常に残酷な描写を含みます。

閲覧には十分注意してください。

「俺にはなぁ……『シンシア』って名前があるんだよ!」


斧を握る手に力を込める。

今は、この怒りを、悲しみを、後悔を 、全てぶつけてやらなきゃ気が済まなかった。


「はぁ……それじゃ、何回か殺すね。」


冷たく奴はそう言い放ち、掌から紫色の炎を起こす。


「『灼炎』」


奴の掌の炎がパチパチと音を立てて膨張し、巨大な紫色の火球になる。


「この村ごと消し飛ばして、君のしがらみも、思い出も、断ち切ってあげるからさ!!」


奴は上空から見下ろしながら叫ぶ。


そして、極限まで膨張した火球を、俺目掛けて叩きつける。


目の前は一瞬で真っ暗になった。


────────────────────────


焼け付くような痛みとともに、再生する。

消し炭になってもなお、生から逃れることはできないみたいだ。


好都合。


「ほらほら……もう一発行くよ?」


再度奴は火球を作り出し、叩きつける。


再度目の前が真っ暗になった。



何度も、何度も、何度も、その繰り返しだった。


────────────────────────


「もう地形が変わっちゃったよ?村なんて跡形も残ってないよねぇ?もうどうでもよくない?」


煽りながら、奴は再度火球を作り出し、膨張させていく。


そして、何度目かも分からないほどの暗転を味わう。


────────────────────────


目覚めても、目覚めても、目の前には奴の気色悪い笑顔がある。


「君じゃ結局、なんの抵抗も出来ないんだよ。僕は上位悪魔マルコシアスだよ?何回でも何回でも何回でも…………消し炭にしてあげる。まぁ、これでも死なない『腐人アンデッド』君のことは、評価してるんだけどね。」


そう。

どれだけ焼き尽くされようと、灰になろうと、死は俺を受け入れてくれない。


『再生』するんだ。


じゃあ、『再生』の原理って何だ?


消し炭になっても生き返る理由は?


何度も何度も殺されることで、なんとなく原理がわかってきた。


これは元々『俺』を構築していたものが、再度集まることで再生している。

さらに、どれだけ吹き飛ばされようと、元に戻ろうとする力が働き、一点に集まる。


なぜ消し炭になった身体が再度集まることで人体を構築し直せるのかはまだ分からない。


だが、それが、「アンデッド」のルールなのだろう。


これを利用する。


元に戻ろうとする力が働くなら、内部から俺に向かって圧力をかけることができる。


だから何度も何度も何度も何度も何度も、消し炭になった。


あいつの肺の中に、俺の灰が溜まるまで。


「まだ諦めてくれないの?もう焼けるのは辛いでしょ?」


あぁ。辛いよ。

辛いに決まってる。


でもさ、お前も言ってたじゃん。


「俺はもう……心も体も腐ってんだよ……!」


奴の蔑むような目が、鬱陶しくも清々しい。

自分が今、どんな存在なのか再確認させてくれる。


「自分でやっといてこんな事を言うのもアレだけどさ……哀れだね。」


奴はゆっくりと地上に降りてくる。


もうあれほどの大火球を出せるエネルギーは残っていないんだろう。


「君には、こうやって、じっくり炙ってあげたほうがよさそうだね。」


掌に小さい火球を生み出し、俺に押し当てる。


「ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ……!!」


悲鳴を聞いて、奴は嬉しそうに嗤った。


「やっぱり……こうやってじっくりいたぶるのもいいね……!」


焼け付く匂いが周囲に広がっていく。


段々と炭化していっているのが分かる。


『炭』が、風に吹かれて散っていく。


「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ…………」


地獄のような苦しみの中で意識を手放す。


────────────────────────


「がはぁっ……!?」


次に目覚めた時、奴は吐血していた。


大分俺を吸い込んだんだろう。

肺にかかる圧力で小刻みに痙攣し、身悶えている。


「何を……!?」


やっと体内にダメージが入る程度の『灰』が溜まったみたいだ。


ネックレスはもう焼け落ちていたが、『魔除けのお守り』だけは焼けずに残っている。

おそらく、多少なりとも『魔族』の力に抵抗がある代物なのだろう。


俺は、『魔除けのお守り』を握りしめ、奴をぶん殴る。


骨と骨がかち合う、鈍い「グチャッ」という音が響く。


「ぐっ……!!そんなものっ……!そんなものでっ……!!」


マルコシアスは暴れながら、恨み言を呟いている。


「消えろよ!!!」


鋭い爪が俺を切り裂く。

そんな事はもうどうでもいい。

すぐ治るから気にしなくていい。


拳に力がどんどん込められていくように感じる。

まるで無尽蔵の力が、恨みが、湧き上がってくるみたいだ。


再度全力で奴をぶん殴る。


「ごぶっ……」


また鈍い音が響き、奴は倒れ込む。


馬乗りになり、何度も何度も殴りつける。


「がはっ……!!やめろ……!下等種族がっ……!!」


奴はジタバタと暴れながら、掌から火球を作り出し、俺を一気に焼き焦がす。


逆効果だ。


生物である限り、呼吸をする限り、嫌でも俺の『灰』は取り込むことになる。


「ごふっ……!!」


肺への圧力が強まったのだろう。

俺は殴る手を止めない。


「まてっ……!!やめろっ……!!がっ……!!」


今は、この怒りを、悲しみを、後悔を 、全てぶつけてやらなきゃ気が済まなかった。


気が、済まなかった。


「はぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!!」


「ぅ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!!」


奴の悲鳴と俺の咆哮が混ざり合い、汚い音を響かせる。


────────────────────────


やがて、奴は動かなくなった。


事が終わり、呆然と周囲を見渡す。


何も残っていなかった。


隕石でも落ちたかの様な焼け野原。


地獄絵図だ。


大きなため息をつく。


油断するとまた涙があふれ出して来そうだ。


それに、俺の一部が奴の肺のなかにまだ溜まっているため、ところどころ再生せず、痛々しい事になっている。


また吐き気がこみ上げる。


今日だけで何回吐くんだろうか。


────────────────────────


「おい……お前……何したんだ……」


村の入口だったほうから声が聞こえた。


ゆっくりとそちらに顔を向けると、男女が3人いた。


奴らは俺の姿を見て、まるでこの世のものではないものを見た様な顔をした。


身に付けている装備や、人数からして、冒険者であることがわかった。


「何したのかって聞いてんだよ!!」


奴は耳障りな怒声を上げ、剣を俺に向けてきた。


「お前らこそ……何してたんだよ。さすがに遅すぎるだろ……」


「なんだと……?」


奴は怪訝な表情で俺を睨みつけてくる。


俺は嘲笑う様な表情で続けた。


「爆音にビビって手出しできなかったのか?……野生動物かよ。」


奴はなんか震え出す。


「ふざけるなよ!!魔物が!!」


そっか。怒ってんのか。

安いな。


誤解を解こうという気にもならなかった。

お前らみたいな正義感面したバカがのさばってるから

争いが終わらないんだよクソ……


「魔物……?違うな。俺は『腐人アンデッド』。勇者も魔物も殺して、平和を取り戻す者だ。」



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