1話 「間違った始まり方」
※閲覧注意
とても残酷な描写を含みます。ショッキングな表現が苦手な方は閲覧をしないで下さい。
また、閲覧中、気分が悪くなる可能性があります。
十分注意してください。
なんで皆、俺の妹が死んでるのに黙ってるんだ?
誰も心配の声をかけないんだ?
そうか。みんな死んでるからか。
俺だけしか生きてないんだ。
ここには俺しか居ないんだ。
なら……
「俺も……一緒に……」
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俺は村の木こりで、毎日木を切って、街に売りに行っている。
親は小さい頃にいなくなってしまい、村の皆や、妹の助けを得て、ここまで生きてこれた。
この世界は「魔物」と呼ばれる存在がいて、人間に害をなす。
そのため、「冒険者」とか、「騎士」とか、「勇者」とか、そういう職業の奴が魔物を狩ってくれている。
とは言うが、俺には全く無縁の世界だし、実は魔物には会ったこともない。
多分、経験値(?)とか、スキル(?)のために、冒険者達が狩り尽くしてしまっているからなんだと思う。
今日も、木を切りに行く。
斧を持って、大きな籠も持って、魔除けのお守りもつけて、玄関に座って靴を履く。
「お兄ちゃんいってらっしゃーい。気をつけてねー?」
いつも通り、妹の見送る声が聞こえる。
この声が、俺の一番の「お守り」になる。
振り向いて、一言。
「行ってきます。」
妹はにっこりとほほ笑んだ。
母親譲りの綺麗な目と、金色のネックレスがキラキラと光っていた。
それを見て、俺もついつい微笑んでしまう。
そして再度「行ってきます。」と告げ、家を出る。
これが、妹と交わした最後の言葉になるなんて、思えるわけがなかった。
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山に登り、木を切る。
切った木材を河に流し下流にため、回収する。
こうすると、運ぶのが楽になる。
そうしたら街に下り、木を売りに行く。
村の近くの山の木は質が良く、良い値で売れる。
それを知ってたから、木こりになった。
ここまで育ててくれた村の皆に、恩返しがしたかった。
何より、俺をここまで支えてきてくれた妹を、幸せにしたかった。
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街での用事も終わり、村に帰る。
いつも通りの見慣れた山道だが、今日は様子が違った。
山上から、魚の脂のような生臭い匂いが漂ってくる。
気持ち悪いなぁ……と思いながら、服で鼻を覆って山を登っていく。
はっきりと異変に気づき始めたのは、村の周辺まで来てからだった。
明らかに匂いが強くなっている。
吐き気がするような濃い匂い。
生温いような、微妙な焦燥感を感じ、少し早歩きで村に向かった。
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村につながる道を早足で進み、村の前に立ち尽くす。
村は、赤黒く染められていた。
家々に血が飛び散ったように付いていて、何かの肉のようなものが張り付いている。
元の形がわかるものも、元々何だったのかも分からない塊もあった。
息を切らしながら、早足で村の中を歩いていく。
村の家からは誰の声もせず、俺の激しい動悸だけが耳の中で反響して聞こえる。
周りの家の凄惨な状況などもう目に入らなかった。
とにかく妹の事しか頭になかった。
家の前まで着き、震える手足を急がせポケットから鍵を取り出す。
そして、家のドアに鍵を差し、回す。
そして、ドアノブに手をかけ開けようとするが、ドアからは「ガチッ……」という音がして開かなかった。
慌ててもう一度鍵を差し込み、回す。
そして、再度ドアノブを引く。
ドアは開いた。
あっ……
気付いてしまった。
元々ドアが開いていたから、一度鍵をさしても開かなかったのだと。
「ただ……いま……」
こんな状況でも、つい口にしてしまう。
いや、こんな状況だからこそ、返事が返ってくることに望みをかけたのだろう。
だが、いつもの「おかえり」はない。
恐る恐る家の中に入っていく。
いつも妹がいるはずのリビングには誰も居ない。
それを見て、段々と意識が鮮明になってくる。
そして、嫌な思考が脳内を巡り続ける。
妹はどこに行った……!?
無事なのか……!?無事なんだよな……!?
家を飛び出し、外を再度見る。
赤黒く染まった世界が、再度目の前に飛び込んでくる。
「ぁ゙っ……ぉ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙っ…………」
急な吐き気と目眩が襲い、フラフラとしながら、当てもなく妹を探す。
もはや意味がないことは分かっていた。
この状況で妹が無事なわけがない。それはもう分かっていた。
理解したくなかった。
未だに全てが、嘘だと信じてた。
信じないともう立ってもいられなかった。
だって、ありえないから。
なんなんだよこれ。
気持ち悪い。なんでこうなる?
俺達が何したっていうんだ?
天罰とか言うのか?
なんの神だよクソがクソがクソクソクソクソクソクソクソクソクソ……!!
もはやまともな思考なんかできなかった。
狂ったように同じ場所を何度も何度も往復して、まだ生きている人を、妹を探す。
家はもちろん、妹が働いていた店や、妹の友達の家、子供の頃に遊んだ場所など、様々なところを考えなしに探し続ける。
息を荒げながら、ただ同じ場所を繰り返し動き回るだけの俺は、外から見たら滑稽かもしれない。
でも、俺にはそれしかできることが無かった。
何度目かも分からないほど辺りをぐるぐると見回り、そして、その度に家に妹がいるんじゃないかという希望を込めて帰宅する。
……………………
……………………
……………………
あ。
いた。
『これ』がつけてるネックレス、俺があげたやつじゃん。
貯めてきたお金で誕生日に買ってあげたネックレス……
ずっといたじゃん。ここに。
気づかなかった。
なんで?
なんで?
なんで?
いや、違うから、俺が気づかないわけ無いから。
これ妹じゃないから。
『それ』に手を伸ばし、ネックレスを手に取る。
「なんでお前が付けてんだよ……妹のだから……返せよ……」
手先が震える、呼吸ができなくなる、涙が溢れ出してくる。
「は……?はぁ……?はぁ……!?なんだよこれ…………なんなんだよこれ!!!!」
遅れてやってきた恐怖と絶望で、世界が暗転した。
「はぁ゙…………はぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!!!!!?」
泣いているのか怒っているのか叫んでいるのか呻いているのか分からない、全て混ざった声がどろどろと流れ出る。
喉が枯れ、血を吐いても叫び足りなかった。
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瞼が開き、外の世界が目に入る。
しばらく気絶していたのだろう。
目の前の光景を見て、出来事が夢ではなかったことに気づき、再度吐き気がこみ上げる。
もう嫌だ。
「俺も……一緒に……」
いま自決しないと、無駄に迷ってしまうと思った。
腰に携えた斧を取り出し、躊躇なく脳天に叩き込む。
痛みを感じる間もなく逝ける。
そう思っていた。
だが、俺を襲ったのは信じられないほどの激痛だった。
「ぁ゙っ…………ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ………」
楽に死なせてすらくれないのかよ。と思いながらも、いずれ来るであろう絶命に身を任せた。
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いつになっても意識は途切れなかった。
ただただ激痛が襲い来るだけ。
「ぁ゙…………ぁ゙…………ぁ゙ぁ゙ぁ゙…………」
掠れたうめき声を上げながら藻掻き続ける。
もう嫌なんだ……終わらさせてくれよ……妹に……皆に会わせてくれよ……
(死ねない)
それが、頭の片隅に過ぎる。
いい加減、頭を割る斧の痛みも煩わしくなってきた。
俺の事を殺せないなら刺さってんじゃねぇよ。
無造作に斧を頭から引き抜く。
今までとは比べ物にならない激痛が走り、呻く間もなく失神する。
やっと死ねるのか。
─────
また目が覚めてしまった。
まだ俺は生きていた。
確信した、俺は『死ねなく』なっている。
失血で震える身体を起こし、『妹』に向き直る。
「ごめんな。俺、お前と一緒に行ってあげられそうにないよ。でも、俺も一人じゃ寂しいんだ。付いてきてくれ。」
そう言って、『妹』が付けていたネックレスを受け取り、首にかける。
またじんわりと涙が目に溜まる。
それを拭い、ため息と深呼吸が混ざったような息を吐く。
次に現実を見据えた俺の目に、もう涙は無かった。
生まれ育った家に心の中で別れを告げ、外に出る。
「とりあえず……埋葬しないと……」
───
「こんにちは、新生『腐人』君。」
空の上の方から、耳障りな声色の声がした。
見上げると、そこには、いわゆる「魔族」と言うやつであろう、黒く大きな翼に、毒々しい紫色の角を生やした生物がいた。
「アンデッド……?」
「そう。君は『絶望の底』を味わって、心が腐っちゃったからね。君はもう死ねない。だから魔族の仲間入りだよ。最近『勇者』共が随分と力を付けているからね。こっちも戦力が必要なんだ。」
ペラペラとよく喋る……
もう俺は『死ねない』
……そんな事はもはやどうでも良かった。
「……みんなをやったのは、お前か……?」
「……そうだよ。君は選ばれたんだよ『心体腐人』君。どうせもう君には何も残ってないんだからさ、その力で、一緒に勇者共をぶち殺そうよ。」
勇者がどうとか……魔族がどうとか……関係ない……
お前らみたいな争いをやめられないゴミクズ共がいるから、俺らみたいな無関係な弱者が皺寄せを喰らうんだ。
「は……ははは……」
乾いた笑いが溢れだす。
「……何笑ってるんだい?」
訝しげに魔族は見下げてくる。
笑い混じりに言葉が溢れてくる。
「勇者も……魔族も……俺がみんなまとめてぶっ殺して、争いのない世界を作ってやるよ。」
ニタっとした笑顔を浮かべてしまう。
「……調子に乗らないでね……?『腐人』風情がさぁ……僕が誰だか分かっているのかい?僕は上位悪魔の……』
俺は「魔族」に斧の切っ先を向ける。
「お前こそ俺の事を、アンデッドアンデッドって……俺にはなぁ……
『シンシア』って名前があるんだよ……!!」
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
ショッキングな展開が続くので、これからもお気をつけください。




